『自覚』


「けんじろー何してるかなー。部活かー。」

そんな独り言は誰にも拾われることなく床に吸い込まれていく。
日向はスマホに入っている白布の連絡先を見るなり、そんな言葉を零していた。
いつも一緒にいる白布と会えないのは、日向にとってはかなり寂しく感じていた。さらには、白布が部活で忙しいのを知っているため、日向は一切連絡をとったりはしなかった。

「んーーー、会いたいなぁ」

いや、友達としてであって別に好きとかそういうんじゃなくて。は?好き?んーーー??

無意識に出たそれは、仲良い友達にも思うこと。それなのにも関わらず日向は動揺を示し、結局どういうことか分からず考えるのをやめた。



春高も終わり、3年生が引退した。そこからは、白布と瀬見がセッターとしてよく扱われるようになり、結論から言えば白布がレギュラーの座を奪い取ったのであった。白布は、先輩を出し抜こうがなんだろうが強いバレーをしに白鳥沢へ来たため、あまり瀬見に遠慮などしなかった。ただ、正セッターという重りがのしかかり、さらには新しいメンバーなこともあり中々上手くいかない。監督の鷲匠には怒鳴られてばかりの日々である。絶対に正セッターを維持してやる、そんな気持ちで毎日ひたすらトスをあげた白布の冬休みは、気がつけば終わっていた。


冬休み終了。日向にとってはやっと白布に会えると喜び、今日も今日とて朝早くから一山超える。少し早く着きすぎたかと感じつつも、ルンルン気分で教室に向かった。

「翔陽はや!」

「あっちゃんういーす!学校楽しみすぎて早く着いた!」

「うわー、学校大好きかよ。俺はもっと休みたかったわ。」

他愛もない会話。久しぶりなのもあり話が盛り上がっていく。気がつけば、ゾロゾロと登校してきたクラスメイト達も交じって会話に花を咲かせた。

あー、やばい。楽しい。早く、早くけんじろーに会いたい。

いや、だから別に好きとかじゃなくて友達として…


「翔陽?大丈夫か?」

日向が心の中で自問自答していると、顔に出やすいため百面相していたようで、そんな日向の様子に気がついたクラスメイト達が心配そうに声をかけたのであった。

「な、なんでもーー」

ない。
そう言おうとした時、教室の扉が開いて綺麗なブロンドベージュが目に入る。日向はその瞬間立ち上がり、自身を囲んでいたクラスメイトの脇をすり抜けてお目当ての人物に抱きついた。

「うお、日向。何、どうかした?」

「会いたかったから!充電!」

白布はまさかの歓迎に目を見開く。それと同時に、部活での焦りが吹き飛んだ感覚となり、笑顔で見上げてくる日向の頭を撫でた。
日向の言葉は本心である。もうこれに関しては恋愛だろうが友達だろうがどちらでも良い。会いたいという気持ちは変わらないのだから。そう思っていたはずなのに、日向は白布が優しい顔で笑って頭を撫でてくるのを見て、顔が熱くなるのを感じる。


俺、けんじろーのこと、好きなのかな?




「白布ー!バレンタイン何個貰ったんだよ!」

2月14日はバレンタインである。この時期になると、女子も男子も騒がしくなる。それは名門白鳥沢も同様で、学年でイケメントップ3に入ると噂の白布の机には朝にも関わらずどっさりと手作りお菓子が置かれている。それは一つ一つ個性を持っており、可愛らしくトッピングされていた。
恨めしい男子たちはというと、白布の机を見てはそんな質問を飛ばした。

「いやわかんないけど。」

「なっ!くそー!羨ましい!そんなこと言ってみてぇ!」

白布は別に嫌味で言った訳では無かったが、それを言われた側としては嫌味にしか聞こえない。男子達は嫌がらせとばかりに白布の髪をぐしゃぐしゃにし、それに白布は逃げ出すべく教室を飛び出した。

ドンッ

「ぐへぇ」

「うわ、」

教室を出たのはいいものの、勢いがよく誰かにぶつかる。突き飛ばしてしまった頭一つ分低い誰かを支えるために、白布は手を伸ばした。


「おー朝から仲良いなぁ。」

そう声をかけたのは1年4組の担任の教師であった。
白布はなんとかギリギリのところで突き飛ばしてしまった相手を支えることができたことに安堵し、3秒程バランスを保つとようやっと起き上がった。

「って日向か。」

「な!ぶつかってきた癖に偉そうに!」

「悪い悪い。」

プンスカといじけて見せた日向に、白布は謝罪を2回繰り返す。だが1つの疑問が白布の頭によぎる。
いつも朝練を終えてから来る白布と同じか、もしくはそれよりも早く着いている日向が今日に限って遅めの登校。単なる寝坊かとも思ったが、どうやら違うらしい。その証拠に日向は両手に紙袋をどっさりと持っている。

「日向今日は遅いんだな。」

「あー!聞いてくれよ!友チョコって言ってみんながくれてさ!」

日向はなんとも嬉しそうに紙袋を抱きしめて見せた。それを邪魔するように、クラスメイトは日向に野次を飛ばした。

「日向、チョコは羨ましいが…友チョコって直接言われるようじゃ同情するぜ!白布を見ろよ!全部本命だぜー?」

「本命かは知らないけど。」

「本命だろ!じゃなきゃこんな豪華なわけない!」

そろそろ噛みつかれそうな勢いに苦笑いを零す白布。そんなにチョコを貰っても食べるのが大変であるため、白布としては100%喜べるかと言われればそう言う訳でもない。

その頃日向はというと、白布が本命を貰ったというのを聞き少し気持ちにモヤがかかったような感覚に陥った。

「日向?」

「あ、ごめん。も、もうすぐチャイムなるし入ろうぜ!」

日向はそんな気持ちに知らないフリをして、白布の背中を押して教室に入った。



「し、白布くん!」

移動教室から戻る途中。昼休みに差し掛かり、日向は早く戻って飯!と白布と話してた時だった。白布に見知らぬ女子が声をかけたのだ。女子の少し後ろにはその友人か、何人かの女子がキャアキャアと騒いでいる。

「はい。」

「あ、の。えっと…今ちょっといいかな?」

「え、あー…」

白布はなんとなくこれから起こるであろう事が分かった。正直に言えば日向と弁当を食べる時間が無くなると、嫌な気持ちはあったものの放課後は部活があるため時間は削れない。白布は仕方なく日向に先に行くよういい、女子に着いてくことにした。


「あ!」

1人寂しく教室に戻ってきた日向だが、移動教室に筆箱を置いてきてしまったようで急いで取りに向かう。

いつもならけんじろーが途中で気づいてくれるのに!

白布に随分と甘えて生活している日向は、これからの白布がいない日常を考えると自分でもヤバいと思い始めた。

「あった!俺の筆箱ー!」

可愛らしいぬいぐるみのペンケース。女子もよく使っているメーカーのそれは、よくいじられることもあるが幼なじみが誕生日にくれたものだったためかなり気に入っている。
日向はペンケースにごめんなぁと謝ると教室を出た。
さて、白布は教室に戻ってきたか。
戻ってきていることを願い、日向はまた同じ道を戻って歩く。

「あのね、白布くん」

突然聞こえた知っている名前に、日向の動きは止まる。聞こえてきた方に視線を向ければ、人気の少ない屋上へ繋がる階段。きっと今この廊下を通れば、階段の踊り場にあるデカイ鏡に自身が反射してしまうため、バレないようにと階段の真下に身を潜めることにした。

「初めて会ったのに、ごめんね。えっと、私…白布くんの事が好きなの。それでね、付き合って欲しいなって…思ってて。」

ガツン。日向は頭を殴られたような気がした。これは白布に対しての告白で、告白したのは先程現れた女子だろう。
女子の中でも小さくて、髪の毛サラサラで、色白で、可愛らしい女子だった。

けんじろーはなんて返事するんだろう。
もしかしたらオーケーするかもしれない。

考えた瞬間、ドッと日向は胸が苦しくなった。それと同時に、涙が溢れて止まらない。



あぁ、きっと俺は…




ーーけんじろーのことが好きなんだ。





「すみません。あなたの気持ちには応えられません。」

シンプルに伝えた断りの言葉。告白してきた女子は、それを聞けば走り去って行く。
白布は日向が待っているであろう教室に向かうべく階段を降りた。

「ひっく…」

誰かのしゃくり上げるようなそんな声が白布の耳に届く。聞こえた方には、階段の真下であるスペース。そこに小さく蹲った日向がいた。白布はそれを見つけた瞬間、日向の元に駆けつける。
近づけば近づくほど聞こえる声は、悲しさを著したそれである。

パタパタと近づいてくる靴音。日向は驚いて顔を上げたが、それを酷く後悔した。


告白を聞いていた悪趣味なやつだと言われるかな。いや、けんじろーはそんなヤツじゃない。でも何で泣いてるか聞かれたら、俺きっと言っちゃうよ。好きだって。言ったらどうなるんだろう。


今まで築き上げてきた白布との関係を壊したくない。その一心で、日向は無理やり笑顔を作った。白布はそんな日向に胸が痛くなるのを感じ、隣に腰を下ろした。

「…別に無理に話せとは言わない。」

「…うん。」

「けど、俺は日向にそんな顔して欲しくない。」

「…ははっ。なんだよそれ。俺、今そんな酷い顔してる?」

また悲しそうに笑う日向は、どうも上手く笑えない自分自身に苛苛していた。
笑え、笑え、心配かけるな。そんな呪文を心の中で唱え続ける日向を、白布は見ていられずに抱きしめた。

「全部、吐き出せよ。」

その瞬間、プツリと日向は久しぶりに声を上げて泣いた。





「あら珍しい。」

白布は寝てしまった日向を背負い、一旦休ませようと保健室を尋ねる。保険医は日向を見て驚いた。

「日向くん程保健室が似合わない子はいないわよね。ふふ。えっと…君は、」

「1年4組の白布です。」

「白布くんね。ここまで連れてきてくれてありがとう。そのついでに日向くんをベッドに寝かせて欲しいな。」

「わかりました。」

すやすやと眠る日向を見て、白布は少し安心した。
ただ、未だに何故あんな悲しい顔をしていたかは分かっておらず、だけど日向が最後に言った怖いという言葉が気になって仕方がないのである。

「あらあら、大分泣いたみたいね。日向くん。」

「はい。」

「そう。白布くんは、日向くんと仲が良いの?」

「え、あ、はい。」

突然話を掘り下げ始めた保健医に驚きつつも、すぐに対応する白布。
保健医は終始嬉しそうに微笑み、話を続けた。

「日向くんってすごく明るい性格でしょう?だから、きっと何か溜めてしまってる部分があると思ってね。心配だから私1回、ストレスとか溜めてないかい?って聞いたの。だけど無いって言うのよ。無いわけないじゃないって言ったらね、本当にないんだって言うもんだからビックリでしょう?そこでね、ピーンと来たわ。きっとそれは近くにいる誰かのおかげだってね。その誰かはもしかしたら白布くんなんじゃないかしら。」


白布は保健室を出た瞬間、保健医の言葉を思い出して掌を固く握りしめる。
日向が初めて泣いた。そして、その理由を聞くことも出来なくて、ただひたすら日向を辛いままにしてしまった。また、泣くまで気づいてやれ無かったことに白布はショックと同時に悔しかったのだ。
白布はチャイムが鳴ってしまったため、入室届を職員室へ貰いに行くために歩みを始めた。



「お、おはよー!けんじろー!」

泣いた翌日。
自身の友人だと思っていた存在に対しての恋心に気づいたことと、告白されている現場を見てしまい大泣きしてしまったことで気まづさはMAXであったが、日向はいつも通りを装って白布に声をかける。

「はよ。朝から元気だな。」

日向は白布の思っていたものとは違う反応に驚いたものの、その通常通りの態度に安堵した。