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――2日目 5:11
「おはよう蛍、随分眠そうね」
「……そう? いつものことデショ」
正直、あまり眠れてはいない。普段からそんなに睡眠時間は長い方ではないが、今日に限っては特に不足している。理由は言わずもがな、あのメールのせいだ。
山口との通話を終えてから、月島はもう一度メールを読み直した。最初に読んだ時は相当動揺していたから気付かなかったが、冷静になって読み直すと、あのメールにはおかしな点がいくつもあった。
ひとまずそれは置いておいて、今やらないといけないのは事件があったかどうかの確認だ。まずはそこをはっきりさせておかないといけない。起こってもいない事件であれこれ頭を悩ませるわけにはいかないのだから。
「新聞どこ?」
「ああ、まだポストに入りっぱなしだわ!」
慌てて取りに行こうとする母を制して、新聞を取りに行く。今日は随分とチラシが多いみたいでいつもより重たい。
リビングで新聞を開いて流し読む。政治経済とかは後回しにして、地域情報を載せているページから読み進めた、しかし、それらしい記事はない。続いて、携帯からネットニュースを開いていく。昨日の夜から翌朝5時現在までに、それはもう多くの記事が書かれていたが、似たような内容のものが並んでいて非常に見にくい。携帯ではなく、パソコンを使ったほうが見やすいだろうかと思案する。
〈おはようございます! 朝5時25分になりました、お目覚めテレビの時間です!〉
朝の報道番組として長寿を誇っているらしい番組が始まった。確かこの番組のひとつ前の枠では、同じ『お目覚めテレビ』という番組タイトルに装飾言葉が入った番組がやっていたはずだ。クリアだったかなんだったか。
ネットニュースを読み進めながら、耳だけテレビに集中させる。最初の数分は、今日の天気や昨日のスポーツの結果、どこかの地方の名産品で作った朝ごはんの紹介などの軽めの話題から話しはじめる。
「蛍、朝ごはんフレンチトーストでいい?」
「うん」
昨日冷蔵庫に入っていたタッパーの中身はそれか。卵液に一日つけたほうが美味しいとはいうけど、なかなかその準備をするのは面倒くさいんじゃないのか、なんて思っていた時だった。
宮城県仙台市、というワードが耳に飛び込ん出来た。それまでずっと見ていた携帯から顔を上げて、テレビ画面に向ける。ちょうどフレンチトーストを焼き始めたらしく、卵液をたっぷり含んだパンの焼ける音がうるさかったので、音量をいつもより大きめに調整した。
画面には、暗がりの中で上空から撮影された映像が流れている。画面下部には『速報』の文字とともに『被害者 意識不明の重体』とテロップが大きく映されていた。
〈被害者は県内の高校に通う男子学生で、何者かに刃物で刺されたとみられており、現在意識不明の重体です。警察は、現場で119番通報をした別の男子学生に話を聞いており〉
これだ。この事件だ。
実際に起こった事件だということはわかった。メールの通りなら、意識不明の重体になっている学生が“六宮雅輝”で、通報した男子学生が――メール本文では犯人扱いされているけど――“日向翔陽”ということになる。いたずらメールという可能性は完全に絶たれたわけだ。
そのおかげで、はっきりとわかったこともある。まずは、朝食が冷めないうちに食べないと。おそらく同じニュースを見ただろう幼馴染がまた動転して、いつもより早い時間に迎えに来てしまう気がした。