人気のない町を素通りして、町外れの森まで向かう。町を海賊に占拠されたために、町民は全員避難しているとは先程の下っ端3人組からの情報だ。
オーラは、意外と沢山の情報を私に与えてくれる。生き物が密集すれば、その分だけオーラの放つ光が集まり、周囲を照らす。つまり、より明るい方に人が多く集まっていることになる。
町の外れの、やけに明るい場所が恐らく避難場所だろう。そう当たりをつけて、仮設の住宅の建ち並ぶ一画へ足を踏み入れる。
突如現れた正体不明の私に対し、皆一瞬警戒の色を浮かべたものの、直ぐに安心したように息を吐いた。私の容姿を見て、警戒すべき相手ではないと判断したのだろう。
私は同年代の同性と比べると背がかなり低く、細っこい。この容姿のせいで下手をすると10代前半に見られてしまうのだが、おかげで初対面の人に怪しまれ辛いのだ。同時に舐められることも多いが、今回はそれが幸いし、スムーズに話を聞き出すことが出来た。
しかし残念ながら、彼らはルフィを見ていなかった。変わったことと言えば、町の方から何度か砲撃音が聞こえてきたことくらいらしい。全く持って穏やかではない。まさかもうルフィが何かやらかしたのだろうか。だとしたら、トラブルを巻き起こすのが早過ぎる。これはさっさとルフィを回収し、この町を去った方がいいかも知れない…が。
この町を、放っておけない。それが町の人々の境遇を聞いた私の率直な感想だ。
かつて住んでいた町を海賊に襲われ、命からがら逃げた彼らは、40年かけて新たな町を作り上げた。だがその町を今再び海賊に占拠され、町の外れに追いやられてしまったのだ。理不尽にも程がある。こんな話を聞いてしまった以上、助けないという選択肢が私にはない。
ルフィは自分に関係のないこの町を救うつもりはないだろう。コビーの事だって、彼を気に入ったから助けただけのことで、コビーが何も行動しようとしないままだったなら、きっと放っていた。最初のうちは彼を嫌いだとまで言っていたのだから。
…やっぱり、私はルフィの仲間にはなれない。海賊としてやっていくには甘過ぎる自覚はあるから。何としてでも置いて行ってもらおう、ルフィは嫌がるだろうが、ゾロは納得してくれるはずだ。
そう、決意して。
──次の瞬間、凄まじい轟音が町の方から響いた。
ハッと振り向いた。彼処にはゾロがいる。恐らくルフィも。今このタイミングでの爆発音、彼らの身に何か起きたと見て間違いない。
駆け出そうとすると、誰かに腕を掴まれた。先程、町長だと名乗った男性だった。
「待たんか、1人で行くのは危険過ぎる…!!」
「…お気持ちは有り難いんですが…私はこう見えてそこそこ戦えますし、敵いそうにない相手なら流石に逃げます。皆さんはここにいてください」
そう言い捨て、手を振り払って駆け出した。私の脚ならば町まで数秒で到達出来る。町の人々は、私の速さに今頃目を丸くしていることだろう。詳しく説明して安心させた上で向かえば彼らの心労を減らせただろうが、事態は一刻を争う。
走る勢いのまま整列する家々の屋根に飛び乗った。そこから町を見渡せば、一つだけ屋上に人の集まっている建物が目に飛び込んでくる。成る程、彼処がアジトか。
気配を殺して、死角からその建物に忍び寄り、隣の家の屋根の煙突の影から様子を伺う。其処に居たのは、騒がしい大勢の海賊、彼らの仲間としてはおおよそ似つかわしくないオレンジ髪の少女、そして檻に入ったルフィ………………檻に入ったルフィ?
「……いや何で捕まってんの…!!」
私は小声で、且つ力いっぱい叫んだ。
何がどうなってそうなったのだろう。オーラの様子を見るに、ルフィを捕獲出来そうな猛者は見当たらないのに。…心理戦には弱そうだから、騙されて捕まった可能性大だな。
それにしても、この状況は何なのか。ルフィは檻に捕らえられ、その檻に向けて大砲が構えられている。大砲の横にはオレンジ髪の少女が棒立ちになっていて、少女を囲む海賊共は、「撃ーてっ! 撃ーてっ!」と囃し立てている。どう見ても、ルフィは殺される一歩手前だった。
さてどうしたものか。事の経緯はわからないが、私と年の変わらなそうなあの少女は、ルフィを大砲で撃ち殺すよう命令されているようだ。オーラの色からすると悪い人間には見えないけれど、例え善人でも、状況によっては悪になってしまう時もある。
あの少女はどうする気だろうか。敵なのか味方なのか…敵ならば、残念ながら刃を向けざるを得なくなる。
「ナミ!!! しらけさせんじゃねェ、早く点火しろ!!」
迷っているのか、いつまで経っても大砲に点火しない少女に痺れを切らした海賊の1人が怒鳴った。ビクッと肩を跳ねさせた少女に、ルフィがニヤリと笑う。
「手がふるえてるぞ」
催促のコールで掻き消されて、恐らく海賊達にまでは届いていないその台詞に、ナミと呼ばれた少女が俯けていた顔を上げた。
「中途半端な覚悟で、海賊を相手にしようとするからそうなるんだ」
「……覚悟って何よ、人を簡単に殺してみせる事がそうなの? それが海賊の覚悟…?」
「違う」
グズグズするなと、焦れた海賊共が我鳴る。
「自分の命を懸ける覚悟だ!!」
今度は掻き消されることなく、海賊達にも恐らく届いた。しかし彼らからすれば、ルフィの発した言葉は意味がわからないものだろう。最後の悪足掻き程度に思われたのかも知れない、笑い声が少し上がっただけで、コールは鳴り止まなかった。
「おい新顔、じらすなよ。点火の仕方知らねェのか? 教えてやるからよーく見とけ。いいか、火をこの導火線にボッと…」
何やら海賊らしからぬ親切さで、大砲の撃ち方をレクチャーし始めた海賊の隣で、少女はスカートの中に手を伸ばした。太股の、スカートに隠れる位置にベルトが巻き付いており、それには3本の棒が並んで装着されている。3本まとめて同時に抜き取ると、それらを合体させて一本の棒にし、目の前の海賊に向けて振り下ろした。
ガン!! といい音がして、海賊は倒れ伏す。つい一瞬前まで騒がしかった海賊共は、シン…と静まり返った。それで我に返ったのか、やってしまったと言わんばかり表情を歪める。しかし、時既に遅しだ。
「ナミてめェどういうつもりだァ!!! せっかくこのおれが部下に迎え入れてやろうってのに!!! あァ!!?」
「何だお前、今さらおれを助けてくれたのか?」
「バカ言わないで!! 勢いでやっちゃったのよ!!」
勢いが体を動かす事って割とある。私もよくあるのだ、頭でごちゃごちゃ色々考えていても、自分の感情を優先させてしまう時が。でも後悔したことはない。取り敢えず動いてしまってから、その上での最善を探せばいいだけの話だと思ってる。そういうのを行き当たりばったりと言う。
「例えマネ事でも、私は非道な海賊と、同類にはなりたくなかったから!! ──私の大切な人の命を奪った、大嫌いな海賊と同類には…!!!」
ナミは、唇を噛み締めた。海賊達を睨むその目には、隠そうともしない嫌悪の色が浮かんでいる。
大海賊時代が始まって、22年。"東の海"ですら海賊による被害は後を絶たず、海賊に家族や友人、恋人など大切な人達を殺された者は数え切れないほどいる。
海賊は海のクズだ。町を襲って金を得て、女を攫って欲を満たし、人を殺して名を上げる。勿論皆が皆そうではない、ルフィのように。けれど大半が人道に背いた極悪人なのもまた事実で、彼女の憎悪は正当なものだ。
けれど今、ナミはルフィを助けようとしている。ルフィは海賊だし、会話の内容からしてナミはその事を知っているというのに、だ。
まだ、大砲の導火線に火が点いている。その事に気が付いて慌て始めたルフィを見て、私は仮面を装着して飛び出した。海賊共の頭を飛び越え、大砲の横に着地して、導火線の先を握り締める。指の隙間から煙が漏れ出て、空中を漂う。耐火性に優れた手袋のおかげで火傷はしていない。
「誰…!?」
「通りすがりの正義の味方です。どうぞシロちゃんとお呼びください」
「あーっ! アメリア!! 来たのか!!」
「シロちゃんと呼べっつってんでしょーが」
正義などと大法螺を吹きつつ海賊達を見る。突如現れた乱入者に警戒を解く様子はない、が。
「てめェも泥棒共の仲間か…!?」
「泥棒じゃないし仲間でもないんですが…」
「ふんっ、たかが女2人だ!! やっちまえ!!」
舐められてはいるようだ。
この海賊団の船長と思わしき男の命令に、その場にいた海賊達の半数が一斉に飛びかかってきた。「たかが女2人」を寄って集ってリンチだなんて、恥ずかしくないのだろうか。一騎打ち仕掛けるぐらいの根性は見せて欲しかった。
ナミの腕を引いて後ろに放り投げる。ナイフを構えて、トッ、と軽く地面を蹴った。海賊共の真ん中へ自ら飛び込み、トップスピードを保ったまま肩や脇腹、武器を持っている腕を切りつけていく。
襲い掛かってきた全員が倒れた、というところで足を止めた。ちょうどその時、海賊の背後にある屋上の扉が開いて1人の男が入ってきたが、誰もそれに気が付く様子はない。
「クソ、この女強いぞ…!!?」
「そっちの女から殺せ!!」
海賊共は標的を変え、呆然と私を見ていたナミに剣を向けた。ナミはハッとして棒を構えるが、どう見ても多勢に無勢である。
しかし私は加勢しなかった。頼もしい援軍が訪れたのが見えたからだ。
「おいおい、女一人に何人がかりだ」
ナミを庇うようにして、ゾロがその場に躍り出る。鞘に収まったままの刀を横にして前に押し出し、飛びかかる海賊共の顔にめり込ませた。
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