天日


「翔陽って本当、怖いくらいに真っすぐだよね」

レシーブ練習を終えて、大の字に寝転がって休憩をする日向を見下ろし、天童は持っていたバレーボールを指先の上で器用に回していく。
白鳥沢に入って来た日向は、誰に教わったかは知らないが、トスやスパイクの打ち分けができるくらいに器用さを持ちつつも、レシーブが苦手だった。

話を聞けば、中学はまともにバレー部としての活動をしていないようで、レシーブはかろうじて上がるといったものだ。
レシーブ以外の腕はあるのに、勿体ないと思い、天童が彼のレシーブ練を担当している。
日向を試合に出すには、レシーブ強化が第一理由だから、というのもあった。

「俺、ママさんバレーの人のスパイク程度しか、レシーブした事ないんで、天童さんや大平さんのスパイクを拾うのが、すげー楽しいです」
「レシーブが楽しいって」
「だって、こんなに強いスパイクやサーブ拾ってる、山形さんがかっこいいから、あんな風に取りたい」

山形は、三年で正リベロだ。
だからか、レシーブに関しては山形とよく話している姿をみる。
それは確かにそうだけど、拾えたら負けではないと言っているようで、嬉しくなるだろう。
しかも日向は瞬発力が高いので、ブロックアウトしたボールをやすやすと拾うものだから、練習試合とはいえ、対戦していると腹立つ相手に変わる。
味方だと頼もしいのは、言うまでもない。

「…翔陽」
「はい?」
「お前さ、ミドルブロッカーやろ?」
「…えー?ブロックですか?」
「うん、そっちがいいよ。レシーブ弱いから」

レシーブはリベロに任せて、囮やブロックをすればいい。
スパイカーより、活躍の場が増える。

「俺がブロック、教えてやるから」
「、はい」

体が落ち着いたのか、日向は上半身を起こして一息つくと、タオルやドリンクを取りに行く。
あんなに真っすぐな日向を見て、それだけバレーが好きなんだという事はすぐに分かった。
貪欲にボールを追いかけて、拾って宙に上がるそれに、まるで飢えた獣のような目で見るのだから、余計に目が離せない。
それが、普段の練習には見せない、更に普段の姿からは掛け離れた様相に驚いてしまった。
あまりのギャップの差に、魅入ってしまって、好きだなと自覚してしまった。
そう、好きという感情が、日向に対して向けられるようになった。
それに関して、違うという間違いではない事も何度か気づいているし、何よりも日向にマンツーマンで指導していると、一人占めしている気分になって、ちょっとだけ優越感に浸れた。

「さてと、寮の夕食時間に回ってるから、翔陽は今すぐ切り上げて帰ることー」
「あ、本当だ!すいません、お先に失礼します!」

通学が困難な人のために、白鳥沢には寮がある。
利用者はそこまで多くないが、運動部に入ってる人や、遠方の学生が占めている。
一応寮の時間厳守があるため、寮生である日向は決まった時間に自主練を終わらせる必要があった。
主将や三年に声をかけて、体育館から去って行った日向を見送り、天童もキリがいいから止めようかと考える。
適当に声をかけて、体育館から出た天童が部室に戻れば、日向がジャージを履いているのが見えた。

「お疲れさま」
「お疲れさまです!じゃ、お先に失礼します!」

慌てて駆け出そうとする日向の腕を掴んで、引き止めていると彼が足を止めて、上半身だけを捻る。

「天童さん?」

なんですか、と聞こうとした瞬間、天童の方から顔を寄せられて、唇にキスをされた。

「……は?」
「じゃ、また明日な?」
「え?あ、はい」

ペこりと頭を下げて部室から出て行った日向の表情に変化はなくて、何をされたか分かってんのかね、と疑問符を浮かべて着替えを始めていれば、どこからか奇声が聞こえてきた。

「あ、ようやく分かったな」

あはは、と一人納得して笑っていれば、自主練を切り上げてきた白布と五色が部室内に入って来る。

「日向の奴、どうしたんでしょうね」
「さあ?どうせ明日のテストでも思い出したんじゃない?」

二人の会話に、多分違うから、と胸の内でツッコミを入れるだけにして、手を動かす天童であった。