# 02


その日の夕食後、食堂では夕食を終えた烏野、稲荷崎の面々がお喋りに興じていたり、スマホをいじっている者もいたり、と各々好きな時間を過ごしていた。
早々に立ち去った者もいるが、固まって残っていた烏野の面々の所へ1人の人物が近づく。

「縁下くん」

そう言ってヒラヒラと手を振りながら近づいてきたのは侑だ。
お互い主将である為、合宿に関する打ち合わせや連絡など行うこともある。何か伝達でもあるのだろうか、と縁下は侑に向き直る。

「なんだ?」
「いやな、今日うちのもんがお宅の翔陽くんに世話になったもんやから、お礼をと思ってな」

その一言に縁下は首を傾げる。

「世話?何の話だ?日向からは何も聞いてないけど...」

縁下の言葉に侑は目を瞬かせた。

「...なんや、何も聞いてへんのか...」

言わない、とは言ったもののてっきり主将の縁下くらいには話しているものだと思っていた。
それに、一緒に合宿を行っている烏野からしたら巻き込まれる可能性はゼロではないのだ。話しておくべきと踏んでもおかしくない。まだ日向の人間性を深くは知らない侑は、感謝もあれど、確認の意味も込めて話を切り出したのだが...

「いや...すまんかった。聞いてないならええねや。邪魔したな」
せっかく日向が黙っていてくれたのだ。
わざわざこちらから暴露する道理もないだろう。

来た時同様食えない笑顔で去っていく侑を、縁下と周りにいた面々は「何だったんだ...?」と言いながら見送った。





その足で侑はあの場にいなかった日向の元へ向かう。
まぁここにいるだろう、と当たりをつけて烏野の寝泊まりしている教室を覗けば、その予想は外れず目的の人物は烏野の部員が固まって話している中心にいた。

「翔陽く〜ん」
「!ミヤ...アツム」
「宮さん...チッス」

最後に見た侑があの恐ろしい姿であった日向は顔を引き攣らせ、影山はいつもと変わらぬ表情でペコリと会釈をする。
その横では他の面々が「宮侑...」「何でここに...」と口々に呟いている。

その声を気にする風でもなく、侑は「どぉもぉ」とヘラリと笑うと、「ちょっとええ?」「翔陽くん借りてくなぁ〜」と言い、「えっ?えっ!?」と戸惑う日向の手を引いて出ていってしまう。

残された面々はというと
「いいのか?あれ...」という声が上がるものの、誰も引き止めることはできず、大人しく見送る羽目になった。

(だってあれ...)
(うん...有無を言わさず、だったよなぁ...)








「翔陽くん何飲む?」

そのセリフに依然呆気に取られたまま、気がつけば自販機の傍にあるベンチに座っていた日向は「え、あ、いや...」と口ごもるも、「ほれ早よぉ。もう小銭入れとんねんから」と急かす声にとっさに「あっ、オッ、オレンジジュースで!」と応えた。

「ん」

自分の分も買った侑がオレンジジュースを日向に投げてよこす。

「アリガトゴザイマス...」
「おん」

日向がジュースのフタを開けるのを見届けたあと、人1人分空けたところに腰掛けながら侑が口を開いた。

「自分、お人好しやなぁ」
「?」
「なんの事か分かってへんゆう顔やね」
「あぁ、ちゃうな。まずはちゃんとお礼さして貰わなな」

「昼間はうちのアホどもの行動、庇ってくれてほんまにありがとぉな」
「あん時翔陽くんがとっさにああしてくれんかったら、ほんであの教師にバレとったら、うちの部はタダじゃ済まんかった。主将として、ほんまに感謝しとる」

ありがとう、と侑は日向に頭を下げる。

初めて見る侑の殊勝な姿に、一瞬呆然とその頭を見つめる日向だったが、すぐにハッとし、「いや!そんな!あの時はホント...何も考えずにやったっていうか...だから、お礼を言われるような事じゃ...!」
だから頭を上げてください!と、ワタワタと手を振りながら言う日向に、侑は下げていた頭を上げると

「やっぱり、お人好しやな」

再びそう言って、笑った。





「翔陽くんには、情けないとこ見せてもたなぁ...」
「あの...あの人達ってどうなったんですか?」
生きてるのかな...。日向が物騒な事を考えてるとはつゆ知らず、侑は「あぁ...」と、あの後の事を話し出した。

「アイツらには「今後の身の振り方は自分で考え」だけゆうたわ。昼間もゆうたけど、ああいう連中はちょっとこっちが説教たれたところで直ぐに変わるモンやないし何遍でも繰り返す。自分らで今後どうするか考えな意味ないからな」
「そしたら、練習終わりに「辞めます」言うてきたわ」

「...部員の数が多いとな、ああいうどうしようもない連中も出てくる。こっちとしては、真剣にやる気ないんやったら勝手にせぇゆう感じやし、そういう奴らは辞めてもらっても一向に構わんのやけどな、」

そこまで言うと一口ジュースを飲み、ふぅ、と息を吐き出した後、言葉を続ける。

「...真剣にやっとるもんの水差すんは勘弁ならん。これまで北さんら、先輩らが培ってきたもんをあんな連中に崩されるとこやったかも知らんと思ったら、頭に血がのぼってな。久々にガン切れしてもたわ」
ははっ。と笑う侑にあの時の様子を思い出した日向は身震いする。

でも...先程の話を零す侑は、自販機の薄暗い光によって出来た影も相まって、普段の軽快さがなりを潜めているように見えた。
そしてそこに主将としての苦労も確かに感じとった日向は、セッターとしての才能はもちろん凄いが、失礼ながら嫌味ったらしくて横暴で怖い人、と思っていた自身の認識を改めた。

高校No.1セッター、強豪校の主将。
その肩書きに違わぬ才能と、そして自信。
そんな侑の本音、先輩たちへの尊敬の念、そして少しの弱った部分に触れたような気がした日向は、何だか胸がムズムズとするような心地を覚えた。

「せやから、翔陽くんの真剣にやっとる人らに、っちゅうあの時の言葉は刺さったわぁ」
北さんにもエラい刺さっとったけどな。
そう言ってフッフと笑う。

「でも、ほんまに誰にも言わんかったんやな。あんなもん口約束やったのに」
あれで脅すことも出来るんやで〜?と意地悪く笑う侑に、日向は少しムッとしながら返す。

「...しないって言ったこと破るのは嫌だし、それに...」
「そんな形じゃなくて、ちゃんとバレーやって次も正々堂々と俺たちが勝ちたいから...稲荷崎にも、バレー以外の事はカンケーなく全力でおれたちと戦って欲しいから...!」

そう言って力強い目で自分を見てくる日向に、一瞬ゾワリとしたものが侑の体を駆け上がってくる。
バレーに対するひたむきな姿、そして周りにもそれを求める、悪くいえば強要ともいえる
ような発言。そこいらの人にとっては臆してしまうようなその態度も、こちらにとっては発奮材料にしかならず、侑は好戦的に目を煌めかせる。

「エエやん!めっちゃ気に入ったわ!」
「そうやんな。相手潰したろ思たら、バレーで全力で叩きのめす。それ以外はないわな」
「...けど」

「次勝つんは俺らや」
「次もぜってぇ負けません!」

そう言って二人は睨み合ったあと、同時に吹き出した。

(こぉんな損得も考えんと、バレー以外の事頭にないようなバレー馬鹿、俺以外にもおってんな...こん子が傍におったら楽しいんやろなぁ)




その後も二人はしばらくバレーの話や雑談を交わし、途中から「宮さんじゃなくて侑でええよぉ」などの呼び方変更も経て、そろそろ行くかと立ち上がった頃にはすっかり日向の侑に対する苦手意識は頭からなくなっていたのだった。