◇ 23 ◇


 ――4日目 18:43

 彼は1人で歩いていた。
 街灯に照らされる中、自宅を目指して歩き続ける。人通りはまばらだが、そんなに危ない道でもない。
 だからこそ、油断しやすい。
 不思議なことに人間というやつは、根拠もなしに「自分は大丈夫」だと驕る。怪我も病気も、不幸な出来事も、何故か自分にだけは降りかからないと過信している。
 一歩外に出ればいつ車にはねられるかも分からない。不審な人間に刺されるかもしれない。家にいたところで、暴漢が入ってこないとは言い切れない。
 世界は常に危険と隣り合わせだというのに、それを理解していながらも、自分は大丈夫だと慢心する。
 彼もまた、驕った人間の1人だ。
 携帯を片手にメールを打ちながら歩く彼の背後には、一台の車が止まっていた。
 車はヘッドライトをつけずに、ジリジリと動き出す。前を歩く彼との距離を少しずつ詰めていく。そこでさすがの彼も、携帯から顔を上げ後ろを振り返った。
 その瞬間。
 切られたままだったヘッドライトが急に上向きで付けられた。反射的に腕で強烈な光から目を守ろうとするも、一歩間に合わず、彼は視界を奪われる。
 続けて車の正面、彼の背後から複数の掛ける足音がなり、勢いを殺すことなく彼へと衝突した。体当たりを食らったことで、彼もその場に倒れこむが、すぐさま体制を立て直そうと試みる。
 しかし、上にのしかかった何者かは、彼が起き上がれないように体重をかけて手足を押さえつける。その間に、別の人間が彼の口を塞ぐため布を噛ませた。直前に、口の中に小さな錠剤を放り込んでいたが、混乱していた彼はそれに気づかない。続けて、目もふさがれた。
 錠剤は、早くも口の中で溶け始めていた。気づいたのは、口中を苦みが覆った時だ。
「早く乗せろ!」
 怒気を孕んだ声だったが、叫びではない。
 車の扉が勢いよく開け放たれ、3人がかりで彼を車に積み込んだ。全員が乗ったことを確認した運転手は、再びヘッドライトを消し、その場から走り去っていった。