# 01


じい、っと画面を見つめる。スマートフォンの、メール画面を何度も更新しては、眉間にしわを寄せる。それを昼休みに入ってから何度も繰り返す片割れに、ついに治は大きく舌打ちをした。

「飯食うとる時に不味なる顔すんなやボケ飯に失礼やろが」
「アァ?ちゃんと飯食うたやろ見とったやろ豚」
「お前ら十分も我慢出来ひんのかい」
売り言葉に買い言葉で瞬間的に胸倉をつかみ合う双子を食堂ではやめとけや、と結は肩をすくめがなら軽く制した。
普段は各々教室で昼食を摂る事が多い面々だが今日は昼MTを開いていた為、そのままなし崩しに現三年生主力メンバーで食堂にて集まっていた。当然食堂には自分たち以外にも生徒がいる。そのような中でああやっぱりバレー部は輩が多いんだな、と思われるのは非常に心外であるのだ。
信介とアラン亡き今、不本意ながらツッコミをするのは自分しかいない。というよりはっきりとアランから託された結はしっかりとこの双子たちと付き合っている。アランが聞けば『バリバリ生きとるがな』とまたツッコミが入るだろうが。
「昼休みのたびにそわそわしてるよね。ショーヨー君だっけ。あの烏野のオレンジ」
結とは対照的に傍観者を決め込む倫太郎はゆっくりとご飯を咀嚼しながらスマートフォンを操作する。
片手間のように見えるがしっかり覚えていたらしい。裕渡があのよう飛ぶ奴かあ、と口を挟む。
「ていうか、ほんまにやり取りしとるんやな。マメやな」
その言葉に一同の目が今一度侑の方へ向けられる。当の本人は目が鬱陶しいねん、と言いながらやはりスマートフォンを一度タップして、通知が来ない事を確認すると面白くないといったように大げさに項垂れた。
「もー、翔陽くん日中全然返信返してこん。夜はいつも二十三時過ぎたらうんともすんとも言わんし。小学生か!健康的でええなあ!」
「情緒めちゃくちゃやないか」
三年生たちが侑を見る視線は冷めているが、見放してはいない。何せあの人でなしが一個下の他校の後輩に対しては献身的な『良き先輩』の面を見せているのだ。それは悪い事ではない。余談ではあるがこのことをアランに連絡したところ『あの侑が・・・』と涙ながらに連絡を返してきたのは記憶に新しい。
何はともあれ、宮城と兵庫という遠距離ではあるものの、現代の最新機器によって地道な交流を続けているのだ。紆余曲折あったが。
そう、紆余曲折。

「というかあの時やばかったけれどね。IHに烏野が見に来てたやつ」
「いやあれほんま・・・日向がええ子で良かったで冗談抜きで」
「俺は一番こいつと縁を切りたかった瞬間や」

茶化すように。面々は先月の事を思い返す。

IHで叩きのめしたる。その言葉が実現する事はなかった。烏野が、伊達工に敗れたからだ。
その時は侑自身しょうもない事しおって、とも思ったが同時に烏野が飲まれ、その中で勝ち上がってきた学校とぶつかり合うかもしれないことに高揚感も覚えていた。そして烏野とてそこで終わるような相手ではない。IHで叩けなかったら次は春高でリベンジするまで。正真正銘挑戦者として。
再戦したかったのは嘘ではないが、過去を振り返ってなんていられない。次の楽しみに備えるだけだ。
意外にも、侑は平静を保っていた。そして周囲は大人になったものだと感心していたものだ。
IH当日、観客席にて敵情視察を兼ねて観戦に来ていた烏野を、翔陽を見つけるまでは。

「お前ほんまやばかったからな。見つけた瞬間なんて言ったか覚えとんか?」
「うっさい俺は過去は振り返らんのや」
「『何自分おもんない負け方しとんじゃボケコラッ!』普通言わんやろ試合前に」
「事実やんけ」

わざとらしくむくれる侑にやれやれと首を振る。
いくらアップ前だからとはいえ、多数の観客の前で言うようなことではない。哀れ直球の言葉のボールをぶつけられた日向は文字通り震えていた。試合中は貪欲にこちらを食らおうとせんばかりのプレッシャーすら放っていたというのに案外小心者らしい。最も侑相手では仕方ない部分もあるが。

「あん時ほんまにこいつ刺されたらええのにって思ったで。正気か?思たわ。観客席にいた北さんとアランくんらの顔見たか?おん?」
「やめえ!!思い出してまう!」
「皆頭抱えてたし北さんのあの真顔の圧、過去最高にすごかったしね」
「そんな思い出はいらん!」
集中砲火の避難轟々。その時の情景を思い出したのか頭を抱えて侑は震えだしていた。勿論自業自得である。
あの時震えている烏野のオレンジの10番を見てこれはあとで烏野、というより日向にフォローをしに行くしかない。何より自分たちも同じ穴の狢と思われても困る。稲荷崎の面々は強く決心した。したのだが、目を少し離したすきに侑がちゃっかり翔陽と連絡先を交換していたことに関してはその変わり身の早さにいっそめまいすら覚える程であった。まるで某昼のコメディ劇のように転げそうであった。
自分から逆切れした癖にどの面下げて連絡先交換してんねん、等。お前どの流れでそうなったん?等。顔真っ赤でウケるんだけど、等。ある意味大盛り上がりで非難と野次の嵐が振りまいていたがそれを収めたのも渦中の翔陽であり。

『俺、本当にうまいセッターの人と連絡先交換出来て嬉しいです!次は必ず春高のコートで会いましょう』と。

圧の強い関西弁に飲まれつつも、はっきりと真っすぐ言葉をぶつけるその姿になんてええ子や、とささくれていた稲荷崎の面々は大いにほだされたのであった。
その後、ありがとうございます、治?さん!とベタな間違いをしでかしもうひと嵐振りまいたのは省略するのだが。