# 01


EJP RAIJINとのホーム対決。
その日は総じて調子がよかった。木兎さんの超インナークロスも、臣さんのカーブスパイクも、何よりクセの強い俺たちBJのスパイカーを自在に操る侑さんのセットアップがキレッキレだった。
体力的にもきつくなってくる第四セット。このセットを取れば俺たちの勝ちだ。点差は二点。追いつき追いつかれ、ようやくマッチポイントまで持ってきた。
明暗さんのスパイクを小森さんがあげる。角名さんがこちらのブロックを嘲笑うかのように上半身を柔軟に使いこなしたクロスを打ち込んできたその刹那、キュッキュッと床を鳴らす選手たちのシューズの音や応援のBGMが響いていた体育館がビーチになった。足の裏に砂の感触。波の音。肌を掠める潮風。あ、これ、見える。いい。
俺はあえて空けておいたクロスのコースに素早く入り、腕を伸ばす。ボールが腕に当たる。

いっっっっってぇ!!!!

ボールの威力をいなしながら上へ。ドガッ!!とボールは弾かれて、高く舞い上がった。ボールの直地地点に素早く移動した侑さんがチラと木兎さんを見た。フェイク?なんでもいい。全身でトスを呼ぶ。コートの幅めいっぱい。相手のブロックを惹きつけながら走り込むと、思い切り固い床を蹴って、跳ぶ。

俺に!!もって、こい!!!

侑さんは一瞬、獰猛な笑みを浮かべて、それから十本の指でふわりとボールを放つ。美しく弧を描いて完璧に上げられたトスは、後ろから走り込んできた臣さんによって打ち抜かれた。小森さんが反応するも、カーブのかかったボールはガッッと弾かれて大きく横に反れた。体育館がどよめきに包まれる。スコアボードの数字が25に変わった。汗がこめかみを伝う。

ああ、なんて楽しい…。もっと、まだしていたい。


肩で呼吸をしながら汗がぴかぴかの床に落ちていくのを見た。決めたのは自分ではない。でもいい。最強の囮になれたなら本望だ。
コートの中央では、ハイテンションで駆け寄る選手たちに臣さんがどうにかハイタッチで応えている。チームメイトといえども、できるだけ他人と接触したくない臣さんのギリギリの対応だ。相変わらず空気を読まずに「オミオミーー!!」と抱き着こうとする木兎さんを「寄るんじゃねぇ」としかめ面をして避けていた。
「臣さん、すげーーーかっこよかったっス!!」
俺も両手をあげて駆け寄る。決勝点を決めたにもかかわらず、全然嬉しそうじゃない臣さんとバチンと手を合わせる。
「ナイスレシーブ」
言葉が少ないところと、ストレートにものを言うところがちょっと影山に似てるなと思っているけど、いいプレイについて素直に褒めてくれるところは臣さんのほうが大人だ。
「あざっす!!」
満面の笑みでこたえると、「翔陽くん」と後ろから侑さんに声をかけられた。
「侑さんもすっげーかっこよかったっす!最後のトス、絶対おれにくれるって思ってました!」
「せやろ?一瞬釣られそうになったわ。最後、ちょっとビーチ見えとったんちゃう?」
侑さんは俺にタオルを差し出しながらそう言った。
「あ、あざす。すいません。俺が持ってこないといけなかった」
「そんなんええよ。それより、最後ようとったな。角名のクロス、高校んときよりめっちゃとりにくくなっとるやろ?」
「ハイ!でも侑さんの言う通り、最後ビーチ見えてたんでなんとか取れました!」
「やと思たわ。なんか目がぎらってしとってぞくぞくした」
「今日はなんか、みんなすっげーいい感じで、おれも、こう、ぐわぁああてなりました。っていうかまだテンションやべーです!」
受け取ったタオルで、次から次へと流れていく汗を押さえる。楽しすぎて嬉しすぎて、自然と顔が笑ってしまう。試合の興奮はまだおさまりそうになかった。
「ほんまに君は、見とるとめっちゃ腹減ってくるなぁ」
そう言う侑さんの表情は、タオルで口元が隠されているから読めない。笑っているのに、ゲームの行方を品定めしているような目をしていた。ぞわりと肌が粟立つ。侑さんのその目が、実はちょっと、いやかなり好きだったりする。
『下手くそと試合すんの、ほんまに嫌いやねん』
そう言った初対面の侑さん。高圧的でめちゃくちゃ怖かったけれど、それに見合う実力を持ち合わせる人だけが放てる独特なオーラ。負けたくないという気持ちが腹の奥から湧き上がってくる。ぞくぞくする。惹きつけられる。
「日向、ちょっといいか」
監督に呼ばれて振り返ると「ハイ!」と大きく返事をする。
「呼ばれたんで、おれ行きます」
ぺこりと頭をさげて監督のほうへ足をむけようとすると
「後でなぁ」
と手をひらひらさせて侑さんが言った。


監督やコーチと話し終えてから入念にストレッチをし、控室に戻ったのは二十分後のこと。早々にシャワーを浴びたらしい臣さんがさっさと荷物をまとめて部屋から出ようとしていた。他の選手も大体シャワーは終えているようで、同じように荷物をまとめながら試合の話をしたり賑やかだ。
「侑さんは?」
いつもならすぐに見つけられる存在を確認できず、頭をタオルでゴシゴシと拭いていた木兎さんに聞いてみると、
「ツムツム?見てないけど、シャワー行ったんじゃねーの?」
と返された。ホテルへ戻るバスの時間は決まっているので、急いで着替えと持ち運びやすいようにまとめたシャンプー類、それからバスタオルを抱えてシャワー室へ向かう。急ぐ理由は、別にもあった。

スポーツ選手が試合の後、勃ちやすいというのはよくある話で、二十代の選手が多いBJでも、なんとなくそうなのかな?という雰囲気をたまに感じることがある。特にそれを大げさに取り上げたりもしないけれど、お互い様なのでお察しという塩梅だ。
今日の試合は、双方がいつもより調子がよく、お互いを引っ張りあげていくようななんとも言えない高揚感があった。幼馴染の臣さんと小森さん、高校で三年間共に戦っていた侑さんと角名さん。戦友でありライバルでもあるこの四人が、その中心になっていたことは間違いない。それに木兎さんが便乗して、ここ最近では一番わくわくする試合になった。
そして、今現在、おれの下半身は兆しはじめている。試合に向けていた集中力が解けて、でも興奮はまだおさまらなくて、下腹部に独特の重みを感じていた。
幸いなことに、シャワールームにはほとんど人がいなかった。ただ、唯一使用されているカゴに入ったユニフォームの数字を見て、心がそばだった。
十三番。侑さんだ。
侑さんの着替えがあるところから少し離れた場所で濡れたユニフォームを脱ぎカゴに入れる。パンツを脱ぐ時にさりげなく自分の状態を確認すると、熱いシャワーを浴びてしまえばなんとかおさまりそうな感じではあった。
念のため腰にタオルを巻いてシャワーブースへ向かう。侑さんは奥のシャワーブースを使っていた。そこから三つ開けたブースに入ろうとした時、サーというシャワー音に混じって、別の何かが聞こえた。
はっと息を詰めて、その場に佇む。それは多分、
「は、ぅっ..」
間違いなく、侑さんの…。
思わず侑さんのいるシャワーブースに視線を向ける。あそこで、今?
ぐわぁああっと体が一気に熱くなる。どうしよう。出ていったほうがいい?いやでも身体を冷やすのはよくないし、時間もない。どどどどどどどうしようどうしようどうしよう。どくんどくんと心臓が跳ねるのは、試合の余韻からじゃない。耳に届く侑さんの、声。
「ふっ…く、」
やっべぇ…っ!!!!
なんだかもういてもたってもいられなくて、ええい、ままよ!とブースに飛び込むとシャワーの水栓を勢いよく回す。出てきた水はまだ温まっておらずひんやりとしていたけれど、火照った体にはちょうどよかった。そっと下を見やると、もはやしっかりと勃っている。
「はぁあぁぁ.....」
声にもならないため息を盛大に吐いて、ただただシャワーヘッドから降り落ちてくるお湯に打たれていた。

突然ドアが開けられたことに気が付くのが遅れたのは、若干瞑想モードに入りかけていたからで。
「翔陽くん」
と呼ばれて「ひっ!」と変な声が出た。
振り返らなくても、そこにいるのはもちろん侑さんで、さっきのことを咎められるのではないかとビクビクした。
侑さんは無言でおれの後ろにぴったりと添うように立つとドアを閉める。そして背後から腕を伸ばして水栓を止めた。シャワーの音が響いていた空間はしんと静かになった。
狭いシャワーブースに体躯のいい男が二人。息が苦しいのは単純に酸素が薄いからだ。そう思うことにする。
固まったままの俺の肩に侑さんの顎が乗せられた。と同時に両手で腰をやわく抱かれる。
「翔陽くん、盗み聞きはあかんのとちゃう?」
耳に息がかかってくすぐったい、というよりも感じたことのない何かがぞわぞわと身体の芯から込み上げてくる。
「す、すみませんっ!!」
今の状況がどうであれ、とりあえず謝っておくのが後輩というものだ。
ここが公共の場所であることや、たまたま居合わせただけだという正論は、言わないほうが賢明なのである。
ふっと空気が揺れて、侑さんが笑ったのがわかった。
「なんや、翔陽くんも興奮しとったん?」
侑さんの目線の先にはもちろん、おれのあれがあるわけで…。そして、おれのお尻あたりにはまだ昂ったままの侑さんのそれがあたっているわけで…。
「侑さん…あの、あ…あたって、おります」
念のため報告しておくと、くくっと侑さんが笑った。
「翔陽くん、アホなん?」
そして、きっとトマトよりも赤くなっているであろうおれの耳により一層口を寄せて
「わざとに決まっとるやろ」
とやくざもびっくりなおそろしい声色で優しく囁いた。
「いい試合やったもんなぁ。俺めっちゃ調子よかってん。わかるやろ?」
「は、ハイ…」
「翔陽くんもよぉ飛んどったなぁ」
侑さんの手が、おれの腹筋をなぞる。
「あっ…ハ、イ..んっ...」
腹から胸を優しく撫でられると、意図せずびくんと体が反応した。
「ふふっ、ゾクゾクしたわ、ほんま」
徐々に下に降りていく侑さんの手のひらを見つめる。後ろには脅迫するように突きつけらている侑さんの昂り。おれは戸惑いをはるかに上回って、めちゃくちゃ興奮していた。
「触ってほしい?」
触れるか触れないかのところで手を止めた侑さんが囁く。
触ってほしい。めちゃくちゃ触ってほしい。頭はそれでいっぱいだ。でも、そんなこと言えるはずもない。侑さんはチームメイトで、尊敬する先輩で、負けたくないライバルだ。
黙ったまま動かない俺の首筋に流れる雫を、侑さんが舐めた。
「んぎゃっ!」
「色気もクソもないなぁ」
楽しそうに侑さんが言う。おっしゃる通り、なんたっておれである。色気もクソもあるはずがない。
「そのまんまでええの?」
「よ、よくはないデス…」
「せやろ?」
それでもなお「うん」と言わないおれに痺れを切らし侑さんは、左手で俺のお腹を抱き、右手でおれのを優しく握り込んだ。
「んっ...」
触られただけで、これはまずい。そう考える頭とは別で、体は求めていた快感にめちゃくちゃ喜んでいた。侑さんはそんなおれを見透かしたようにゆっくりと手をスライドさせる。
「は、ぁ、っ...や、やめ...」
「やめてええの?」
さっきより握る手に力が入る。快感を拾いはじめた体を支えられなくて、前方の壁に手をついた。
「めっちゃええ体になったやん」
耳元であやすように囁かれて先端を指先で擦られると背筋が知らず震える。
触れる指に、背中から伝わる体温に、耳にかかる吐息に、声に、自分の身体が感じていることを意識させられる。
「ぁ、あつ、あッ…」
ぬるぬると行き来する指と手のひら、影山と同じように毎日大切に手入れされている指先。今日の試合もどんな時でも、スパイカーに真摯に丁寧にトスを上げるその手が。
「ん...ん...っ」
動きに応えるように声が漏れてしまう。こんな所で。
「気持ちよさそうやなぁ、翔陽くん」
「侑さ...もうっ」
震える体を両腕で支えながら懇願するとぐるりと視界が反転する。目の前には侑さんの顔。想像よりも余裕のない目に心臓がギュンとした。
かっけぇっ…めちゃくちゃエロい…っ!!
もう大して仕事をしない頭に追い打ちをかけるように、再び手を動かし始めた侑さんの顔がぐっと近づいてくる。
あ、これ、キス。
でも、侑さんの唇は体温を感じさせる距離でおれの唇をかわした。
違った!
期待をしてしまったこととそれを裏切られた羞恥心。でもその唇はすぐにおれの耳たぶを食んだ。
「ンっ」
気持ちがいい。気持ちがよくって、感覚が現実離れしていく。なんとか侑さんの首に両腕を回して絡みつくと、鼻先に侑さんの生え際が当たる。すん、と息を吸うとシャンプーに交じって侑さんの匂い。あ、もっと、もっと嗅ぎたいと思っても、ふたりの間にある侑さんの手がそれを拒んだ。
「そんなくっついたら手ぇ動かせへんやろ?」
実にごもっともである。少し身体を離すと、それを待っていたかのように手の動きが早くなった。高まる射精感にともなって呼吸の感覚が短くなる。もう、でる。
「ええよ」
侑さんが耳元でそう囁く。おれは腰をぐっと縮こまらせた後、大きく痙攣して先端を包んでいた侑さんの手のひらに、白濁を吐き出した。
とても、とても気持ちがよかった。今まで自分でしていたのとはまるで違う。力の抜けた身体を、侑さんの逞しい腕が危なげなく受け止めた。おれは酸素を求めて、口ではぁはぁと息をした。侑さんはもう一度水栓を捻った。シャワーがすっかり熱くなった頭を心地よく濡らしていく。
呼吸が落ち着いてくるとともに、少しずつ冷静な自分が戻ってくる。
あ、侑さん、侑さんの手をキレイにしないと。
慌ててその所在を探すと、それはおれの手を取って、擦りつけるようにべっとりと手のひらの白濁を塗りつけた。
「翔陽くん、もうちょっと付き合ってな?」
そう言って侑さんは精液を塗りつけたおれの手を自分のものへと導く。それはもう、どくどくと脈うっていて、試合中の侑さんの如く脅迫染みていた。
おれの手を侑さんの手が包み込む。そして、誘導するように手を動かし始めた。
「は、っ...、あ、...ッ」
さっきは、水音に紛れていた声が、今は耳元でダイレクトに届く。それどころか、おれの手の中には、侑さんのがあるわけで。何がどうなってこうなったのかわからないまま、でも目の前でよがっている侑さんを見て、とても興奮した。ファンの人がこんな侑さんを見たら、きっと卒倒してしまうだろう。
「翔、陽くん…ッ」
手の動きが少し激しくなった段階で、呼ばれた名前。そんな風に、強く求められるように呼ばれたことは今まで一度もなかった。もっと、もっと触りたい。触ってほしい。キス、したい。キスができない替わりに侑さんの項に鼻を寄せて匂いを嗅いだ。
「んっ、」
根本からぎゅっとスライドさせると、息を詰める感じがしたのでちらりと侑さんの顔を覗き見る。見て、見なければよかったと後悔した。
その顔は、ヤバい。
そもそも、俺は侑さんの顔が好きなのだ。それが、熱をはらんでものすごい色気を放っていた。
腕があたったせいで向きを変えたシャワーヘッドからは熱いお湯が出続けている。湯気と濃密な空気でいよいよ息が苦しかった。
侑さんの肩に置いたままにしていた手を背中にまわす。触るだけで一切無駄のない体だとわかる。しょっちゅう見てはいるものの、触ったのははじめてだった。
すっげぇ、やっべぇ。
興奮してひとつひとつの筋肉を確かめるように撫でていくと、侑さんから甘い吐息が漏れた。
手の中にある侑さんのがぐんと大きくなって、呼吸が浅く早くなっていく。首元にかかる息が熱い。
「しょよく...んっ...」
侑さんのおでこがおれの肩にぐっと押し付けられた次の瞬間、侑さんの身体がしばし強張った。まさに今、おれの手の中で侑さんの熱が放たれている。侑さんははぁーっと大きく長く息を吐いた。おれが射精したわけでもないのに、心臓がばくばくしている。
侑さんは、おれの耳のうしろにちゅっとキスをして
「最高やったわ...翔陽くん」
と笑った。しばらくそのまま身を寄せ合った後、ゆったりと身体を起こした侑さんは
「汚してしまってごめんな」
と言うと、シャワーヘッドを取って俺の手についた精液をお湯で洗い流してくれる。それはいともあっさりと手から流れ落ち、排水溝へ吸い込まれていった。まるでこの十数分の出来事が、夢だったかのように。
「先出るわ」
侑さんがドアを開けると外の空気が流れこんできて、俺はやっと思い切り息を吸うことができた。