『自覚』


入学式も終わり、各学年ごとにクラス分けが発表された。
日向は自身の名前を見つけ次第、すぐさま白布の名前を探す。そして同じ列にあった求めていた名前に、心の底から喜んだのだった。

「お。あった。」

背後から聞こえた聞きなれた声に、日向は振り向き笑顔になる。

「今年も一緒だな!けんじろー!」

「よろしくな、日向。」



「お!翔陽ー!!」

「来たな日向ぁ!」

白布と日向が2年4組の扉を開けると、またもや同じクラスだったクラスメイトが待っていたとばかりに声を上げる。
そしてそのクラスメイトが日向の後ろにいる存在に気づけば、やはりなと全員の心が1つとなった。

「名簿見た時からなんとなく、お前ら一緒にくる気がしてたわ!」

「相変わらず仲良いな!」

「まぁな!!俺もまさか一緒だとは思わなかったけど!」

仲良すぎて引き離されるかと思ったァ…と日向が苦笑いを零せば、日向の頭に何かが直撃する。その拍子で潰れたような声が出た。
1年の時からの付き合いである教師が日向の頭を軽くチョップしたのだ。

「仲良いから引き離すなんて意地悪なことは考えてないから。ほらちゃっちゃと座れー」

教師は日向と白布の背を押せば、ゾロゾロと出席番号順に座る生徒達を横目に教卓についた。
そして始まったHRは、新たな環境を知らせるようなそんなものだった。



モヤッ

白布は眉間に皺を寄せる。それは推薦で入ってきて早々、我らがエース牛島さんに宣戦布告をしている後輩や、関われば面倒くさくなるとわかっている先輩に対してではない。では何処からなのか。白布の視界にはいつも行動を共にしているオレンジ頭が揺れる。

日向は男女共に仲が良い。それは一年生の時から変わらず、クラス替えをした今現在も進行形である。だが、白布を長時間放置することは1度たりとも無かったため、珍しいものであった。
女子がキャアキャアと高く笑う。それに照れたように頬を朱に染める日向を、白布は面白くないとばかりに見つめた。日向が女子と戯れている姿を恨めしく思った訳では無い。ただ、白布は女子と話して百面相している日向を見るとモヤモヤと心が曇った。

「これとかはー?」

日向の隣に座っていた女子の肩が日向の肩に触れたその瞬間、白布はぐしゃりと机に置いていたルーズリーフを握りしめた。


「お、おい…白布やばくね?」

「あ?…ひっ!怖っ!」

男子達は心の中で、“日向を睨みつけている(誤解)白布“を発見しては、何やったんだよ日向と叫んだ。

その日から日向は女子といる時間が増えた。白布はもちろんのこと、他のクラスメイト達も感じていたがまぁ日向だしで片付いてしまい、特に変わらぬ生活を送っていた。ただ1人を除いて。
白布はあれ以来顔には出さないものの、やはりモヤモヤとした気持ちは治まらず日に日に不機嫌が蓄積されていった。日向の前ではそれを出すことは無かったが、ワーギャーと騒ぐ部活の後輩に対しては少し出してしまっていた。

「お前なんかあった?」

いつも誰に対しても冷めた態度で、同じポジションの先輩である瀬見には可愛くないと言われている。さらに後輩の特に五色には辛辣な言葉を放っているため、不機嫌に見える白布の姿はほぼ日常茶飯事で真の不機嫌には気付かれていなかった。
だが少しいつもと違うような感じがした。それは部活中白布と一番長くいる川西である。

「別に。なんで。」

「感」

「は?」

「あー、あと。お前最近サーブ調子良いなって思ったら、サーブん時ボールを見る目が怖すぎてなんか嫌なことあったのかなーってさ。」

サーブに関して身に覚えのある白布。
サーブを打つ際、モヤモヤからくる苛立ちを全てボールにのせてやろうと考えたのだ。それは上手くいったのか、いつもよりサーブのキレが良かった。

「…最近、モヤモヤすることが増えてストレス発散って感じでサーブ打った。」

「ストレス?」

「あぁ。なんでか分からないけどモヤモヤするんだよ。」

休憩も終了を迎え、その話を続けることはできなかった。白布は川西に気付かれていたことでもっと集中しようと改めて自信に言い聞かせ、川西はそんな白布に首を傾げた。


川西が白布のモヤモヤの原因が分かったのは案外早かった。白布からの話にでてきたモヤモヤは、きっと誰かに対しての気持ちで態度を見ていれば部活の連中でないことは一目瞭然である。では何が白布をそこまでさせたのか。
川西は移動教室のため2年4組の前を通る。ちらりと見えた教室の中には、白布がいたがその周辺に日向の姿は見えなかった。それに疑問符を浮かべて足を止めると、白布の視線の先に目を向ける。

「(なるほどな)」

女子に囲まれる日向の姿。日向の身長とあの童顔ならば女子に混ざってもあまり目立たない。そんな日向を女子が可愛がらない訳もなく、案の定日向日向と構われている。

「(嫉妬してんなー、こりゃあ)」

川西は苦笑いを零しながら止めていた歩みを進めた。



「白布のモヤモヤって日向?」

川西は部活終わりのストレッチに入るなり、白布の隣に腰を下ろした。そして休み時間に見た光景を思い出しながら尋ねたのだった。
白布は川西の言葉に図星を付かれて目を見開く。白布がモヤモヤするのは、日向が視界に入る時に限ってだった。だからといって日向に苦手意識を持ったりは無く、白布は自身の気持ちがただただ不思議であったのだ。

「多分、日向が女子と話してるから、無意識に嫉妬してたんだろ。」

「は?」

「いや、だって日向を見てる時のお前の顔凄かったし。」

白布は言葉を飲んだ。
考えてみれば、確かにモヤモヤしている時は日向は自身の隣ではなく、女子と話している時であった。だが女子と話していることに対して羨ましい等は思ったことはないため、川西の言う嫉妬の意味が分からなかった。

「俺は別に女子と話してるからって嫉妬しない。」

「そっちじゃない。日向が自分じゃなくて女子と話して赤くなってるのに嫉妬してんじゃないの。」


お前、日向のこと好きじゃん。




「はぁ」

“お前、日向のこと好きじゃん“

白布は布団に入るなり天井を見ながら川西に言われたことを思い出す。俺は日向のことが好きなのだろうか、そんな事を自問自答していれば一度嫉妬した事を思い出した。


学祭期間中。川西のクラスの屋台に行った際も、川西が日向の頭を撫でているのが気に食わず直ぐさま2人を引き離したのも、可愛い可愛いと連呼し、日向ならワンチャンいけるなどと言っている奴らに舌打ちを零したのも全部全部“友達“として大切である日向を独占したいがためだった。今考えてみれば、それは“友達“としてでは無かったのかもしれない。
日向が俺ではなく他の奴に触られるのも、笑いかけるのも嫌で嫌で仕方がないのだから。



朝練を終えて教室に辿り着くと、いつものように笑顔で俺を出迎える日向にドクリと脈打った。この感覚を知っている。何度も何度も日向によって引き起こされた感覚。



あぁ、俺は随分前から日向が好きだったみたいだ。



ブーッブーッ

白布の携帯がバイブする。時刻は24時。こんな遅くに誰だと白布はペンを置く。
白布はいつなら寝ている時間。それでも起きているのは、インターハイ予選まで1ヶ月をきっており、たまにしかやらないバレーノートを書いていたからである。
先程の音から何秒かしてまたまた着信を知らせる。
溜まっている通知に目を通せば、チャットアプリで何人かから祝いのメッセージが入っていた。そこで自身の誕生日なことを思い出す。
最新のものから段々と返していくなり、連絡をくれているのはバレー部ばかりで、そこに牛島の名前が無いことに少しだけ笑えた白布であった。

日向翔陽

ようやっと最後だとスクロールをして出てきたのは、太陽のようなそんな名前。
あの日好きになったと自覚してから、毎日が意識し続ける生活で、今だって嬉しさのあまり変に鳥肌がたってしまった。それと同時に早く会いたい気持ちになり、俺はノートを閉じた。



「けんじろー!誕生日おめでとう!」

教室に入るや否、一番に元気な声が俺を迎える。それに釣られて全員が祝福の言葉を投げかける。

「はい!」

シンプルな包装をされた袋を受け取る。まさかプレゼントまで貰えると思っていなかったため、思わずえ、と零す。

「プレゼント!俺だけじゃセンスがちょっと、ほんっっのちょっとだけな?心配だから女子に手伝ってもらったんだ!だから多分喜んでくれるはず!」

ニィと効果音がつきそうなほど万遍の笑みを見せる日向。白布は日向の話を聞き、だから最近女子と一緒だったのかと腑に落ちたと共に、胸を撫で下ろした。


サーブ練習。
川西は隣でサーブを打っている白布を見て少しだけ安心した。
以前とんでもなく恐ろしい顔をしていたのを目撃して以来、川西はサーブ練習中はしばらく白布を視界に入れないようにしていた。だが白布の悩みを解決するために話して以降、あまり殺気を含んだそれは見えなくなった。今に至っては通常運転で、安定のサーフを打っているため、完全に解決したことが見て取れたのだ。


「タオル変えた?」

白布は機能性を優先し、あまりブランドにこだわりは無いタイプである。特にタオルなんかは無地のどこにでも売ってるようなそんなタオルを使っている。そんな白布が有名スポーツブランドのタオルを使っていたため、川西は珍しいとばかりに声をかけた。

「あぁ、うん。」

「へー自分で買ったの?」

「いや、誕プレで貰った」

誕プレ、白布の言葉に川西はそういうことかと理解した。
白布に誕生日で物をあげる仲なのは、親か日向くらいしか思い浮かばない。親からの誕生日プレゼントならば、いつものタオルをもっと使ってから変えるはずだ。だのに、昨日誕生日であった白布がすぐに使い出している。そうなれば日向からの誕生日プレゼントに行きつく。
その予想は当たっていたようで、白布はタオルで汗を拭うなり大切そうにステージに置いていた。

「(はやくくっつけよな)」