# 05


午前中の授業が終わると、日向はまた急いで調理室に向かった。
 五色はまだ寝ているだろうから、今のうちにお昼ご飯と夕食の仕込みをしようとしたのだ。
 熱が落ち着き、食欲が少し出てきた頃だろう。
 暖かくて腹に溜まりそうなものを考える。けれどまだ体は弱っているから、重くなく消化に良いものは…。日向は冷蔵庫からササミを取り出し茹で、その間にたっぷりの長ネギとにんにくを切った。
 茹で上がったササミを手でほぐし、鍋に水と鶏ガラスープの元、先に切った野菜を入れ、数分煮る。
 醤油、塩、こしょう、そして酢を入れ、最後にほぐしたササミを入れて一度煮立たせたらすぐに火を止めた。深い器に盛り付けラー油を数滴垂らしたら、サンラータンメンの出来上がりだ。
 次に一口サイズの小さなおにぎりを二つ作り、鮭と梅干しを中に入れる。
 それと風邪に効くビタミンももう少し摂ったほうがいいだろうと、蜂蜜、砂糖、レモン汁でシロップを作るとカットしたオレンジとキウイ、イチゴにかけて、小鉢に入れた。
 出来上がった料理をトレイに乗せ、部屋に向かう。

 部屋に入ると、五色はうとうとしながらも起きており、クッションを背に上半身を起こして、スポーツドリンクを飲み干したところだった。
 新しく買ってきたスポーツドリンクを渡し、体調が少し回復したのを確認すると、料理の乗ったトレイを五色の膝の上に乗せる。
 ノートの切れ端に料理名が書いてあり、小さく大丈夫?とも書いてある。
 五色はまだかすかに熱っぽい顔を日向に向けると「ありがとう」とわかりやすく言う。
 日向はまたにっこり笑って、梯子を降りて行った。

 これまた見たことのないものだ。と五色は思った。
 白鳥沢の学食は中高ともにほぼ同じで、種類はあるが変わり映えはしない。
 スポーツの盛んな学校ということもあって、サラダや鶏肉など、体に良い定番メニューはあるが、結局は大衆向けで一人一人体に合ったメニューを作っているわけではない。
 それでも育ち盛りの学生には大まかにちょうど良く、困ったり不便に思ったことはない。
 けれど今日、日向が持ってきた料理はどれもこれも"今"の五色に本当に必要なもので、学食ではありえない、見たことのない料理ばかりであった。
 見た目もさることながら、匂いも味も優しくて美味しい。ネギがたっぷり入ったサンラータンメンを食べ、五色は、ほぅ…、と満足げなため息を漏らす。
 朝は程良くも少し足りないくらいのヨーグルトだったので、小さなおにぎり二つもちょうど良い。
特に梅干しは蜂蜜漬けなのか微かに甘く、酸っぱくてサッパリする。
 果物も小鉢に入る量で、腫れた喉を刺激しない様シロップで甘さを出し、するりと喉を通った。

「おいし…」

 学食の料理ももちろん調理師が作り、美味しいのだが、なぜか日向が作ったであろう"五色だけ"のメニューは心も温まり、実家で母や祖母が作ってくれた料理の様に優しかった。
 熱で弱った体と心に染み渡る。
 バレー一筋で、中高ともに寮にいることが多く、帰郷するのは年に数回。
 五色は無性に母や祖母に会いたくなった。
 じわりと滲みそうになる涙を堪えていると、ふと料理名の書かれたノートの切れ端が見えた。
 何気なく裏も見ると。

[五色、早く良くなって、バレー頑張れよ!!


 と日向からメッセージが書いてある。そして意外にも可愛い犬のイラストが書いてあった。
 日向は絵もそこそこ上手いらしい。

「ははっ、なんだよこれ」

 五色は小さく笑って、日向に「ごちそうさま」と言った。








 夕飯時にはだいぶ体調の良くなった五色が、2段ベッドから降りて、自分の勉強机に座り日向を待っていた。
 午後にもう一眠りした五色はベッドヘッドの小さな棚に書き置きを見つけ、書き置き通り、夕飯を待っているのだ。

[夕飯も作ってくるから、大人しく寝ているよーに!]

 しかし一日中ベッドの中というのも気が引け、せめてベッドから出て待っていた。

 ちょうど6時半ごろに夕飯の乗ったトレイを持ってきた日向は、ここにきてガツンとしたものを作ってきた。
 確かに朝昼とサッパリしたものが多かっただけに、治りかけの体は栄養を多く求めている気がする。
五色は美味しそうな匂いに思わず腹をさすった。

「また、美味そうなの出てきたな…」

 大きめの浅いお皿にブロッコリーやにんじん、鶏肉がコロコロとたくさん見える。

「シチューだ…」

 先ほどの野菜が白いシチューの中を飾り立てている。
 暖かく優しい匂いに早速スプーンを握る五色だが、食べる前にノートの切れ端をまた見つけ、手に取る。

[野菜と里芋・鶏肉のクリーム煮]

 と書かれている。
 ジャガイモだと少し消化に悪いと考えた日向は、里芋に変更し、隠し味に生姜の搾り汁を入れ、体が温まる様にした。
 急激に上がった熱は、その後治りかけに体が冷える。だから生姜で体を温める。最後まで体の調子の波を一定にし、少しずつ治る様に保つことが大切だ。

「いただきます」

 五色は日向にそう言うと、背筋を伸ばし綺麗にスプーンを走らせた。
 食べ終わると絶妙に胃に負担がないくらいの満腹感になる。
満足した顔を見て、日向は食器を片しに出て行った。
 五色はふぅと一息ついて、日向の置いて行ったノートにペンを走らせた。

[全部美味かった、ありがとう。体調もだいぶ良くなったから、明日には部活行けそう]

 一度ペンを止めたが、追加で何やら書き加えると、今度こそペンを置き、五色は梯子を上り、2段ベッドの上へと戻る。
 食べてすぐ横になるのは良くないので、しばらくクッションを背に上半身を起こして座る。
 そのうち食器を片付け終わったのか日向が戻ってきた。
 五色が手をあげ「おかえり」と口を動かす。
 日向も手をあげ、机に向かうと、開かれたノートに五色の字を見つける。文字の横には少し歪なひまわりが描いてあった。
日向は急いで梯子を登る。五色は日向が登ってくるなり、ニッと笑って。

「ごちそうさま」

と言った。
 日向は元気そうな五色に嬉しくなってニコッと笑った。
 そのまま小脇に抱えたノートとペンを取り出し、梯子に乗ったまま器用に字を書く。

[明日、バレーやんの?]

「おう」

[よかった!頑張れよ!」

「おう!俺1年で唯一のレギュラーなんだぜ」

[すげー!!!じゃぁ強いんだ!ポジションどこ?]

「ウイングスパイカー」

[うおーー!!かっけー!!]

「だろ!俺は牛島さんを超えて白鳥沢のエースになる男だからな!」

 ふふん!と鼻高々に言う五色に日向は[頑張れよ!試合の時に観に行くからな!]と書いた。
 五色も嬉しくなって「おう!」と日向に返した。

 それからと言うもの、五色は携帯でよく手話を調べたり、図書室から手話の本を借りたしていた。
 そして偶に日向の手作り料理を食べさせてもらう様になった。






「最近、五色の調子よくね?」

 川西が言った。

「この前熱出した時、ダメかなーって思ったんだけどな?」

「1日で治ったし疲労とか知恵熱とかでしょ」

 白布は興味なさそうにトス練習を再開する。

「…しかも最近あいつ、たまに弁当食ってるらしいぜ」

「売店の?」

「違う違う、まじで手作りっぽいやつ」

「……」

「……」

 白布と川西は顔を見合わせ、次の土曜日に後をつけようと言うことになった。
 一年坊主が彼女だのなんだのと抜かした暁には、バレーのネットで巻いて吊し上げてやろうと思ったのである。