# 04
それからの日々は、ジェットコースターのように・・・と続きたいところだが、全くそんなことはなく、シーズン中のおれたちは、相変わらず練習と試合に明け暮れ、いつでも最高のパフォーマンスができるよう、体調管理にも気を遣っていた。要はとても規則的で健康的な日々をチームのみんなと送っている。
時々、甘い雰囲気になったりもするけど、最後までしたことはない。
バレーに大して超がつくほどストイックな侑さんが、シーズン中はしない、という誓いを立てているからだ。
「跳べへん翔陽くんとかおる意味ないやん?最高の囮が思うように動かれへんとかありえんしな」
と半ば脅しにもきこえる気遣いは、大変に光栄である。例えそれが若干、悪口にきこえたとしても。
ただ、その線引きが安心感となることもある。侑さんと一緒に寝るときも、これ以上先はないと、落ち着いて眠ることができる。もちろんその先への期待はある。めちゃくちゃある。しかし、おっしゃる通り、跳べない〇〇はなんとやらなのだ。
そんな訳で、おれと侑さんは表向きには今までと変わらない日々を過ごしていた。
だけどふいに訪れる、同じ気持ちだとわかる瞬間が嬉しかった。
例えば、速攻の精度がちょっと気にいらなかったとき。どこに、誰にトスを上げるか迷ったとき。侑さんならどうする?いつも問いかける。そして大体はどう思ってるのわかる。きっと侑さんもわかってる。
そして知らない内に、おれは自然と侑さんのことを目で追うようになっていた。その視線に気がついた侑さんが、ちょっと照れながら笑ってくれる。誰も気がつかない、おれたちの小さな変化だった。
人気のない場所で、手を握ると握り返してくれる。キスがしたいと思うとキスをしてくれる。そうやってお互いがお互いをちゃんと見ることで、なんとなく考えていることがわかるようになったのだ。
侑さんを好きな気持ち、ひとつひとつ。
そのひとつひとつがおれたちのバレーに小さな、だけどかけがえのない一瞬をもたらしているような気がした。
体育館のスポットライト。いつだって頼もしいチームメイトの背中。
おれは相手チームのサーブを待っている。
お昼に食べたものは消化された。でもまだお腹は空かない。食べたものがエネルギーになっている。とても調子がいい。
侑さんの視線、指先、考えていることがビシビシと伝わる。
今この瞬間が全てだった。
特別な瞬間が訪れた。
いつものように超速攻を決めようと踏み込んだ一瞬、あ、これ跳べるってわかった。いつもより高く跳べる。その刹那、侑さんを見た。侑さんもおれを見た。ドンッと床を蹴る音。おれは跳んだ。
――ここまで、ちょうだい。
侑さんのあげたボールは1ミリの狂いもなくおれの手のひらに当たって、相手チームの床に叩きつけられた。手のひらのじんとした痛み。会場がどよめきたつ。木兎さんがおれに何か言ってるけどよくきこえない。
おれは侑さんを見た。きっとおれたちにしかわからない。それがいつもと違ったことは。
いつもより高く跳んだおれに、完璧に上げられたトス。一瞬目があっただけなのに伝わった。侑さんは自分の手のひらを見つめて、それからぐっと握りしめた。おれは侑さんに飛びついた。すごい!おれたちはすごい!
湧き上がる幸福感。もし今この体育館が吹っ飛んだとしても、おれたちはきっと傷ひとつつかない。それくらい強い光みたいなものがおれたちを包んでいた。
今、すっげー幸せだ!!
きっと侑さんも同じ気持ちでいる。抱き返された腕から伝わる想い。同じ鼓動、同じ熱さ。
人はきっとみんなこういうものを人生に求めているのではないだろうか。でも、それはとても難しくて。だからこそ、しかとかみしめたい。この瞬間を大事にして。
侑さんがくれた、この気持ちにぴったりとくっついて。
これ以上は持てないから、とにかく、取りこぼしのないように。