021

「体が、くっついた…。悪魔の実なんてただの噂だと思ってた…!!」
「バラバラ人間って、あいつバケモンかっ!!」
「ルフィ君人のこと言えないでしょうが」

 ナミもルフィも唖然としていた。ナミは悪魔の実の能力者を初めて見たようだし、ルフィは自分以外の能力者との接触は今までになかったようだ。だがルフィが"道化"を化け物呼ばわりするのは無理がある。ゴム人間とバラバラ人間、どちらがより化け物染みているかと問われれば、どっちもどっちとしか言いようがない。

「急所は外しちまったか…だが相当の深手だろ、勝負あったな!!!」

 バギーは勝利を確信し、自信に満ちた笑みを浮かべた。それを見てバギー一味が歓声を上げる。何せ船長があの"海賊狩り"に勝利を収めようとしているのだ、彼らとしては喜ばずにはいられないだろう。
 しかしこれは少々まずい。頼りになる男2人が戦闘不能状態となったことで、形勢が逆転してしまった。斬撃が効かないというのが痛い。ナイフでは斬っても斬れないだろうし…トップスピードで蹴りを繰り出そうにも、攻撃の直後の無防備な瞬間を"道化"の手下に狙われる可能性がある。しかし先に後ろの海賊共を倒そうにも、その間に"道化"が重傷のゾロやナミに手を出す可能性は大いにある。
 何か奴の気を引ける物は…と"道化"の動きに気を配ったまま視線だけを巡らせていた時。

「後ろから刺すなんて卑怯だぞ!! デカッ鼻ァ!!!」

 ルフィが突如叫んだ。
 「デカッ鼻」とはまた見たままである。"道化"はピエロのような真っ赤で丸く大きな鼻をしており、それに合わせたのかこれまたピエロのようなメイクを施しているのだ。
 何故ルフィはいきなり身体的特徴で"道化"を呼んだのか、その動機がいまいちわからなかった。しかし直ぐに判明する。どうやら自分の鼻がコンプレックスらしい"道化"が、怒りのままに標的をゾロからルフィに変えたからだ。

「誰がデカッ鼻だァああ!!!!」

 叫び声と共に、ナイフを握った右手が体を置いて勢い良く飛び出した。一直線にルフィに向かって突っ込む、が、ルフィは口を大きく開けてナイフを飲み込み、切っ先が喉に達する前に刃を歯で噛んで止めた。相当な力で噛んだのか、刃が砕け、破片がルフィの口から零れ落ちる。口の中を怪我してそうだ。あと歯が痛そう。

「…お前は必ず、ブッ飛ばすからな!!」
「ほほーう…。ブッ飛ばす?」

 ルフィは"道化"に宣戦布告した。"道化"はその台詞を聞いて器用に片眉を上げて、次第に体を震わせ始め…とうとう堪えきれずに噴き出した。

「ぶあーっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!! ブッ飛ばすだァ!!? 終いにゃ笑うぞ!!! てめェら4人ここで死ぬんだ!!!」
「死んでたまるかっ!!」

 「もう笑ってるじゃないですか」という私の発言は、残念ながら"道化"とルフィの笑い声に掻き消されてしまった。残念である。

「バカっ!」
「うわ」

 ゴン、と突如頭部に衝撃が加わった。背後のナミに罵声と共に殴られたようだ。何故だ。文句を言おうと振り向けば、焦燥に駆られた表情でナミが私を睨んでいる。

「あのね、わざわざ喧嘩売るようなこと言わないの! 聞こえたらどうすんのよ!」
「楽しいことになりますね」
「ならないわよ!」

 ゴン、とまた容赦のない拳が脳天に直撃する。そうか、ナミは相手をからかって逆上させるのが楽しくないのか。まあそんな事に楽しみを見出している人間は少数派だという自覚はあるけども。
 因みに反応がいい人ほどからかいたい。気に入った人なら嫌われない程度に、嫌いな相手なら本気で怒らせたい。私自身、どうしてこんなに捻くれてしまったのかわからない。昔はもっとピュアで心優しい天使のような子供だったはずなのに…。今や純粋無垢だったあの頃の面影はなく、無表情で敵の逆鱗を積極的に突っつきに行く性悪女になってしまった。時の流れとは残酷である。

「この状況で、どうブッ飛べばいいんだおれは!? 野郎ども!! 笑っておしまいっ!!」
「「「「ぎゃーーっはっはっは!!!」」」」

 "道化"が指示を出せば、揃って笑い始めた。なんと笑い方まで揃えている。よく訓練された一味だ。
 しかし、ルフィはこの状況をどう打開するつもりなのか。縄は取り敢えず隙を見て解くとして、ルフィの体はゴムなのだから、あの檻の鉄格子の隙間から出られないだろうか。通常男性が通り抜けるのは困難な狭さだが、ゴムの体は伸縮自在なのだから、あの程度の幅の格子なら通れる筈だ。まさかそこに気が付いてない、何てことが…あったらどうしよう。

「逃げろ!! ゾロ!!! アメリア!!!」
「……何っ!?」
「だからシロちゃんと呼びなさいと」
「ちょっ…せっかく助けに来てくれた仲間に逃げろって…!! あんたはどうすんのよ!!」

 ルフィは真っ直ぐ私達を見つめていた。ゾロは僅かに目を丸くさせてルフィを見たが、やがて"道化"の方へ視線を戻して笑った。

「了解」

 嘘でしょとナミが呟いた。まあ見捨てると言っているようなものだし、その反応にも頷ける。ただ、ゾロがルフィを置いて逃げる事などないとは思うが。

「バカたれが、逃がすかロロノア・ゾロ!!! バラバラ砲ーうっ!!!」

 "道化"が追い討ちを掛けるように両手首を切り離した。その手首達がゾロに襲い掛かる前に割り込んで、ナイフでナイフを弾く。すかさずもう一方の手も切りかかって来たが、斬っても斬れないことはゾロが実証済みなので、ナイフの柄で手の甲を殴打する。"道化"が顔を歪めたので、打撃技は普通に効果があるようで安心した。

「何だ小娘、邪魔をするな!!」
「小娘とは失礼ですね、えーっと…二つ名は……"赤鼻"さんでしたっけ?」
「誰が赤鼻じゃコラァッ!!」

 わざと煽って、"道化"の意識を私に集中させる。怒りで斬撃の威力は増したが、攻撃自体はさして速くもないので、避けるのは難しいことではない。

 ガキン、と何度目かの攻撃を受け止めたとき、後方からガコン! と重たい金属の落ちる音がした。視線だけ其方へ向けると、先程までルフィに向けられていた大砲が、今度は"道化"達を捉えているではないか。ゾロが動かしたのだろうか、あの重そうな大砲を。見かけ以上に力持ちである。

「ぎゃーーーーーーーっ!!!」
「大砲がこっち向いたァーーーっ!!!」
「ぬあ〜〜〜〜っ!!! あれにはまだ"特製バギー玉"が入ったままだぞ!!!」

 バギー一味は阿鼻叫喚に陥った。"バギー玉"とやらは初耳だが、恐らく私が此方に来る直前に聞いた轟音は、その特製砲弾によるものだったのだろう。だとすれば相当な威力だ。それが自分達に向けて放たれればどうなるか…想像に難くない。

「おい点火だ!!!」
「え……は、はいっ!!」
「急げ!!!」

 先程途中まで燃えて短くなっていた導火線は、あっという間に燃え尽きる。砲弾が放たれる前にと耳を塞いだ直後、凄まじい轟音の後、辺り一帯土埃に覆われた。
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