オレンジ色の小さな陽だまりみたいな髪が、風に揺れて飛ぶ様に走り去っていった。
小さな背中が、肩が、手がブルブルと震えて今にも泣きそうに打ちひしがれていた。
牛島は思わず後を追おうと一歩踏み出したが、後ろから声がかけられ止まってしまう。
「若利ー!鷲匠監督が呼んでるよ!!」
大平の大声が体育館から聞こえる。
すぐに足音も近づき「何してるんだ?」とキョロキョロと2人の部員と牛島を交互に見た。
「お、大平さん!聞いてください!」
と2人は大平に不審な生徒の話をする。
大平は少し考えて。
「わかった、後で斉藤コーチに伝えておこう。とりあえず君たちは練習戻って」
「「うっす!」」
2人はくすくす笑いながら体育館に戻っていった。あまりいい雰囲気ではない様に感じ、大平は首を傾げる。
「若利?」
牛島にも話を聞こうと大平が振り返ると、牛島は地面に散らばる紙切れを拾い集めていた。
「ノート?誰のだ?」
「ひなた…翔陽…」
紙切れの中にはノートの表紙背表紙も束になって落ちている。拾い上げればふりがな付きで名前が書かれていた。
大平が首を捻っていると、足元できらりと何かが光った。
「なんだろう…」
拾い上げる。
U字が曲がりくねった様な白い管の両端に、肌色のプラスチックだろうか、部品がついている。
牛島も大平の大きな手に小さく乗ったそれを見た。
「…ああ!、補聴器だ。耳の聞こえない人がつける…」
そう言った瞬間、牛島は目を見開いて大平からそれを取ってノートと交互に見比べた。ノートにはまばらに会話が書いてある。
このノートはきっと。
「筆談用のノートか…」
携帯も、きっと何かを伝えようとしたのだ。
点と点が繋がっていく。
生まれてから一度も音を聞いたことが無い人間は、どうやって喋るのだろうか。
自分の声さえ聞こえないのに。
牛島は自分が普通に声を出し話ができることが、どれほど本来難しいことなのか、今やっと、あの時日向が発した声を思い出して理解した。
牛島の心に大きな杭が刺さり、後悔の波が傷口をジクジクと傷ませる。
「……」
「若利?」
「これを届けに行ってくる」
「え!?監督は!?」
「すぐ戻る」
牛島はバラバラになったノートと補聴器を持って、日向の後を追い、校舎に入っていった。
しかし、昼休みが終わるまで、終ぞ日向に会うことはできなかった。