017

 鳥は、都合のいいことにちょうど私達の目的地に向かって飛んでいた。

「肉食のくせに天使って何なんだ!!」
「だから、言ってるじゃないですか。『ファッション・エンジェル』だって」
「天使なのは見た目だけってか…!!」

 御名答。
 船はスピードを上げたが、ファッション・エンジェルの飛行スピードは最高時速170km、普通に考えて追いつくのは不可能だ。だが、ようは向かっている先がわかればいいのである。
 それにファッション・エンジェルの習性を考えれば、ルフィは勝手に助かるはずだ。放っておけば何をやらかすかわからないので、急いで欲しいことには変わりがないのだが。

 それにしても、"東の海"でファッション・エンジェルに出会うとは…彼らの生息地で何事か起きて棲めなくなったとか、私も知らないファッション・エンジェルの生息地がこの近くにあるとか?いや、案外あの個体が方向音痴なだけというオチもあり得る。群れとはぐれて"赤い土の大陸"を越えてしまったペンギンがいるくらいだし。
 ……元気にしてるかなあ、男爵。無事に故郷に帰れていればいいけど。

 思い出に耽っている内に、前方でバシャバシャと不自然に海面が跳ねているのが見えてきた。魚でもいるのだろうか。いや、あれは…人? 人の頭や足が必死に海面を叩いているように見える。それも3人。

「おーーーい止まってくれェ!!」
「そこの船止まれェ!!」

 うん、間違いなく人間だ。何でこんな大海原のど真ん中に人が? 船も島も近くにはない。強いて言えばちょうどこの辺りを通り過ぎて行ったであろう分厚い雨雲が、遠くの空に浮かんでいるくらいか。まさかあれのせいで船が沈んでしまったとか。

「何だ?」
「進行方向に漂流者ですね」
「こんな時にか…!!」

 私の報告に、ゾロは今にも舌打ちしそうな雰囲気になった。顔が非常に凶悪である。この場にいたのがもしもか弱い乙女だったら泣いていただろう。私が図太い乙女だったことに感謝して欲しい。

「…船は止めねェ!! 勝手に乗り込め!!」
「ヒューウ、乱暴〜」
「切られたいか?」
「いえ別に」

 ゾロは漂流者達をしっかりと認識した上で、見捨てることに決めたようだ。その点は私も賛成である。オーラの色を見るに、彼等は多分悪人だから。
 ああいう色をした輩は、自らの危機が去った途端に恩を仇で返すのだ。そして、かつてそんな連中に恩を仇で返された張本人が此処に居たりする。「善人でも悪人でも、人の命は平等」なんて考えていた昔の自分の甘かったこと…。あの時ばかりは、滅多に怒らない師匠に凄く怒られたのをよく覚えている。

 しかし、そんな私の考えとは裏腹に、男達は見事に小船に乗り込んできた。それだけ彼らも必死だったということだろう。火事場の馬鹿力という奴か。

「へえ! よく乗り込めたな」
「本当。すごいですね」
「「「ひき殺す気かっ!!」」」

 感心して褒めたのに、声を揃えて怒鳴られた。まあ普通は怒るか…下手したら死んでいたわけだし。

「なんて乱暴な奴らだ…!!」

 ご尤もだった。
 それにしてもこの3人、どうにも海賊っぽい。錨の刺青を入れた男だけならただの船乗りだとも思えるが、ジョリーロジャーの描かれた帽子を被っている男までいるので、ほぼ間違いなさそうな。
 そうこう考えていると、男たちは各々武器を取り出した。私達のことを乱暴だと言っていたのは何だったのだ。新手のブーメランごっこか。

「おい、船を止めろ。おれ達ァあの海賊"道化のバギー"様の一味のモンだ」

 真ん中の、恐らくこの中では一番強そうな男がそう言うと、私の首にナイフを突きつけてきた。

「この女、殺されたくなきゃな…!」
「きゃー、ゾロさん助けて〜〜」
「お前な…」

 緊張感のない私に勢いを削がれたのか、オールを漕ぐのを止めて刀の柄に掛けていた手が降りた。

「遊んでんじゃねェ。さっさとやれ」
「了解しました」
「…は?」


 ***


「あっはっはっはっはーーっ!!」
「あなた方が"海賊狩りのゾロ"さんとそのお連れ様だとはつゆ知らずっ! 失礼しましたっ!」

 私とゾロによりボコボコにされた海賊共は、今現在ゾロに代わって船を漕いでいる。別に交代しろとは誰も言っていないのだが、ゴマをすりながら自主的にやってくれている。殊勝な心掛けだ。
 一方、ゾロは不機嫌だ。男達の行動のせいで、ルフィを見失ってしまったせいである。

「ったく、おかげで仲間を見失っちまった。アメリア、おまえのせいでもあるぞ」

 ギロリと睨まれて、私は肩を竦めた。仕方がない、種明かしをするか。

「まあまあ…実はファッション・エンジェルにはとある習性があるんですよ」
「習性?」
「彼等の主な食糧は、彼らと生息域の近いカワラガメなんです。カメと言えば当然甲羅が硬いわけですが、その甲羅を砕くため、彼等は捕まえた獲物を高所から落として地面に激突させるんです」
「…ってことは……」
「恐らく陸地が見えれば、ルフィ君のことも落とすはず。ルフィ君はゴムですから、高所から落下しても死ぬことはありませんし…あとは自分で何とかするでしょうね」

 私の話を聞いたゾロは、気が抜けたようにため息を吐いた。先ほどまでの苦労が徒労に終わったことに疲れているようだ。

「お前、それ先に言えよ……」
「すいません。しかし肉食であることは事実ですし、鳥が向かう方向がわからないとルフィ君と逸れてしまいます。どちらにせよ、急がなければならないことには変わりがなかったので…」
「まあ、構わねェが…」

 ゾロはその説明で一応納得してくれたようだ。
 さて、目下の問題は「ゴムって何のことだ…?」「さあ…」と小声で話し合う海賊達である。彼らをどうするか、そもそも何処の誰なのか。興味自体はないが、恐らくルフィがいると思われるのが彼らの海賊団が現在占拠にしている島なので、聞かないわけにもいくまい。
 私は口を開いた。

「…そういえばまだあなた方がこんな海の只中で溺れていた経緯を聞いていませんでしたね」
「それだっ!! よくぞ聞いてくれやした姐さん!!」
「あの女っ!!」
「そうだあの女が全て悪いっ!!!」
「しかもかわいいんだけっこう!!」
「最後余計なの入りましたね」

 余計なことを言った1人が隣の男にボコボコにされている間に、残りの1人が語り出した。
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