牛日


「ちくしょう、若利くんめ、翔陽とデートすんな!」
「デートと違うだろ」

隣を並走する天童に、大平が冷静にツッコミを入れて、流れる汗を拭って走る足を止めずにいた。
ただいま白鳥沢男子バレー部は、ロードワーク中であって、学校へと向かっていた。
主将である牛島は、さすが鍛え方が違うのかトップスピードとスタミナが他の部員よりも高く、いつも一人で先頭を突っ走ってしまった。
こればかりはついていけなくて、自分のペースでいいから走るようにとコーチに言われているため、部員達はホッとしながらも走りきるために、汗を流して進んでいく。

そんな中、一年の日向は、最初こそ皆と同じペースで走っていたが、何だか早く行きたいとウズウズしているのを、たまたま隣を走っていた大平が気づいて、先に行きたいなら行っていいよと許可を貰うや否や、牛島と並走して突っ走ってしまったのだ。
すばしっこい事は部活の練習で知っていたが、まさか長距離も慣れているとは知らず、誰もがあんぐりとしたのは言うまでもない。
そんな訳で、牛島に唯一ついて走れる日向は、ロードワークでは牛島と一緒に走っている。
走り始めは視界に入っていた二人も、十分も走ればあっという間に見えなくなる。
中学時代、ランニングと自転車通学で鍛えた脚力が、今発揮されてると話を聞いたチームメイト達は、まさか牛島についていける者がいるとは、と遠い目をしたのはいい記憶だ。

ちなみに先に帰っているだろう日向は、コーチと牛島のどちらかとレシーブ練習をしているらしい。
らしい、というのはまだ見た事がなくて、鷲匠監督から話を聞いての事だったりする。
まだまだ距離のある中、白鳥沢男子バレー部は、ゴールを目指して走るのだった。


一方、チーム内で誰よりも早く終わりを迎えた牛島と日向は、体を休める事にした。
普段なら、そのままレシーブ練をするのだが、きちんと体を休ませるようにと言われたためだ。
仕方なく、二人は汗を洗い落とすためにシャワー室へと向かう。
早く帰れた者の特権でもあるので、日向はガランとしたシャワー室に入るなり、蛇口を捻り水の温度を調節すると、頭からかぶっていく。

「ふあー、気持ちいー」
「日向、水を飛ばすな」
「はーい」

通りかかったらしい牛島に言われ、素直に水量を落とす。
まだ練習はあるので、簡単に流して上がるかと、蛇口を掴もうとした時、重なるように手が乗せられた。
自分より大きな手、そして現在、このシャワー室にいるのは自分以外に一人しかいない。

「日向」

耳元で囁かれ、頭だけを動かして振り向けば、すぐ側に牛島の姿が見えた。
返事をするより早く、牛島に唇を塞がれて声は出ない。
シャワーの水が当たらなくなり、体を屈めている牛島の背中に当たっているのか、肩から流れる温い水が日向の肩や背中を伝っていく。

「ん…っ」

体を反転させられ、正面に向かい合う格好になると、今度は日向の背中がタイル壁にぶつかる。
貪るようなキスを牛島から貰い、せっかく落ち着いた体が熱くなっていくが、シャワーの水で余計にほてっていく。

「日向、いいか?」
「は…、い…」

牛島の問いに小さく頷けば、体が浮き上がる。
誰も入って来ないと分かった上での、二人きりでシャワー室の時間は情欲の発散といつしかなっていた。
牛島から話しかけられ、それで終わっていただけが、回数を繰り返す内に彼との距離が短くなり、色恋の話がたまたま出て、その流れで欲の時間ができたのだ。
溜まった熱を吐き出すだけの、シャワーに打たれながらの行為が、いつしか二人での擬似行為になっていて、何でこうなったんだろうと思いつつも、嫌な気は一つもない。
チームメイトが帰って来るまでの短い時間を、二人は流れる水をかぶりながら絡み合っていく。