# 03
……最近翔陽がおかしい。
きっかけはあの日。どう考えてもそういう流れやろってところで雰囲気ぶった切られて、悶々とした想いを抱えて寝る羽目になったあの日からや。
あの日から、いい雰囲気になってもいざ事に及ぼうとするとのらりくらりとかわされることが続けば、そりゃ俺も気がおかしくもなりそうってなもんで。
基本的には俺の好きなようにさせてくれとる翔陽が、あの日以降確実に俺を拒んどる。
「やっぱり、前とちゃうやんな……」
一度、ついポツリと漏らしてしまったことがあった。あの日拒まれてしまった自分の手を見つめながら。
聞かせるつもりのない独り言やったけど、「え……」と掠れたような声が後ろから聞こえてきて、慌てて振り返る。
振り返った先で風呂に入っとったはずの翔陽が呆然としとる顔を見て、さっきの独り言が本人の耳に届いてしまったのだと知る。
けど、まだ確信を得とらんし、目の前で揺れる瞳に問い詰めることも出来ずに「俺も風呂入ってくるわ」なんて逃げた俺はとんだヘタレやった。
……まさか飽きた? 他に好きなやつが出来たとか……? けど、会って話しとる分には普段通りやし、あの翔陽が隠し事できるとは思えん……
考え込んどるところに鳴ったスマホの着信音に、今しがた思い浮かべた人物かとガバッと画面を見て、なんやおまえかい……と脱力しつつ通話ボタンを押した。
『オカンからの伝言〜』て脳天気な声で、別にいちいち言わんで良くないか? といったような内容を珍しくもまぁ律儀に伝えてきたツムが、話は終わったというのにいつまでも電話を切らんと何かを言いあぐねている様子に、本題はこっちかと察する。
「なんやねん。言いたい事あんならさっさと言えや」
『あー……翔陽くん、元気しとる?』
「は? お前ボケとんか? お前の方が翔陽と会っとるやろが」
……シャクやけど。
『……うんっ! 変わりないならええねや!』
ほんならな〜、なんて電話を切ろうとするツムを、ちょい待てやと引き止める。
「お前なんか知っとるんか」
『ナンカッテ???』
「チッ……わざとらしいねん」
『舌打ちはよくないでぇ〜サムちゃん!』
「……最近、翔陽の態度がおかしい」
『無視かい』
「で? 何か知っとるんやな?」
『あー……』
あー……はもうええねんはよ言えや。
歯切れの悪い片割れに苛立ちを覚えながら待つこと数秒。返ってきた『アカン、やっぱ言えんわ』に、こいつ目の前におったらどついたるとこやったぞと拳を握りしめる。
『サムに言わんよぉにって翔陽くんに口止めされとるからな〜 』
「……何やねんそれ」
『気になるんやったら本人に聞けや』
「それが出来んからお前に聞いとるんじゃろがいこのボケが!」
『ハァー!? そうやってお互い言いたい事も言われへんから今こうなっとるんとちゃいますぅ???』
「……ちょお待てや。お互い言われへんてなんやねん!」
『アッ…… 』
……こいつマジで腹立つな。アッ……て何やねん、アッて! 言っちゃった!みたいな態度とってんとちゃうぞ。
「お前マジで……」
『ッアー! ゴメ〜ンキャプテンに呼ばれとるわァ!じゃあな!』
「オイ、」
わざとらしい演技をしたツムが間髪入れずに通話を終了させて、無機質な通話音が響く。
「何やねんマジで……」
明らかに最近態度のおかしい恋人と、何か理由を知ってそうな片割れ。
これまで順調だと思っていた付き合いに暗雲が立ち込めた気配を感じて、俺は頭を押さえた──