# 01


波乱もあった全日本バレーボール高等学校選手権大会、通称春高バレーは一林高校の優勝で幕を閉じ閉会式も終わる頃、各高校は自身の出身の刻まれたナンバープレートのバスに乗って帰っていく。52代表の内初戦敗退したチームは既に帰ってしまった学校もいるが、それでも会場は帰りのバスで人がにぎわっていた。音駒もそのひとつで猫又監督の意向により最後まで大会を見届けていた。会場を出た今、荷物の番として孤爪と山本、福永のレギュラー2年組が残っていた。そして孤爪達の周りでも同じように荷物を見ている者、待ち合わせ場所にしている者もいた。

「それにしてもこのメンツでおいてくとか本当にナイ」

孤爪は周りに聞こえないように小さく呟く。それもそのはず、自身の周りではそれぞれの学校カラーを身に纏った同学年、しかも何の因果かレギュラーばかりが集まっていた。
孤爪から見て左から稲荷崎、その隣に井闥山、そして音駒に梟谷、その横に鴎台がいた。まだ右隣が合宿や東京予選でも接点があり話しが通じる赤葦だったのは孤爪にとって救いであった。
山本は今大会で準優勝を飾った梟谷の赤葦に振り向く。

「赤葦おつかれ!最終セット惜しかったな」
「ありがとう、音駒もお疲れ様」
「…一位以外みんなビリと一緒やん」

どうやら山本と赤葦のやり取りは少し距離のある稲荷崎にも届いたようで、侑は不機嫌を隠さずに吐き捨てる。それを聞いて腹をたてたのは赤葦ではなく山本だった。

「なんだと?」
「山本、気にしてないから落ち着いて」
「おい侑!」
「本当のことやんけ」

準優勝、という結果に赤葦は満足してなかった。最後のマッチポイントを取られた後の3年生の会話がずっと頭に残って、準優勝という結果に素直に喜べないでいた。
他校のために怒ってくれた山本を赤葦が落ち着かせる。侑も銀島にたしなめられるが、佐久早がマスク越しに煽る。

「お前、ユースであんなにいきってたのに初戦敗退だったな」
「あ"あ"?初戦負けも二位も代わりないやろ!」
「いや変わりあるやろ」

銀島が率直につっこむと侑はさらに機嫌が悪くなり表情が凄む。そして思い出したように古森が鴎台に体を向ける。

「そういえば星海も影山にメンチ切ってたよね」
「…光来くん、また身長ネタで困らせたの?」
「違う!影山がビビらないからだ!」
「なんにも違くないでしょ。いい加減器も大きくなりなよ」
「身長は低いけど態度はでかいもんな」
「なんだと!?」

井闥山のユースコンビはチクらずにはいられないのか。
昼神が呆れたようにジト目で星海を見下ろし正論を振りかざす。そんなふたりのやり取りに白馬が笑いながら言うものだから、星海は怒りを顕にする。
鴎台を元凶である古森が遠くからまあまあとたしなめ、話題をそらすためにまたに侑に話を戻す。

「なんて言ってたっけ?"プレーは大分おりこうさんよな"だっけ」
「なんで一字一句覚えてんの元也君?さては俺のこと好きやな?」
「……」
「無言やめぇや!」
「はっ」
「ドンマイ侑」

人好きのする笑顔で無言を貫く古森に侑が心臓痛めてると、佐久早の半笑いと角名の心にもない励ましが返ってくる。
今まで大人しく飯の事しか考えてないだろと思っていた治は侑に振り向く。

「ユースでも恥晒しよって!どおりで知らん奴に目が合っただけでビビられるわけやわ」
「そんなことあるかい!」
「あったわ!すれ違うだけで距離めっちゃ取られたり、観戦してるだけで周りに人おらんくなるし、やたら遠巻きにチラチラ見られたんやけど?」
「いったい何したらそんな嫌われるんや侑…」
「ウケる治ただのボッチじゃん」

侑の性格の悪さがついに全国に知られてもうたか、と頭を抱える銀島に、言葉で言うほどそんなに表情筋が仕事していない角名がスマホを構え双子にカメラレンズを向ける。

「知るか!そんなんサムの人相が悪いだけやろ」
「どっちも同じ顔だろ」
「侑も治もガラが悪いしね」
「誰がこの人格ポンコツと一緒やねん」
「くそ豚に言われたないわ!」
「こんなところで喧嘩すんなや!」

佐久早と角名のどっちもどっちという発言にさらに口が悪くなる。稲荷崎では名物となっている双子の喧嘩も他校からしたらそれは恐ろしく見え、周りから視線を集めていることに気づくと、何べん恥重ねるねん!っと手がつけられなくなる前に銀島が間に入る。
チラッと侑が視線を他所に向けると、行儀悪く人差し指を向ける。

「だいたい!ガラの悪さなら音駒だってそうやん!」

ユースな彼らとは自分等は関係ないと高みの見物を決めていた音駒は、急に話を振られぎょっとする。誰とも目を合わせないようスマホを弄っていた孤爪は大きく肩を揺らすだけで、視線は下に落としたまま頑固として目を合わせない。

「モヒカンにプリンって!音駒は放任主義なん!?」
「宮達はプリンになったらどうなるの?」
「こうなる」
「なに勝手に写真撮ってん、事務所通してや」
「どこのアイドルなのさ」

角名はいつの間に撮ったのか机に伏せている治の黒くなった旋毛が写されている画像に、治の場合もれなく脱色するんだよねと古森に見せる。そのやり取りを治が手で自分の目元を隠して茶番を広げる。

「ってか今時モヒカンって」
「男の象徴だろ!」
「いや自分いかつすぎるわ」

治の茶番に目もくれず、侑は一番パンチの効いた山本に話しかける。山本は誇らしげに胸を張って応えた。
モヒカンと言えばと、星海が白馬を見上げる。

「芽生もモヒカンだよな」
「俺のはおしゃれモヒカンだから」
「おしゃれモヒカンなんて初めて聞いたよ」

白馬がおしゃれなモヒカンなら山本はおしゃれじゃないモヒカンになるのかと、昼神は喉まで出かかって飲み込んだ。
侑は侑でまだ山本に突っかかっていた。

「モヒカンの上に金髪やでガラ悪すぎるやろ」
「あん?なんですかこら」
「山本、落ち着いて」
「侑もツーブロで金髪だからもはやオソロでは?」
「はぁ?どこがやねん」

関わりたくない空気を纏う孤爪と何を考えているかわからない福永の代わりに赤葦が山本を抑える。それに対して角名が侑に余計な一言を言う。
山本も侑も両手をベンチコートのポケットに手を入れてそれぞれ睨みを効かす。しかもどちらも部活カラーが赤色と臙脂色と同系統だから佐久早が鬱陶しそうに口を開く。

「メンチの切り方一緒かよ」
「実は生き別れた兄弟とか」
「ほんなら俺とは今日限りで解散やなツム。一人部屋清々するわ」
「なに目輝せとんねん!サムのアホ!」

佐久早にのっかる古森に、薄く曇った東京の空とは反対に晴れやかな表情でさらにのっかる治。俺の周りは敵だらけか!っと侑が地団駄を踏む。

「モヒカンは良いとしてプリンは直さないの?」
「…めんどくさいし、金髪にしたい訳じゃないから」
「じゃあなんで金髪にしたんだ」
「目立ちたくないから」
「うん?なんて?」

モヒカン談話から抜け出し昼神が孤爪に尋ね、すかさず星海が疑問をぶつける。聞いても聞いても疑問が解消されない返答に白馬は首を傾げる。鴎台に質問責めされるも、一瞬チラリと見やっただけで視線はスマホのままで時折何かを探すように周りを見回す。
何か探しているのか、孤爪の視線に釣られ赤葦も視線を遠くに向けた。会場の外は高校生だけでなく幅広い年代で変わらず賑わっている。その中には風船を持った子供がちらほら見えるので、どこかで催物があったのかもしれない。十数メートル先にいる女の子も片手は母親に手を引かれ、もう片方は赤い風船から垂れ下がる紐を持っている。微笑ましくその光景をぼんやり見ていると、女の子が段差に躓いてしまった。手を引かれていたので転びはしなかったものの、紐から手を離してしまった。


「あ!風船!」

子供特有の甲高い声に、今までいがみ合っていた者達もその親子へと視線を向ける。
母親は子供に気を取られ空へ登っていく風船に気付くのが遅れ、慌てて手を伸ばすも宙を切る。白馬なら届くだろうがなんせ距離がある。星海が一か八かで走るモーションを取るが視界の向こうに色鮮やかな橙色が飛んだ。
前が開いた黒いベンチコートを靡かせ母親の身長を超えた。男子高校生にしては小さい手は風船の紐を掴み地上へ戻った頃には、誰もがその正体を確認した。
烏野10番、日向翔陽。準々決勝で発熱により途中退場しその後姿を見ていなかったが、顔にサイズが合っていないのか大きめのマスクを身に付け現れた。
子供の目線に合わせしゃがんで風船を手渡しすると、子供は元気よくありがとう!と言う女の子の頭を撫でた。母親は何度も頭を下げお礼を言っているようだ。ハイ!イイエ!と頓珍漢な返事をし、立ち上がると不用心に置きっぱなしにしていた斜め掛けの鞄を手に取ると世話しなく辺りを見渡す。
もしかして何か取られたのかと赤葦がはらはらしていると、隣にいた赤色が動き出していた。歩を進め日向に近づく孤爪に、初めて赤葦は彼が日向を待っていたことに気付いた。

「…翔陽」
「研磨!」

孤爪の呼び掛けに元気よく振り返る日向のやり取りに、音駒と赤葦以外が首を傾げる。
そんな皆の代表として侑が疑問をぶつける。

「あれ?翔陽君って実は2年やった?」
「日向は1年だよ」
「研磨と日向は友達だからな」

赤葦が正確に日向の学年を言うと、山本は腕組みしながら答える。
友達、というと高校から知り合った訳ではないのかと古森が尋ねる。

「東京と宮城だよね?昔、ご近所さんだったとか?」
「いや、去年の5月に練習試合で」
「距離の詰め方えぐくない?普通他校の先輩呼び捨てにできへんわ」
「研磨は体育会系のノリが苦手だし、日向はコミ力だしな」

山本のざっくりした説明に、The体育会系の銀島は自分には理解出来ないと肩をすくめる。
そんな会話を聞いているかわからない星海は、興奮気味に叫び今にも飛び出そうとするのを昼神に首根っこ捕まれる。

「日向翔陽!」
「こら、光来くん邪魔しに行かないの」
「なぜだ!?俺だって日向翔陽と話したい!あいつもう大丈夫なのか!」
「なんでフルネーム呼びなんだ?」
「日向翔陽は日向翔陽だろ?」
「女優とかをフルネームで呼ぶ的なやつか」
「日向翔陽は女優じゃないぞ?」
「日向翔陽のゲシュタルト現象起こしてる」

国民的アイドルや女優の如くフルネームを連呼する星海に、これ以上話をややこしくするなと昼神は白馬を見やる。それを察した白馬は口を閉じ、昼神は今だ飛び出そうとする星海に声をかける。

「孤爪君に用があって来たんじゃないの?なら邪魔しちゃダメ。容態なら後で聞けばいいじゃん。ほら器の大きいとこの見せ所だよ」
「…わかった」
「わかるんかーい」

昼神の挑発とも取れる諭しに思ったよりも素直に言うことを聞いた星海に、見守っていた角名は抑揚なくツッコミをいれる。
同じ東京として何度か音駒を見かける事の多い古森は、孤爪の様子を珍しそうに見ていた。

「あんな生き生きとした孤爪初めてみた」
「ああ、研磨は今までバレー好きじゃないから勝とうが負けようが興味ないからな」
「は?」

信じられないという感情を隠さないのは何も佐久早だけではない。だってここにいる者は皆勝つために来ているのだ。負けて良いなんていう考えは生憎持ち合わせていないのだ。
普通はその反応だよなと山本は内心で思いつつ続ける。

「まず運動嫌いだしな。走り込みとかすぐ近道探すし、自主練は絶対やらないからな」
「あの子本当にスポーツマン?」

自分は佐久早のねじ曲がったサーブを取るのにどれだけ居残ったと半目になる古森に、そう言えばと治が角名を見る。

「角名もランニング中に抜け道探してたよな」
「あの道さぁ、スマホの地図アプリで見ても抜け道ないんだよね。次からルート変えない?」
「しっかりしろよスポーツマン」

どいつもこいつもと半笑いになる古森に、今回音駒と東京予選で対戦していた赤葦は思い出したかのように口を開く。

「でも今回は勝ちに執着を感じてたよね」
「ああ!研磨にとって日向を倒すために春高来たようなもんだから」
「どうなってるの音駒は」

日本一になるために春高に来たのではなく、日向を倒しに春高に来た。正気とは思えない動機に、しかし日向翔陽だしなと昼神は考え直すと、当の本人がこちらを向いた。

「あ、こっち向いた」

孤爪越しに色素の薄い瞳がこちらを覗く。視線は稲荷崎の方を向いている様子で、身振り手振りで何かを孤爪に伝えている。

「あれ、ツムの真似しとらん?」
「はあ?あのすました顔はサムやろ」
「原材料一緒じゃん」
「というか孤爪が凄い笑ってる」

あの性格悪そうな表情はお前や、とまた言い合う侑と治に、違いがわからないと角名は言い放つ。
それよりも孤爪があんなに笑った所を見たことないと古森は凝視する。すると日向の指が井闥山を指している気がして、佐久早の顔を覗く。

「今度は俺達指差してない?」
「…こっち見んじゃねぇ」
「なんや俺らと大分差があるような…」

稲荷崎とは違い心なしか目が輝いているように見える日向に、つれないわ翔陽君!と侑がふてくされる。試合最後に言った言葉忘れてたらどついたると思っていると今度は鴎台の方へ視線が移動した。

「あれ!絶対俺の事言ってる!」
「はいはいよかったねぇ」
「今適当に返事しただろ!」

孤爪が驚いたように振り返ったのを星海は得意気に自分の事を言ったのだとふんぞり返る。それをどうでも良いと適当に返事した昼神に機嫌が急降下する。


「…あれヤバくない?」

いち早く気付いた古森の言葉に顔をあげる。先ほどまで楽しそうに話していた孤爪と日向が、私服姿の自分達と同年代ぐらいのひとりの男に何やら一方的に絡まれているように見える。
孤爪は日向の服を引っ張り自分の後ろへと誘導している。その姿は親猫が子猫を守るために庇うように見え穏やかではない。日向は日向で孤爪が気になるのか素直に後ろへと隠れようとしない。お互いに気遣っているのが手に取るようにわかる。
男が声を荒げ孤爪の胸ぐらを掴む。日向は孤爪を助けようと男の腕を掴むも、反対の腕で振り払われ後ろによろけてしまう。

「うちのセッターと他所の1年に何してんだ!?」

見るや否や山本の行動は早かった。荷物をコンクリートに下ろすと大股で飛び出して行った。赤葦は動揺し、とっさに今まで一言も口を開いていない福永を見る。
福永もエナメルバッグを下ろしてから中を探ると、おもむろに2リットルのペットボトルの水を取り出した。

そう、水を取り出したのだ。

福永、お前ずっと2リットルの水を肩から下げていたのかとか、その水まさか鈍器に使うんじゃないよな、など周りは目を剥く。

「福永!」

山本が首だけ後ろを振り返り福永を呼ぶ。

「ちゃんと狙えよ!」
「……OK牧場」

ちょっと待て。どこを狙うんだ。福永そんな声だっけ。
この一瞬、協調性のなかった2年生達が初めて心をひとつにした瞬間だったかもしれない。

「よし!行くぞ!!」
「ちょっと待て山本!福永!」
「赤葦!悪いけど荷物頼んだ!!」
「違うそうじゃない!」
「ふたりとも落ち着いて…って聞いてない!」

赤葦と古森が呼び止めるも話しを聞かず、音駒の"万能の両翼"は行ってしまった。今すぐ走ってふたりを止めるにしても孤爪と日向は救えないし大事になってしまう。先生やキャプテンを呼ぼうとスマホの連絡アプリを開くと、向こうから黒い群れが見えた。

「あれは…」

男を背後から囲うように立つ5つの黒い群れは烏野の2年組だった。烏野は全体的に身長は高い方ではない。特に2年生には平均的でバレーでは低い方に分類される。それなのに圧倒的な威圧感を放っているのはなぜだろうか。

「あの坊主とリベロ、ヤンキーかよ」
「バレー部2年生ヤンキー多い説」

佐久早が言い捨てた言葉に誰もが頷く。田中と西谷が深夜のコンビニの前にたむろっている集団に負けず劣らずな顔の怖さに、烏野に気付いた男が孤爪の服を離し後ずさる。
そんな様子を見ながら古森は先ほどの侑と山本のメンチ切りを思い出しヤンキー説を唱える。

「特にヤバイのあの黒髪のやつ。ラスボス感が半端ない」
「控えでいた他のふたりも目に光がないぞ」
「ジャージと相まって凄みが増すな」

何も顔の怖さだけが怖さの証ではないとでも言うように、縁下の風格は田中と西谷とは別のベクトルで威圧感を放っていた。木下と成田も生気のない目に不気味さを感じる。
後ろは烏野、前からは山本達が合流し男は完全に包囲され針のむしろとなり、三流の悪役の台詞を吐き捨てその場をそそくさと去っていった。
男が去ってから音駒と烏野が先ほどの空気など微塵も感じさせず、穏やかに交流している。どうやら烏野は日向を迎えに来たらしい。別れ際に田中と山本が涙を流して握手しているのを孤爪は日向の目を隠し、他の者は西谷以外顔がひきつっている。

「銀ちょっと羨ましいと思ってる?」
「べ、つにそんなことは」
「銀もああいう熱血みたいなもん好きやんな」

他校にあんな熱く語れるのがほんの少しだけ良いなと思っていると、角名に言い当てられ目を逸らす。しかし全然誤魔化せなく侑は意地悪く笑う。
別れの挨拶を済ませると音駒に手を振る。後ろを見ながら歩くので縁下に前を見ろと注意され大人しく言うことを聞く。横から木下が前が開いていたベンチコートを閉められ烏野は自分達の巣へと帰って行った。
音駒も山本と水を抱えた福永が孤爪を連れて戻ってきた。

「おかえり」
「赤葦、荷物悪かったな」
「いや、見ててはらはらしたけど。孤爪大丈夫?」
「大丈夫」

孤爪は先ほどの事など何も無かったかのように平然とし、赤葦の隣へと最初と変わらず元の場所へと立ち止まる。最初と変わらない、とは言っても今まで持っていなかったタブレットの存在に赤葦は気付いた。

「タブレット?」
「そう。翔陽が病院でも試合見れるように貸した」

孤爪の言葉に日向は烏野と自分達の試合を最後まで見届けていた事を知り、鴎台は少し空気が重くなる。
そんな周りなどお構い無く孤爪はイヤホンを取り出し、端末をタブレットに繋げるのを見て山本は怪訝そうな顔をする。

「またゲームか?」
「違う。烏野の"俺すげー動画"翔陽編」
「なんだそれ」
「烏野がモチベーション上げるために一人一人のハイライトを集めた動画。その翔陽のデータのコピーを移してもらった」
「俺も見てもいい?」

軽く説明する孤爪に赤葦は興味が湧き尋ねると、ふたつ返事で返した孤爪は繋いだばかりのイヤホンを外し、指定しておいたフォルダの中に目当ての動画を見つけ画面一杯に画像を設定する。
さぁ再生をと指でタップしようとしたら後ろから押されたので福永か山本が液晶を覗こうとしたのかと思い振り返る。

「ちょっと、押しすぎ…」

孤爪の背中を押したのは山本だが、自分の周りを囲うように全員が液晶を覗こうとしていたので山本も誰かに押されたのだろうと推測する。
佐久早が近すぎ離れろと侑を睨むと、だったら見なきゃええやんと返している。背の高い白馬は余裕で皆の頭の上から見下ろし、星海は赤葦の横から覗き込もうとしていた。

「まぁ、いいけど」

孤爪は半目になりながらも画面を見易いように傾け再生をタップした。するとロッキーのテーマ曲が流れ、日向のイメージと解釈違いだなと孤爪は思った。
それとは裏腹に映像は日向のファインプレーが映し出される。日向のプレーは変人速攻がメインでありスパイクによるものが多い。コートを縦横無尽に駆け巡る日向を見るのは気持ちが良い。

「本当によく飛びよる」
「ええな、飛雄君。こんな飛び道具振り回して楽しいやろなぁ」
「日向、成長したな…」
「赤葦はどこ目線なの」

やっぱり腹減るなと呟く治。侑はそれは羨ましそうに目を輝かせながら動画に見入る。日向の成長具合に赤葦が染々と言うのを古森が笑いながらつっこむ。

「それ送ってほしいんだけど」
「翔陽と烏野の許可がないからダメ」

それもそうだよなと納得する角名は、後で侑から影山伝えで何とかならないかなと考える。
動画は和久谷南の試合を映し日向がブロックからの、ボールを拾いフライディングを上手く活用しスパイクに飛ぶシーンで山本が笑う。

「罰ゲームの成果出てるな!」
「罰ゲームって?」
「梟谷の合同合宿で負けた学校はフライディング一周。去年からは音駒が烏野呼んで参加してる」
「そんな友達呼ぶ感覚で宮城から呼ぶか…?」

昼神が罰ゲームとは何だと尋ねると山本が答えた。あまりに軽い誘いに距離感どうなっているんだと白馬が首を傾げる。
動画は激戦を繰り広げた青葉、白鳥沢へと移る。特に牛島の登場に佐久早は液晶を凝視する。

「ねぇ、その合宿って俺達参加できないの?」
「…王者を倒すための合宿だからどうだろう」
「王者倒すなら王者いた方がよくない?」
「井闥山呼ぶなら鴎台も呼べ!」

佐久早が若利君止めたブロックと心の中で呟くと赤葦に尋ねる。渋る返事に古森も援護に周り、星海も便乗する。赤葦の独断で決めれる訳がないのだが、王者相手に手の内見せるのは本末転倒ではと思考する。

「善処します」
「それ日本人特有の拒否でしょ」
「そう言えば赤葦、日向がまたトス上げてって言ってた」

古森に本音を言い当てられるも表情を変えなかった赤葦だが、孤爪の言葉になぜ今それを言うのだろうかと内心愚痴った。
すると想像した通りNo.1セッターが黙ってなかった。

「翔陽君にトスあげてんの!?ええなぁ!稲荷崎も呼んでや!」
「ってか、孤爪はトスあげないの?」
「…5本が精一杯」
「おいスポーツマン」

ユースがこぞって梟谷に参加したがっていると自分のコーチが知ったらどんな反応するかな、と他人事のように赤葦はついに考えるのを諦めてしまった。
どうしてセッターなのに孤爪ではなく赤葦がトスを上げているのか昼神は疑問に思い孤爪に尋ねるも、その返答に白馬が呆れる。
動画が終わると今まで玩具を見るように目を輝かせていた侑は表情を消して口を開く。

「まぁ、でも次のIHで絶対潰したる」
「…負け犬の遠吠え」
「だからここにいるやつら全員負け犬じゃい!」
「話しループさせるなアホ」

佐久早の挑発にまた冒頭のような話を繰り返すなと治は咎める。反対側から星海が稲荷崎じゃなくて自分が日向を倒すのだと反論する。

「次は日向翔陽倒す!」
「ここにもいたよ打倒烏野」
「烏野じゃなくて日向翔陽」

今回の試合は気持ちよく勝てた気がしなかったのは昼神も白馬も一緒だった。条件が一緒だったと言えない魔の3日目。それも含めて実力の内なのかもしれないが、今度は準備が整った烏野と試合をしたかった。

日向翔陽。その橙色はきっと色褪せることなく学年を変えユニホームの番号が一桁になろうとも、"烏野10番"という単語は深く記憶に刻まれた。

孤爪は動画をもう一度繰り返し再生し、目を細めて薄く笑った。

「次はどうやって翔陽の翼もぎ取ろうか」