# 03


 日向と影山が中学校に入る頃、日向は作れない料理など無いと言うほど料理の腕を上げていた。
 何かが劣ると言うことは、他の何かに優れていると言うこと。料理はもちろん火の通るパチパチとした音やジュージュー焼ける音など聴覚も大事なのだが、それがない分嗅覚や視覚、味覚が日向には人並み以上に備わっていた。否、鍛えたとも言うだろう。毎日毎日、火の通り、油の跳ね、香る匂い、全ての感覚を研ぎ澄ませ、観察する。初めは何度も失敗したが、感覚を掴み覚えて仕舞えばもはや直感で食材の何もかもがわかる様になっていた。
 レシピを研究するのも楽しいし、栄養やバランスを考え、バレーボール選手に、影山に何が必要か考えるのも楽しかった。
 そして中学校に上がると同時に、日向は影山の食事の面倒を全て見ると言い出した。
 最初は影山の親が流石に悪いと断ったのだが、一口、影山が日向の料理を食べると、あの鋭いキツイ瞳を煌めかせて「毎日こいつの飯が食いたい!」とごねた。
普段聞き分けのいい日向も、作りたい!とごねたので、「じゃぁ3ヶ月だけね…」と双方の親が妥協した。
 それがいけなかった。
 影山は日向より少し背が高いだけだったのに、日向の料理を食べる様になって信じられないほど背が伸び、体格もしっかりとアスリートのそれになりつつあった。
健康な食事はプレーにも大きく影響し、元々備わっていた影山の天才的な才能と合間って県内でも有望な中学生バレー選手となったのだ。
 そして影山の親は日向に食費を毎月払い、きっちり3ヶ月ではなく、3年間影山の食事管理をしたのであった。


 中学の時に調理検定一級を取った日向は、高校でももちろん影山を支えようと、同じ高校に入ることを約束した。
 影山はやはり宮城県トップの強豪校・白鳥沢学園に入ると言い、日向もそれについていけるよう人生で1番と言っていいほど勉強した。
 日向はてっきり影山は白鳥沢から推薦をもらっていると思っていたが、推薦がなくとも受験すると言っていたのでその言葉を信じて、寮生活を心配する親の反対を押し切って白鳥沢を受験したのだ。

 しかしどうだ、日向と影山は合格発表当日、合格者の受験番号が張り出された掲示板の前で、持っていたカバンをどさりと落とした。

『ば、馬鹿野郎ーーー!!!!』

 日向は影山に手話でそう言った。

「……」

 いつもは手話で言い返してくる影山もこの日ばかりは口から魂が出ている様で、なんの反応もしなかった。

『なんでお前が落ちて、俺が受かってんだよ!!お前俺と一緒に勉強したよな!?』

「……」

『一体なんの勉強してたんだよ!!!』

「……」

『うあーーー!!!!』

 日向は頭を抱えた。
 影山は推薦ではないがバレーの実力も考慮されるスポーツ科を受け、白鳥沢を落ちても別の高校に受験できるが、日向は合格ボーダーラインがやや低めで、優遇措置の多い専願で受験してしまい、他高校の受験ができない。

『影山の馬鹿ーーー!!!』

『……ちょっと、受け止められん…』

『俺のセリフだよ!!!』

「…どーしよ」

 手話で会話していたが、最後の言葉は手話もできないほど落ち込んだ影山の口から出た。
 日向は読唇術もできる様になっていたので、その言葉を見て同じく、どうしよう…、と黄昏てしまった。
 しかし、どうしようもこうしようもない。影山は第二志望の烏野高校へ、日向は白鳥沢学園へ入学することとなった。