018

「ありゃあおれ達が商船を襲った帰りのことでした…。小せェ商船にしちゃなかなかいい稼ぎだったもんで、こりゃバギー船長に褒美をもらえるんじゃねェかって楽しみにしてたんです」
「ところが、アジトにしてる町に戻る途中、小船が浮かんでるのを見つけやして…しかもその上で誰かがぐったりとこう、船縁にもたれ掛かるようにして倒れていて」
「今思えば放っときゃ良かったんだが、何というか、野次馬根性でつい、その船に近付いてみちまったんだ」

 …その時点で何となく何が起きたのかは察したが、私は口を噤んでいた。

「倒れていたのは女で、1人だけでした。しんどそうに、水をくれ、側に置いてあった宝箱を代わりにやるっていうから、おれ達は箱の中身を確かめるためにそいつの船に乗り込んで…」
「……で?」

 何で女性が1人で大海原にいるんだとか、宝箱はあるのに十分な水と食料を買い込むことが出来なかったはずがないとか、遭難するような航海術の腕前で一人旅なんてやるのは余程の馬鹿くらいだとか、ツッコミ所は多かった。まあその余程の馬鹿を1人知っているが。

「そうしたら、あの女、いつの間にかおれ達の船に素早く乗り込んでたと思ったら、帆を操って船動かして、あれよあれよという間におれ達ァ置いて行かれちまって」
「宝箱は空だし、その後すぐ嵐まで来ちまうし…」
「あの女、嵐が来ることも折り込み済みで、おれ達をカモにしたんだ!!」
「そういう次第なんですよ!!」
「ヒドいでしょ!?」

 成る程それは確かに酷くはある。でも、商船を襲って得た金なのだから、不当に盗まれたのだとしても文句は言えないと思うが。罪のない民間人を襲って金を奪うなど、全くもって胸糞悪い話である。

「天候まで操るのか…海を知り尽くしてるなその女。航海士になってくれねェかな」
「ルフィ君は単純ですし、それぐらい狡賢い人が仲間になってくれた方がいいでしょうね。それに私もようやくあなた方とおさらば出来ますし」
「ルフィが嫌がるぞ」
「全力で逃げるので、その間何とかかんとか引き留められません?」
「…………。…無理じゃねェか?」
「直ぐ諦めるんだもんな〜」

 何でこう、私は四面楚歌なのだろうか。コビーといいゾロといい、私をルフィの仲間にしたがり過ぎる。その女性を仲間に出来たらいいのにな。航海士さえ仲間になってくれれば、私は心おきなくルフィとお別れ出来るから。

「…あ、あれですかね、オレンジの町」
「あそこにルフィがいるのか?」
「恐らくは。…あと1時間もかからないと思いますよ。到着したあとはどうします?」
「…当てもなく探し回ってもしょうがねェ、目撃情報を辿るか」
「では二手に分かれましょう」

 出来ればルフィが大人しくしていてくれればいいのだが。ルフィの性格を考えるに、何かしらのトラブルを起こしていそうで今から気が重い。

「…それにしても、宝はどうするかなァ」
「このまま帰っちゃバギー船長に殺されるぜ」
「さっきから言ってるバギーってのは誰だ? お前等の船長か?」
「その通りです、"道化のバギー"を知らないんで? "悪魔の実シリーズ"のある実を食べた男でね、恐ろしい人なんだ」
「悪魔の実を…?」
「ふうん…こんな所で能力者に会うことになるとは」

 "東の海"の能力者を見るのは、これで2人目だ。どんな悪魔の実か知らないが、下手に関わるのは避けた方がいいだろう。
 悪魔の実は、本人の素質に関わらず力を与えるため、オーラを見るだけでは相手の実力は測れない。それにもしかしたら、ルフィのゴムゴムの実と相性の悪い能力かも知れない。戦闘能力では勝っていても、相性次第で負けることなど多々あるのだから。

 ルフィ、本当に、トラブルは起こしてくれるなよ。
 そう心の中で念じるが、伝わっている気はしなかった。距離の離れた相手に自分の意思を伝える能力が欲しい。

「それにしても、ゾロの旦那は一匹狼だと聞きやしたが、仲間がいらっしゃったんですねェ」
「ああ、最近出来た」
「しかしまあ姐さんも随分いい女で…旦那が羨ましい限りだ」
「…ん?」
「あー…」

 …何だかさっきから、やたら私とゾロをチラチラ見ているなと思ったら、どうやら私はゾロの"女"だと認識されたらしい。私達のやりとりのどこをどう見てそんな色気のある関係だと判断したのかは甚だ疑問だが、わざわざ訂正するのも面倒だし、ゾロはそんな風に勘違いされていることすら気が付いていないようだ。黙っておこう。のちのち「海賊狩りに女性の影!?」とかいう噂が出回る可能性も無きにしも非ずだが、私自身はノーダメージなので問題はない。

 やたらニヤニヤしている海賊達に引き気味のゾロは、島の港が近付いたことにホッとしていた。

「さっ、旦那方、着きましたよ!」
「何だ…がらんとした町だな。人気がねェじゃねェか…」
「はあ、じつはこの町、我々バギー一味が襲撃中でして」
「しかしどうする、バギー船長になんて言う? 手ぶらだぜおれ達!」
「そりゃあった事をそのまま話すしかねェだろ!! どうせあの女は海の彼方だ」

 3人の話に暫し耳を傾けていたゾロは、一瞬何かを考える素振りをした後、トレードマークの3本の刀を佩く。私はナップザックを肩に掛け、船を下りた。

「じゃあとりあえずそのバギーってのに会わせてくれ。ルフィの情報が聞けるかも知れねェ」
「あ、それなら私は町の外れに行きますね。何やら其処にも人が集まっているようなので」

 前もって打ち合わせたとおり、私とゾロはそれぞれ別の場所を捜し始めた。
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