# 04
家庭科調理室に着くと、日向は買った物を次々冷蔵庫に仕舞っていく。
「この冷蔵庫動くんだ…」
普段はもう一つの方しか動いておらず、それも大したものが入っていなかったのだが、日向が開けたもう一つの冷蔵庫には調味料や野菜、半透明のタッパーが細々と入っていた。白布は感心した様に手早く冷蔵庫に片していく日向を見ていた。
あらかた片付けると、日向はノートを取る。
[昼食もう食べました?今からパパッと作るんですが、お礼に食べていきませんか?]
白布は少し悩んだが、部活の昼休みは2時間ある。本当は今日、五色や川西、山形、瀬見と共に食堂で食べる予定であった。しかし白布は買い物に行くから後から間に合ったら合流すると伝えて抜けてきたのだ。今は12時半でそろそろみんなも食べ終わっている頃だろう。思いの外スーパーのレジが混んでいたのが原因だ。
一考して白布はノートに[食べる]とだけ書いた。
日向はパッと花でも咲く様に笑うと、ニコニコしながら料理の準備を始める。
白布はその笑顔にどこかホッとして【昼食に間に合わないから、別で食べる】と川西にメールを入れた。
日向は小さめの鍋に水を入れ、少し温まったところでコンソメ、醤油、酒、みりんを入れ沸騰するまで蓋をした。
その間にしめじとエリンギを手際よく切っていき、沸騰した頃合いで鍋に追加する。
キノコに含まれるビタミンDは筋肉の再生や修復、免疫力を高める効果がある。午前の部活を終え、かいた汗が冷えて体に触らないようにするにはちょうど良い。
キノコの色が少しだけ変わり煮えたのを確認すると、水溶き片栗粉を加えてとろみを出す。
コンソメや醤油に加えキノコの上品な和風の香りに、白布は無意識に腹に手を当てた。
手際が良い。無駄なくさっささっさと手元が動き、迷いなく調味料や具材を入れる様は、まさに料理人のそれであった。
「日向、料理できるのか…」
白布は日向には聞こえないのに思わず呟いてしまい、ハッとして暫し視線を逸らした。
その間にも日向はクルクルと動き、ボールに卵を片手で数個割り入れると菜箸でシャッシャッシャッと混ぜていく。黄身と白身がよく混ざりあうと、ザルでこす。
冷蔵庫からカニカマを出すと手で裂き、さらに包丁で横に切る。小さな紙吹雪の様になったそれをパラパラとこした卵に混ぜた。
次にささみと玉ねぎを荒微塵にし油を引いたフライパンで火にかけ、塩胡椒で味付けをする。軽く炒めてから一度火から放し、出かける前にセットして炊けていたお米を加え、再び火をつけた。
肉に火が通り、ご飯がパラパラになるまで炒めたら、ケチャップを入れ、混ぜ合わせる。ケチャップライスが完成するといったん隣に置いておく。
次に別のフライパンを出す。火にかけ、無塩バターをひき溶かすと、先ほどの卵液を流した。
フライパンをクルクルと回し、箸で器用に混ぜながら火を通していく。
火の通りが早い端の方からカシャカシャと小気味良い音を出してフライパンを回していく。座っていた白布は少し腰を浮かせて日向の手元を覗いた。
子供の頃に見た、料理をする母親の手元を見ている様で、白布はただ黙って魔法の様にできていく料理に魅入ってしまう。
卵が、表面はツヤツヤだが傾ければトロトロという絶妙な焼き加減になると日向はフライパンをコンロから外し、濡らした布巾の上に乗せる。
[白布さんの身長と体重を知りたいです!]
日向はノートに書くと白布に渡した。白布が素直に書き加えると、少し考えてから別のフライパンで作ったケチャップライスの量を調整しつつ、卵の中央に盛り付け、ヘラで奥側の卵の端をケチャップライスに沿って捲ると、フライパンをクイッと跳ね上げた。
遠心力を使って卵の端を巻き込みケチャップライスがくるりと裏返る。布団にくるまる様にケチャップライスは卵に綺麗に包まれ、フライパンの端に寄った。
「すご…」
何度かくるりくるりとフライパンの上で回すと、それはそれは美しい艶のある黄金のオムライスが出来上がった。
日向は大きな白い楕円形のお皿を取り出すと、その上にフライパンを傾けて、ころりとオムライスを乗せる。
そして最初に作ったキノコの入った餡を、その美しいオムライスにトロトロとかける。
[キノコ餡かけオムライス]日向はノートにそう書くと、料理とスプーンを白布の前に並べた。
ついでに朝作った野菜のコンソメスープもカップに入れて出す。
白布は目をパチクリさせて、コクリと小さく喉を鳴らした。
「い、いただきます」
手を合わせてから、スプーンを持った。
餡かけと一緒にオムライスを掬う。卵の表面はツヤツヤだが、中の方はトロトロふわふわでスプーンが沈む様にすんなりと入る。
中のケチャップライスと相まってとても美味しそうな色合いだ。
ゆっくりと一掬いを口に入れ咀嚼する。白布は目を見開いてごくりと飲み込むと、すぐにもう一度スプーンをオムライスに沈めた。
「美味しい」
あまり食に興味はなく、がっつくタイプではない白布だが、絶妙な卵のふわふわ感とケチャップライスの鶏肉とシャキリとした玉ねぎの食感がクセになり、食べ応えがある。
濃い味付けの多いオムライスだが、きのこの餡掛けがそれを制御し、カニカマを加えた海鮮の様な味わいが白布の好みにピッタリハマった。
腹に溜まる感覚が心地よい。
[カニカマじゃなくて、シラスとか長ネギとかでも美味しいですよ]
自分の分を作り終えた日向が白布の前に座る。
ノートに書かれた文字に白布は、いろんなバリエーションがあるのか…と感心した。
[俺しらす好きだから、今度食べてみたい]
そう書くと、日向は少し考えて。
[今夜しらすの炊き込みご飯にしようと思ってました…]
「えっ!本当に!?」
思わず白布は声が出てしまう。
日向は読唇術で読み取るとコクコクと首を縦に振った。
「…言ってることわかったのか?」
[読唇術でゆっくり話してくれたらわかります]
「そうなんだ…、え、じゃぁ…」
白布はペンを持つ日向の手をギュッと握った。
「しらすの炊き込みご飯、食べたい」
白布の目がキラキラと輝き、日向を見つめている。
気がつけば白布の皿は既に空で、餡かけまで綺麗に無い。
オムライスでさえこんなに美味しいのだ、しらすの炊き込みご飯も絶対美味いに決まっている、白布は食べたばかりなのにまた腹が減る感覚がした。
「食べたい、絶対」
食べなきゃテコでも動かない、という様な強い意志を感じ、日向はひくりと顔を引き攣らせた。