# 02

 オレンジ色の小さな陽だまりみたいな髪が、風に揺れて飛ぶ様に走り去っていった。
 小さな背中が、肩が、手がブルブルと震えて今にも泣きそうに打ちひしがれていた。
 牛島は思わず後を追おうと一歩踏み出したが、後ろから声がかけられ止まってしまう。

「若利ー!鷲匠監督が呼んでるよ!!」

 大平の大声が体育館から聞こえる。
すぐに足音も近づき「何してるんだ?」とキョロキョロと2人の部員と牛島を交互に見た。

「お、大平さん!聞いてください!」

と2人は大平に不審な生徒の話をする。
 大平は少し考えて。

「わかった、後で斉藤コーチに伝えておこう。とりあえず君たちは練習戻って」

「「うっす!」」

 2人はくすくす笑いながら体育館に戻っていった。あまりいい雰囲気ではない様に感じ、大平は首を傾げる。

「若利?」

 牛島にも話を聞こうと大平が振り返ると、牛島は地面に散らばる紙切れを拾い集めていた。

「ノート?誰のだ?」

「ひなた…翔陽…」

 紙切れの中にはノートの表紙背表紙も束になって落ちている。拾い上げればふりがな付きで名前が書かれていた。
 大平が首を捻っていると、足元できらりと何かが光った。

「なんだろう…」

 拾い上げる。
 U字が曲がりくねった様な白い管の両端に、肌色のプラスチックだろうか、部品がついている。
 牛島も大平の大きな手に小さく乗ったそれを見た。

「…ああ!、補聴器だ。耳の聞こえない人がつける…」

 そう言った瞬間、牛島は目を見開いて大平からそれを取ってノートと交互に見比べた。ノートにはまばらに会話が書いてある。
このノートはきっと。

「筆談用のノートか…」

 携帯も、きっと何かを伝えようとしたのだ。
点と点が繋がっていく。
 生まれてから一度も音を聞いたことが無い人間は、どうやって喋るのだろうか。
自分の声さえ聞こえないのに。
 牛島は自分が普通に声を出し話ができることが、どれほど本来難しいことなのか、今やっと、あの時日向が発した声を思い出して理解した。
 牛島の心に大きな杭が刺さり、後悔の波が傷口をジクジクと傷ませる。

「……」

「若利?」

「これを届けに行ってくる」

「え!?監督は!?」

「すぐ戻る」

 牛島はバラバラになったノートと補聴器を持って、日向の後を追い、校舎に入っていった。
しかし、昼休みが終わるまで、終ぞ日向に会うことはできなかった。