『距離』


インターハイ、白鳥沢学園男子バレーボール部は準々決勝まで駒を進め、井闥山学園とフルセット戦いデュースまで持ち込んだものの敗れてしまい幕を閉じた。
そして次に行われるのはーー

「テスト!忘れてた…!」

白布の活躍を見る為にテレビにずっと引っ付いていた日向は、あと1週間後に行われる期末テストの存在を思い出しては顔を青くする。

「今からでも間に合うだろ」

「いや!俺、けんじろーとかと違って寝てるし、まじでなんっっも分かんないからっ!」

助けてくれよー、と白布に泣きつく日向。白布は慣れた手つきで日向を引き剥がしては、椅子に座らせる。学べよと思いつつも律儀にワークを開き出した白布は、やはりどうしようもなく日向に甘いのだった。


「日向、これ基礎だから」

「うっ」


「ここ中学の応用だけど」

「ひっ」


「まず暗記しないと解けないから」

「うーー」


中学から勉強が出来なかった日向にとって、今回のテストは中学の応用が多く出ているため周りより分からないことだらけだ。
白布はそんな日向に頭を悩ませつつも、赤点を取らせないために厳しく教えていく。


「日向ー、俺が勉強みてやろうか?明日俺ん家こいよ!」

良く言えばクール、悪く言えば冷たい白布。通常運転だとしても、傍から見ればどうしても日向が可哀想に見てくる。1年時から同じクラスだったクラスメイトは通常運転を知っているためまたやってるよと笑うが、他クラスの者は日向を心配して声をかけた。

「ありがとう!でもけんじろー教えてくれてるから大丈夫!」

「でもさ、白布くんって男バレのしかもレギュラーだろ?忙しいんじゃね?」

間接的に迷惑だろと言われている。そんなつもりで言った訳では無いのだろうが、そう聞こえてしまい、日向は眉を下げて確かにと零す。

「だろ?だからーー」

俺が教えてやるよ!

その言葉は白布によって遮られてしまった。
教室が静まり返る。

「へ?」

「迷惑じゃないから。日向は俺が教えるからいい。」

さっさとやるぞ。
そう言って日向の肩を叩く白布に、日向は呆然としながらも二つ返事を返した。

ちなみに日向に声をかけた他クラスの者は、日向のクラスメイト達に同情されそれぞれにドンマイと肩を叩かれたのであった。



土曜日。体育館の点検の関係により午前で練習が終わる男子バレーボール部。各々4日後に迫るテストに向けて遊びに行くわけでもなく、机に向かっていた。そんな中白布はというと、自身の部屋で行われる日向とのマンツーマンの勉強会を考え、片付いた部屋にさらに磨きをかけた。



「うおー!ここがけんじろーの部屋か!」

日向は白布の部屋を見るなり目を輝かせ、けんじろーっぽいと笑う。白布が、そんな日向は部屋汚そうだよなと軽く悪態を吐けば、言われた本人は分かりやすく頬をふくらませる。

「寮かー」

白布は2年生に上がるのと同時に寮に移った。それは朝早く夜遅い部活に加え勉強時間などを作るため。通えない距離ではないが、帰っている時間がもったいないと感じたのだ。
そんなこともあり、今ではお昼を食堂で食べる白布に日向も昼を持参して着いていく。日向の行動は、昼は一緒にいるのは難しくなるという白布の予測をぶち壊していったのだ。

白布が日向を座らせようやっと始まった勉強会は、日向の1番苦手とする国語から始まった。

「社会とかもそうだけど、白鳥沢(うち)は進学が多いから共通テストに近い形式でテストが作られる。だから回答覚えるだけじゃダメで、内容を一つ一つ理解することが大事だから。」

「そう言われると思ってちゃんと教科書読んできた!」

毎度のことで、日向は白布にドヤ顔をしながら親指を立ててみせた。




ーーカチカチ

静かな部屋に響き渡る秒針。
2人の距離は少し動けばキスできそうなほど近い。

なぜこうなった。

日向の真正面に座り勉強を見ていた白布。先程までワーギャー言っていたものの、そのうち分かってきたのか集中のあまり静かになった日向。それを眺めていた白布は、漢字間違えに気が付き身を乗り出した。

そこで冒頭に戻る。
指摘しようとした白布と、それに反射的に顔を上げた日向。バチりと交わる視線は、お互いに心臓を脈打ち離せなかった。
ぼそりと白布がごめんと零す。それにより日向もようやく体を動かすことに成功するものの、何やら気まづい雰囲気となってしまった。日向は何かないかと話題を探すも上手く見つからない。そんな日向を見て白布が声を上げた。

「専門の専の字、上に点いらない。」

「うえ!?」

突然の指摘に驚くが、漢字弱すぎとバカにされれば反抗を見せる日向。さすれば戻る空気感に、白布はホッと胸をなでおろした。



「今日はありがとな!」

そう手を振った日向は白布の部屋を後にした。
白布は先程までずっと直射日光を独占していたこともあり、1人となった部屋はなんだか寂しく思えた。いつもとなんら変わりないのに。
そして、白布が恋を自覚してから初めてのアクション。キスができそうな程の近距離に白布は今になって顔に熱がたまり、日向の顔を思い出す。

「あの時、キスしてたらどうなってたかな」

今までのモノが全て崩れて、もしかしたら拒絶されてしまうかもしれない。きっと日向の事だからどうすればいいか分からずに避けてくるかもしれない。

ーー危なかった


一方日向は、帰路につきながら先程の事を思い出して顔を真っ赤にしては、忘れようとチャリを我武者羅に走らせていた。

ちょっとあの雰囲気やばかったよな…!俺が好きなことバレてないよな!?バレたら終わるぞほんとに…!

「うわぁぁぁ!」

そんな風に叫びながら、日向は自宅を目指した。