# 03


合宿2日目。
今日も今日とて熱の入った練習や試合をこなし、迎えた夕食。

「イタダキマス!!」

皆で手を合わせ、作ってもらったご飯に手を伸ばす。

(やっぱり北さんのご飯うめぇ〜)
ご飯を口いっぱいに頬張りながら日向は感激している。生産者の顔が分かっているとまた味わい深く感じるものだなぁと、うんうん頷きながらご飯を味わっていると「おチビ、また何杯もお代わりするの?」
「縦じゃなくて横に伸びちゃうんじゃない?」
そう言ってププッと笑うのは月島だ。

来たな...だが、今日の俺はひと味違うのだよ月島くん。

「言っとくけど、北さんがいっぱい食べてくれって言ってくれたんだからな!」
「だからいいんですぅー!」

そんな訳でおかわりくださーい!
そう言って谷地のいる給仕スペースに向かった日向に

「...はぁ?」
「北さんって...あの、去年稲荷崎の主将だった...?」
意味ワカンナイだけど...。
そう月島はブツブツと呟いている。

稲荷崎メンバーの座るテーブルまで聞こえてきたやり取りに、「フッフ」と侑は楽しそうに笑い、それを見た治は「きも」と言いながらも、おかわりをしている日向をジッと見つめていた。






「「あ」」


喉乾いたからジュース買ってくる!と言って部屋を出た日向は、自販機の前で治とバッタリ出くわした。

「こ、こんばんは」
「おう」
「...」

(き、気まずい...)
この人何考えてるか分からないんだよなぁ...。
試合中に見た治は、スパイクも凄いし、臨機応変にプレースタイルを変えるところは日向の心を踊らせるものだったが、同時に、顔を歪め怒鳴っている姿も見たので侑と同じ性質なのだと思っていた。
だけど昨日のお昼の出来事の際は、治はあまり表情を変えないし、あまり積極的に喋らない人物のように見えた。
そのギャップが「コノヒトヨクワカラナイ」になった日向は、治への接し方がよく分からないでいた。
とりあえず早く買って早く帰ろう...!と先輩である治に「オサキドウゾ...」と促すと、

「ショーヨーくん何飲む?」
「デジャブ?!」
「は?」

昨日と同じ光景を、昨日と同じ顔の人物に言われ思わず叫んだ日向に、治は首を傾げている。
何だろう...稲荷崎にはとりあえず他校であろうと年下には奢るという習慣でもあるんだろうか...。

「イエっ!大丈夫です!」
そう言って首をブンブンふる日向だったが
「昨日のお礼やから気にせんでエエで」
と言われ、あぁ!と思う。

「それならもう昨日侑さんに奢ってもらったので!」
「...ツムが?」「それほんまにツムか?」
首を傾げている治はどうにも納得していないようだった。

「はい、なのでもうお礼は頂いたので!」
気にしないでください!そう続ける日向に、治はうーん、と考える素振りを見せるも
「それはそれ、これはこれやろ」
「っちゅうか、俺らは二人で一人なわけやないしな」
一緒にされたらかなわんわ。と眉間にシワを寄せる治に断る手立てを失った日向は、昨日と同じく「じゃあ、オレンジジュースで...」と答え昨日と同様にお礼を言い受け取る。
そうして自分の分も買った治がそのままベンチに腰掛けたので、「おれも座るべきだよな...」と迷いながらも座った。

「...昨日はありがとな」

昨日の侑同様お礼を告げる治に「いえ!」と首を振る。

「侑さんから話を聞きましたけど、強豪校も強豪校ならではの大変さがあるんだなぁと思いました...」

「...自分、ツムとそんな話したん?」
「え?はい。」

日向の言葉に、治は「あのツムがなぁ」と心の中で呟く。
何をどこまで日向に話したのかは知らないが、普段から敵を作りやすい侑は、その分自分の弱みを他人に見せないし、自分の苦労なんかを赤の他人に話すような性格ではないのだ。
生まれてから今日まで侑と共に過ごしてきた治は、侑の性格を間違えようがない。
そんな侑が、下手すると自分にすら明かさない胸の内を、この他校のスパイカーに話したというのだから驚きだ。
今日の夕食時の反応から見ても、侑が日向のことを気に入っているのは明白だった。

(なんやこの子に入れ込む何かがあるんやろか)
日向をジーっと見る治に「...?何ですか?」と問うも返事はない。

(な、何なんだ?!)
戸惑う日向を気にもせずそうしてしばらく無言で日向を見つめていた治だったが、唐突に切り出した。

「何やハラ減ってきたな」

(突然?!やっぱりこの人よく分からない!)
唐突な発言に目を丸くした日向だったが、そう思ったところで、今日の夕食後に谷地が言っていた言葉を思い出す。

「そういえば谷地さん...うちのマネージャーが、ご飯余っちゃった。って言ってましたよ」
「マジか」
「マジです」

食べ盛りの男子高生が集う合宿では、ご飯など食らい尽くされる事の方が多い。
実際、初日はご飯が足りなくなったため、2日目には多めに炊いておいたのだという。
結果今日は余ってしまったらしく、「ラップかけて置いとこうかな...」と谷地が言っているのを聞いた。
夕食時のやりとりを思い出していると、隣にいる治から「グゥ〜...」とお腹の音が聞こえてきて思わず、ブッ!と吹き出す。
でもご飯の話をしたため日向もちょっとお腹が空いてきたのは事実で。

「...食べに行っちゃいますか?」
イタズラっぽく問いかけると、治も頷いた。



「あったあった!」

食堂に着き、日向は嬉しそうにご飯が置いてあるところまで近づくと「温めますね!」と電子レンジにそれを入れた。
数分後、『ピー!』という電子音がして、日向は「アッチィ!」と言いながらも取り出す。

「おにぎりにしますか?」
「そやな。握るわ」

そう言った治に「先輩にさせる訳には!」と慌てた日向を制し、おにぎりを握る。他に食材はなかったため、シンプルな塩むすびだ。
程なくして出来上がったおにぎりを前に二人は向かい合って座り、「いただきます」と手を合わせかぶりつく。

シンプルながらも塩加減がちょうどよくて、日向はあっという間に最後のひと口を口に入れる。
小腹が空いていたのもあるが、強豪校の凄いスパイカーと、こうして二人だけで、皆に内緒で、というシチュエーションもおにぎりの美味しさを倍増させている気がするな、と思いながら咀嚼を終え、素直に感想を述べる。

「ゴチソウサマデシタ!」
「宮さんの握ったおにぎりチョー美味かったです!」
「...おにぎりなんて誰が握っても美味くなるやろ」
「何言ってるんですか?!ちょうどいい塩加減と握り具合!おれが握ったらこうはいかないです!形もキレイだったし!宮さん料理上手っぽいすね!」

次から次に自身の握ったおにぎりの賞賛をしてくる日向に、治はふと、思ったことを口にした。

「...そんならショーヨーくんは、もし俺がバレー辞めて食の道に進むゆうたら、どう思う?」

そう、なんとなしに聞いてみる。
今日初めてまともに話したような人間にするような質問ではないし、自分だって日向の答えに何か期待している訳では無い。
でも、何だか唐突に、日向に聞いてみたくなったのだ。

試合、そして今回の合宿で見るに日向がバレーを心から楽しんでいるのが見て取れた。
そして昨日のバレーに真剣なのがよく分かる発言。それに、あの侑と話が合うのであれば相当のバレー馬鹿だ。
とくれば返ってくる答えは「もったいない!」だろう。それでも...

治が思案している間「うーん...」と唸っていた日向が口を開く。

「正直、もったいねぇ!って思います」

ほらやっぱりな。

「宮さんバレーすっげぇ上手いし!背が高いのも羨ましいし!」

予想通りの答えに「変な事聞いて悪かったな」と言おうとした治だったが、次いで出た言葉に口を噤む。

「でも、バレーより好きな物があるんだったらしょうがねぇかな、って思います」
「おれはすっげぇバレー大好きだし、バレー以上に好きな物ができる気持ちとか分かんないし、別の道...とか考えられないけど...。あんだけバレー楽しそうにやってる宮さんが、それ以上にやりたい!って思えることがあるなら、それって大事なことだと思うし。
それに、もしかしたらバレー以上の才能があるかも知れないっすもんね!」

そう言って、顔の横で両手をグッと握り笑った日向に、治は言葉を詰まらせた。
何だか、胸の深いところをギュッと掴まれたような気分だ。
嫌気がさすほど周りに言われた「もったいない」という言葉も、日向に言われると素直に賞賛されて、惜しんでくれていると分かるから、嬉しい。
別の道に進むと言った自分を、否定されなかった事が、嬉しい。
日向の言葉がひどく治の心を擽って、次いでじわりと全身に暖かさが広がっていくような、そんな心地だった。

「宮さん?」

ボーっとしているように見える治に、「おれ変な事言っちゃったかな...!?」と不安になり慌てる日向に気づき、治はハッとする。

「っ、...あぁ、悪い」
「...ちょっとびっくりしてもうて」
「えっ?!やっぱりおれ変な事言っちゃいましたかね...」
そう言って気まずそうに頬を掻く日向。

「ちゃうちゃう。その逆や」
「逆...?」
「...ありがとな」
「?」

お礼を言われるようなことを言ったつもりはないけど...そう思う日向が頭上に?を付けているのが見えるようで、少し笑う。

「...ほんま北さんが言った通りまっすぐやなぁ、て思っただけや」
「???アザース!?」
「ブッ!(ちっとも分かっとらん)」

肩を震わせる自分に「なんで笑ってるんですか宮さん!」と顔を赤くしながら抗議してくる日向の言葉には答えず、ある主張をする。

「治」
「へ?」
「俺の名前。治って言うねん」
「知ってますよ?!」

自分の名前をさも当然のように知ってくれている日向に嬉しくなりがら、そう呼んでくれ、と言うと「!...治さん!」と笑顔で自分を呼ぶものだから、思わず日向の頭に手が伸びそうになるのを押しとどめた。

(アカン...これは北さんと同じやつや)
(ほんで、ツムの気持ちも何や分かるんが腹立つ...)

そんな治の心情を知らず、日向は
(治さんも思ったより話しやすいし、侑さんと似てるって思ってたけど、また性格が全然違うんだなぁ...)

と、この合宿中に稲荷崎メンバーの知らなかった一面に触れた事を、何だか嬉しく思うのだったーー。





かくして稲荷崎の面々との好感度を着実に、じんわりと上げた日向の周りには、


「おう、追加の米持ってきたで」
「北さん!おはようございます!」
「日向。今日もちゃんとやっとるな」
「ハイっ!」

日向の頭を撫でながら笑顔で会話をする北の姿に周囲がざわめき

(な、なんやあれ?何が起こっとるんや?) (幻...?)



「翔陽く〜ん!」
「今日も頑張っとるねぇ。侑さんがトスあげたろかぁ?」
「侑さん!ハイっ!お願いシャース!」

隙あらばニコニコと日向にちょっかいをかける侑の姿が度々目撃され



「日向、ここ座り」
「治さん!隣失礼しゃす!」

食事の際は日向の隣をガッチリキープする治の姿

が見られたそうな。



烏野メンバー
「何がどうしてああなったんだよ?!コミュ力お化け怖っわ!!!」