# 02


「やっぱり来るべきだったよなぁ」
 
 ベンチに座り、数十分後に行われる県予選の決勝を前に精神を集中させていた牛島は、すぐ隣からぽつりと落ちてきた言葉に顔を上げる。
 隣にいるのは日向である。
 もっとも、隣というのは厳密に言えば間違いだ。何せ日向は、ベンチの横に置かれたゴミ箱の上に立っているのだから。
 ゴミ箱は手を伸ばすだけでゴミを捨てられるように設計された、蓋が押すと開く立体的な三角形の形状で、日向はそこの頂点のわずかな面積に足を乗せ、全体重を支えていた。当然ながらゴミを捨てたい通行人は迷惑そうに日向を見上げるのだが、日向が白鳥沢のジャージを着ている事、そして隣にいるのが超高校級エースであるウシワカこと牛島若利である事を認識すると哀れなほどに顔を引きつらせ、そそくさと別の場所に設置されているゴミ箱を探して去っていった。

「どこにだ」
「うちですよ。白鳥沢」
「誰が。及川か」
「いや、影山です。ほら、北川第一のコート上の王様。いまは烏野にいる」
「ああ……」
 不満そうに唇を尖らせて、日向は片足をぶらつかせた。それでも小さな体は一向にバランスを崩さない。
 
 去年の今ごろ、高総体の試合会場で当時中学生だった日向の驚異的な跳躍力を見かけた時、衝動的に動いて「俺が育ててやろう」と半ば強引に白鳥沢へ入学させた過去の自分を悔いている訳ではない。むしろ日向という「最強の囮」のおかげで白鳥沢は王者である強さを確固たるものにしているのだから、彼にしてやれる事はとことんしてやりたいと思っている牛島である。そう思っているからこそ、持ちうる技術のすべてを日向に与えている最中だ。
 烏野の全盛期に活躍したエース、「小さな巨人」に憧れる日向のためにと。
 苦手だった勉強面も克服して白鳥沢に入学した日向のためにと。

 その図抜けた身体能力は、白鳥沢のコーチの適切な指導によって、日向自身の意思で完璧にコントロールできるよう着々と成長している。
 が、ひとつ明らかに方向性を間違えてしまった部分がある。
 日向が地面を歩きたがらないのだ。

 こう言ってしまうとやや語弊があるが、「体の使い方」を覚えた日向はフェンスや塀だけでなく、登ってみてバランスが取れると判断したなら、滑りやすい上にバランスも取りづらい階段の手すりや、本来登るために作られたはずがないポスト、電柱、欄干、ガードレール、そして今のようにゴミ箱にさえ登り、その上を歩く癖がついたのだった。
 訳が分からない、というのが白鳥沢の面々の意見だ。全員が全員頭を抱え、「日向、頼むから地面を歩いてくれ」と懇願する始末である。
  
 曰く、「地面を簡単に歩いたら負けだと思ってる」。
 一体誰に負けると言うのだ。
 だが、その身体能力を無駄に使うのは「体を動かしたい」という欲があるのかもしれない、というのが牛島の見解だった。日向も「どうせひとより動けるんだから使わないのはもったいないじゃないですか?」と言っている。欲を抑えられないのは問題だが、強引にやめさせてフラストレーションを溜め込み試合で暴れ、怪我をするくらいなら普段から発散させておいたほうがいいだろう、と主将権限で自由にさせている。

 あなたは日向に甘いんですよ、と呆れ顔で言ったのは部の正セッターだったか。
 そう言われれば確かに甘いが、まさに原石であった中学生の日向を同じ高校に入らせるに至るまで育ててくれば、それなりに愛着も湧く。仕方ないだろう。


「どうして影山なんだ? 県予選の決勝ではあんな様だったが」
「あんな様だったからですよ。あれだけ才能があるのに、性格が邪魔してる。もったいない」
「性格ばかりはどうにもならない。他者からの矯正でもなければな」
「でも、いまはちゃんと周りを見れるようになってたじゃないですか? 烏野の三回戦、青城と当たってたでしょう。途中で焦ったのか交代してたし、結局負けてたけど、ちゃんと周りを見てトスを上げられるようになった。伸びしろがあるってやつですよ」
 楽しみだなぁ、と笑う日向を、牛島はあっさりと切り捨てた。
「確かにあるかもしれないが、どこまで伸びるかが問題だろう。俺はあの環境で伸びるとは思えない」
「……どうしてですか?」
「及川と同じだ」
「及川さんと同じ?」
 日向は小首を傾げて牛島の言葉を繰り返す。
「同じ、とは?」
「及川は優秀なセッターだ。あいつこそうちに来るべきだった」
「あ、やっぱり牛島さんも及川さんを認めてるんじゃないですか!」
「黙れ日向。……及川はどこであろうとそのチームの最大値を引き出すセッターだ。チームの最大値が低ければそれまで。高ければ高いだけ引き出す。それが奴の能力だ」
「…………」
「優秀な苗にはそれに見合った土壌があるべきだ。痩せた土地で立派な実は実らない」
「……ヤセた土地? どういう意味ですか?」
 不思議そうに尋ねる日向に、それこそ不思議そうに牛島は言った。
「青城は及川以外弱い、という意味だ」
 何を言っている、当然だろう、とでも言いたげな調子で。
「――――……弱い……」
 日向の繰り返すような呟きが空気に散っていく。

 不意に、日向がゴミ箱の上でひょいと屈みこみ、牛島に向き直った。
「牛島さん」
「……何だ」
「青城がヤセた土地なら、雪ヶ丘出身のおれはコンクリートかなにかですかね?」

 ちりっ、と、肌が焼き付くような緊張が走った。

 前髪が下りて翳ったように感じられる、息を呑むほど無垢な幼い顔の中で、瞳だけが爛々と輝いているように見えた。
 

「……今、お前は白鳥沢バレーボール部の部員だ。お前の苗はちゃんと成長している」
「コンクリート育ちのほうが根性いいですよ! あとおれは優秀な苗なんですね! 牛島さんにとって!」
「レシーブがもっと完璧になればな」
「うっ……ど、努力します……」
 百戦錬磨と自分で誇れるほどには経験を積んできた牛島でさえも一瞬身を固くしてしまうような、凄絶な光はもうない。
 その名の通り太陽のような笑顔を浮かべてはしゃいだと思ったら、そっけない一言で分かりやすく落ち込む。
 時々、日向翔陽という人間がわからなくなる事があるが、人間性について深く考えるのは不毛だと牛島は考えていた。

「そろそろ行くぞ。試合だ」
「えー、まだ時間ありますよ〜。おれもうちょっとあいつがいたらの話を考えてたいんですけど。試合になったらできなくなるし」
「たらればの話ほど無益なものはない。くだらん妄想を試合に持ち込むなよ」
「持ち込みませんよ! ……ただ」
 日向は何かを思い出すように目を泳がせた。
「……あいつが中学時代に見せてた、無茶振りみたいなトス。あれはブロックを振り切るためにやってただけで、チームメイトを置き去りにしちゃってるとはいえ、ちゃんと相手を観察してるからできるんだと思うんですよね」
 もったいない、と日向は言う。


「おれならあいつのトスを打てるかもしれない。おれのマックスのスピードとジャンプを使えば、あいつを最強のセッターにしてやれるかもしれない」


「…………」
「だから来るべきだったよなぁ、影山。ちょっと性格的に合わないかもしれないけど、一回でいいからあいつのトス打ってみてーなー。影山かー。ほんっと、なんで白鳥沢来なかったんですかね? 推薦やらなかったんですか? それとも頭悪かったのか……」
「日向」
「あ、はい?」
「それ以上無駄を叩く口は中を塞ぐぞ」
 日向が分かりやすく硬直した。
 一拍遅れ、爆発したような音を立てて真っ赤になる。

「なっ、な、んっ……」
「行くぞ」
「ちょ、待っ……もう!」
 慌てふためく日向を放置して立ち上がりさっさと背を向けると、諦めたような声とともにゴミ箱を蹴る音が響き、同時に背中にどすんと重い衝撃を受けた。どうやらゴミ箱から牛島の背に飛び移ったらしい。
 だから普通に地面を歩けと何度言えば。
 ゴミ箱が倒れたらどうする、と牛島は心の中で呆れる。器用に絡まっていく手足を無視して歩きながら、とりあえず通行人がいなくてよかったと安堵した。

「……もう、なんでそんなネタぶっこんでくるんですか。若干トラウマになってんですよあれ」
「トラウマになるくらいが丁度いい」
「あなたはいつでも突然すぎます……」
「中は甘かったぞ」
「ばっ、ばかじゃないですか!?」
「先輩に向かって馬鹿とは何だ」
「……ゴメンナサイ……」
 よし、と不遜に頷く己の主将に、日向は内心でもう一度、バカじゃないですか、と毒づいた。顔が火照って熱く、反射的に飛び乗ってしまった過去の自分を軽く責める。


 それほど前の事ではない。五月の中旬あたりだっただろうか。きっかけも忘れた。何があって、何を思って彼があんな行動に出たのかはもう忘れた。
 ただ、とりあえず自分が迂闊な発言をして、それが牛島の気に障ったのだろうという事だけは理解している。
 鉄面皮は何を考えているのか分からないのが厄介なのだ。表情に変化が出ないから、そういうあたりの察しが悪い日向はよく、牛島の地雷を踏んでしまう。
 あの時のそれは何回めかの地雷だったが、踏んだ地雷が悪かった。
 超特大だった。

 恐らく、小さな巨人について日向がべらべらと喋っていたのだろう。定かではないが、「無駄を叩く口は中を塞ぐぞ」などという物騒な脅し文句が出てくるのは、大概日向が「別の人」について話す時だ。幼いころからの憧れである小さな巨人を語るのは初めてではなかったはずなのだが。
 話の最中、伸びてきた手が唐突に顎を掴んだと思ったら、そのまま上を向かされ、状況を理解する前に口を塞がれた。
 牛島の口で。
 あまりの衝撃に思わず唇をわずかに開いてしまうと、その隙間から強引に舌がねじ込まれた。そのあとは文字通り、されるがままで。顎を掴んで離さない手に触れ、やめてと訴えても牛島がやめる気配は微塵も感じられず、肉厚な舌が歯列の裏を、頬の裏の肉を、上顎を丁寧に舐め上げて。
 ロボットのように固くしていた日向の体は徐々に力を失っていき、押し付けられるような快感と、耳を覆いたくなるいやらしい水音と、無意識のうちに漏れる自分の鼻にかかったような声に、牛島がようやく舌を引くころにはすっかり腰が抜けていた。
 顎を掴む手が離れ、その場にへたり込んだ日向を見下ろして、牛島はぼそりと「扇情的だな」と呟いた。唇の端から垂れるどちらのものかも分からない唾液を拭って涙目になりながら睨み付けても、「扇情的だ」と繰り返されるばかりでまったく効果はなかった(ちなみに後日、「センジョウテキ」の意味を調べてみて部活の時に牛島にタックルしたのは許される行為だろう)。

 こういうのは好きなひととやるもんじゃないですか、と聞いても、牛島は別に構わないと答えるだけだった。
 嫌いな人間はともかく普通の人間、それも男に対してやろうとは思わない。ただお前にならしても不快にはならなかった。それだけだ。
 などと供述しており。
 確かに分かりづらいながらも他の部員より甘やかされてる感はあるし、中等部から一緒の部員を除けば付き合いは長くはないが深いと言える。
 何より、こうして無理やり口付けてくる時(それも、日向が「別の人」の話をしている時)に見える荒々しさが、彼の独占欲を表しているように感じられるのだ。

 牛島さんは好き。いろいろ教えてくれる。厳しいけど、なんだかんだで優しい。
 ……ちょっと地雷かすっただけで「無駄を叩く口は中を塞ぐぞ」とか脅してくるところは訳がわからないけど、まあ、おれの意識が別のひとにそれるのが気に食わないってことなら、ちょっとかわいいって思うし。

 と、日向は結論付け、牛島の暴挙を許しているのだった。
 そもそもの前提である「同性同士」という部分が抜け落ちている事にすら気付いてない時点で危ない考えではあるが。




 そして、日向はひとつ、牛島に隠し事をしている。
 日向は影山と直接会話をした事があるのだ。

 中総体の県予選決勝、北川第一中学と光仙中学の試合。影山がチームに見限られ、ベンチに下げられたあの試合。
 あいつもったいないな、センスあるのに、と思いながら試合会場を後にしようと歩いていた日向が見たのは、屋外の水飲み場で頭から水道水を被っていた影山の姿だった。
 思わず足を止めた。
 横暴が行きすぎて空回り、俯いてコートを去っていったあの後ろ姿が蘇る。

 水をかけて頭を冷やしているというよりは、何かに耐え忍んでいるように見えた。
 その拳が、白く見えるほど握り込まれていたから。

「……おい、お前」
 反射的に話しかけると、影山は弾かれたように振り返った。黒い髪から水滴が散る。
 ごそごそとバッグを漁る様子を見てタオルを探しているのだと理解した日向は、なかなかタオルを取り出せない彼を見かねて自分のものをバッグから出して放った。
「ほら、使えよ」
 影山は器用にタオルを掴むと、少しだけ赤く腫れた目でじっと日向を見つめ、さんきゅ、と小さな声で礼を言った。
 乱暴な手つきで髪を拭く影山に近寄る。
「試合、見てたよ」
「……そうかよ」
「もったいないって思ったよ。お前、センスあるのに空回ってるから。ちょっと言い方があれなんだよな」
「……うっせーよ。お前には分かんねえよ」
 突き放すような物言いに、日向はむっと眉を寄せた。
「わかるよ、おれもバレーやってるし。セッターじゃないけど、セッターの重要さと責任の重さはわかってる」
「……うるせえ」
「おれはお前に説教しにきた訳じゃない。言いたい事があるから来たんだよ。だから話を」
「うるせえっつってんだろ!!」
 タオルを地面に叩きつけ、立ち上がった影山が吠える。
「俺は勝ちたいんだ! 勝つためにトスを上げた! 勝つためのトスを上げた!! それのどこが間違ってるってんだよ、あぁ!!?」
「っ、間違ってるなんて言わねえ! でもお前はもっと周りを見るべきなんだよ! 目先の勝利じゃなくて、チームメイトと一緒に勝つことを考えろよ!! バレーは六人でやる団体競技だぞ!!」
「黙れ!! セッターでもなけりゃ大したタッパもねえてめえに! 俺の何が分かるってんだ!!」
 影山は吐き捨てるようにそう叫んだ。
 かっと頭に血が昇る。全身の熱が一斉に温度を上げた。
 日向は確かにセッターではない。
 ポジションとしてどころか、バレーボールプレーヤーとしてあるべき身長もない。
 でも、それでも。

「確かにおれはでかくないけど! でも、おれは飛べる!」
「はァ!!?」
「おれにはおれの武器がある! お前だってそうだろ!? お前のトスの速さは相手のブロックを振り切るためだ、つまりお前はちゃんと相手を見てる! 観察できる力があるってことじゃねーのかよ!!」
「っ、だから俺はっ、」
「たとえお前が見限られても! おれはお前が勝つためだけに一生懸命なのを知ってる! チームメイトが見えなくなってひとりで戦ってても! おれはお前がちゃんとバレーやって、勝って、コートに立ちたいって思ってるのを知ってる!」
 影山がひゅっと息を呑んだ。
 その腕を掴んで、畳みかけるように叫ぶ。


「おれはお前のトスを打ちたい! お前のトスでスパイクを決めて、勝ってみたいと思う! お前はチームからいらなくなったかもしれないけど、チームの外にはお前の才能を知って! 待ってる奴がいる! ここにいる!! それを忘れんな!!」 


 一気に捲し立てた反動で息が上がった。
 呼吸を整えながらゆるゆると腕を離す。何も言わない影山の横を通り、叩きつけられて汚れたタオルを拾った。
 洗わないとな、と砂を払う日向に、影山がぼそりと呟いた。
「……それ、そのタオル。俺が洗って返す」
「え? でも……」
「汚したのは俺だ。悪かった」
「次いつ会えるかとか、どこで会えるかとか分かんねーじゃん」
「……分かんねーけど。それは俺が責任もって洗って返す。また会った時に」
 無骨な手が伸ばされて、縦に首を振る前にタオルを奪われた。
 日向はまだ言いたげに口を開きかけたが、影山に再度「洗って返す」と言われ、仕方なく口を閉じる。
 影山はタオルを見つめ、改めて日向と目を合わせた。
 夜を映すような漆黒ははっとするほど凪いでいて、泣き喚くように激しく揺れていた先ほどまでの瞳とは別人のようだった。
「また会う時まで、ずっと持ってるから」
「忘れるなよ」
「忘れるかよ。お前、俺と同い年だろ」
「ああ」
「次会う時は敵か、味方か、どっちかだな」
「味方がいいなぁ。おれ、お前のトス打ってみたい」
 そう言って日向が笑うと、影山の口元がそっと緩んだ、ように見えた。
 笑ったのかもしれない。
 不器用な奴だな、と日向は心の中で笑った。
「また会おうな」
「おう」
「お前、えっと、影山だったな。おれ、日向翔陽だ」
「俺は影山飛雄だ。……その、日向」
「ん?」
 ぐっと口を噤んで、影山が目を泳がせる。えっと、だとか、その、とかたっぷり三分は口ごもった後、意を決したように顔を上げて。



「……あ、りがと、う」


 
 泣きそうに目を細めて絞り出したようなその言葉は、驚くほど心に染み渡った。


「……おう!」
 ぱっと満開の笑顔を浮かべて頷く。ひたすらに勝利を追いかけて、チームに見放されてしまうほど不器用でまっすぐなこの男の、精一杯の感謝の気持ち。
 きゅっと胸を服の上から掴んで、全身で受け止める。通り過ぎる風が爽やかに日向の髪を揺らしていった。
 右肩にスポーツバッグを持ち直し、よし、と息を吐く。
「じゃあまたな、影山! またどっかで会おうなー!」
「……ああ」
「おれ、ずっと待ってるからなー!」
「おう。また」
 ぶんぶんと手を振ると、影山は振り返しこそしなかったが、力強く頷いてくれた。
 彼に背を向けて走り出す。
 空を彩る夕焼けが今まで生きてきた中で一番、希望に満ちている気がした。




 そんな事があったと言ったら牛島は怒るかもしれない。影山のトスを打ってみたいと呟くだけで超特大の地雷を踏んでしまうのだから、たかが一枚のタオルでも未来の約束を託されていると知ったらその地雷は超特大どころか複数に連結されているのだろう。ひとつを踏むだけで大量の地雷が爆ぜる。
 こういうところ、厄介というか、面倒というか。
 日向は主将であり恩人である彼に少々失礼な事を考えながら、そっとため息をついた。
 
 でも、あいつとまた会いたいなぁ。
 敵としてだけど、正々堂々戦って、そんでまた次に会ったら、あいつのトスを打ちたい。タオルも返してもらわなきゃいけないし。
 会うとしたら春高かな。
 でも、いまは、それよりも先にやることがある。










 ひっついていた牛島の背中を降り、隣に並んだ。
 歩きながら、そっと目を閉じ、コートの風景を思い浮かべる。
 たくさんの声が行き交って、声援が届いて、ボールが飛んで、シューズが擦れて、景色が一気に高くなって、ブロッカーの指先が見えて、相手コートの穴を探して、セッターのトスを信じて腕を振り下ろして、レシーバーが動いて。
 ホイッスルが鳴る。
 仲間と、自分の雄叫びが重なる。
 
 ゆっくりと目を開いた。
 

 前方に仲間が見えてくる。
 こちらを向いて不敵に笑うチームメイトを見て、つられるように笑みが漏れた。

「勝つぞ」
「はい!」

 及川率いる青葉城西高校との決勝戦まで、あと少し。