022

「今の内だ……!! ところでお前誰だ」
「私…泥棒よ」
「そいつはウチの航海士だ」

 海賊共に私達の行動が見えていない今の内にやってしまおうと、檻の柵越しにナイフで縄を切断していると、ルフィから驚きの発言が飛び出した。何とナミは、ルフィ海賊団(仮)の航海士になるらしい。海賊嫌いなのに。どう考えても本人の了承が得られていない気がするのだが、大丈夫だろうか。

「バっカじゃないのまだ言ってんの!?」

 大丈夫じゃなかった。

「そんな事言うひまがあったら、自分がその檻から出る方法考えたら!?」
「あーそりゃそうだ、そうする」
「というかルフィ君出れますよね?」
「え?」
「それくらいの幅なら…ゴムなんだし…普通に柵の隙間から出られるんじゃないですか?」

 一瞬の沈黙の後、ルフィが手を打った。最初に右腕を突き出すと、次に頭をぐぐぐ…っと押し出す。スポン、と頭が抜け出てしまえば後は簡単だ。いとも簡単に、ルフィは檻から抜け出した。
 私達は4人は無言で顔をつきあわせた。

「出れたぞ!」
「そうですね」
「…ねえ、そいつ今腕が曲がっちゃいけない方向に曲がってなかった?」
「目の錯覚ですよ。それより今は一旦退きましょう」
「何だよ、あいつらブッ飛ばさねェのか?」

 準備運動とばかりに腕を振り回していたルフィが、不満げに唇を尖らせた。子供っぽい仕草もルフィがすると似合う気がする。いや、それはそれでどうかと思うが。

「ゾロさんと、ゾロさんの手当をする私を庇いながら戦ってくれるならそれでもいいんですけどね。あの能力は少々厄介ですし…斬撃が効かないのてどちらにせよルフィ君に相手して貰う事にはなりそうですが、その隙に此方が周りの船員達に襲われたら困ります。一度退きますよ」
「……?」
「…ゾロさん怪我酷いので治療するために一旦退きますよ」
「わかった」

 訳を詳しく説明するとルフィの頭上に疑問符が浮かんだので、簡潔に言い直した。色々と不安だ。
 ルフィ1人残って"道化"達の相手をする、という案も一瞬浮かんだが、直ぐに棄却した。何せこの男、単身行動の末何故かバギー一味に捕らえられ檻に入れられたという前科がある。ルフィの実力を疑うわけではないが、単細胞だし簡単な嘘にも騙されそうなので、小細工を弄されれば敗北の二文字も有り得るのだ。
 そうなったら…いや私には何の関係もないことだけれど……ルフィが倒されれば私も晴れて自由の身なのだし、いっそ置いていけばいいのに、そう思えない自分が一番腹立たしい。こういう所が良くないのだと思う。

「どチキショーが、逃がさんぞォ!!!」

 "道化"の怒鳴り声が、土煙の向こうから聞こえてくる。大砲を撃ち込まれた直後だというのに、非常に元気だ。これは早めに退散した方がよいだろう。

 ルフィとゾロは屋根伝いに走った。私も後に続こうとして、ナミがまだ残っていることに気が付き屋上の柵の上に止まる。
 オーラは例え視界がどれだけ悪かろうと、間に障害物があろうと見える。よってナミの居場所もハッキリわかった。何をしているのか、1人の海賊に近付いたかと思えばそのまま屋上の出入り口から階下に向かおうとする。慌てて駆け寄り、その手を掴んで引き止めた。

「っ!?」
「落ち着いてくださいナミさん。私です。そっちは不味いですから別のところから逃げますよ」

 反射的に蹴ろうとして来たナミを落ち着かせてから、手を引く。海賊の間を縫って、ルフィ達と同じく屋上から隣の建物の屋根へ飛び移り、ある程度離れた建物の壁を這うパイプを伝って地面へと降りた。
 追っ手が来ていないことを確かめてから、私はようやく仮面を外し、お互い顔を見合わせた。

「…そっちは不味い、ってどういうこと?」
「港に停めてあった船の大きさを見るに、屋上にいたのがバギー一味の全戦力だとは思えません。恐らく階下には屋上にいた以上の人数がいた筈です。そして爆発音だけならともかく、一味の男達の悲鳴も相当響きましたからね、上の騒ぎを聞きつけて、様子を窺いに来る者がいたでしょう。あのまま進めば挟み撃ちになっていたかと」
「……成る程ね、危ないところだったってわけ。ところで、よく私があそこにいるってわかったわね?」
「女の勘です」

 大嘘だったが、ナミはそれ以上は追求しなかった。それよりも、別のことが気になっているらしい。

「ところで…あいつらどこかしら」
「東の方に向かったのは見ましたよ。…ルフィ君の仲間になるつもりがないなら、今の内に逃げた方がいいと思います。…彼、ほんっっっとに、頑固ですよ」
「やけに実感籠もってるわね」
「私も不本意ながら勧誘されている身ですから」

 私の言葉に、意外そうに目を丸くした。私もルフィ達の仲間だと思っていたらしい。

「あんたはあいつらの仲間じゃないの?」
「ええ、違います」
「そう…。……私があいつらを捜してるのは、その、一応助けられたわけだし、お礼くらいは言おうと思っただけよ」
「ナミさんいい人ですね」
「…うるさいわね」

 きっ、と睨まれたが、顔が若干赤いせいであまり怖くない。むしろちょっと可愛い。ナミはとても美少女なので尚更である。
 こんな可愛い娘が何故泥棒などやっているのだろうか。ナミ程の美人ならば他にもっと道があるはずなのに、わざわざ泥棒だなんて、何か訳があるに違いないけども。

「あんたはどうするの?」
「取り敢えずゾロさんの傷の手当てはします。それに、この町の人達の事が気になるので、もう暫くルフィ君達に付き合おうかと」
「そ。じゃあ行きましょ」

 私とナミは、ルフィ達のいる方へ走った。しかしおかしな事に、私達を捜しているだろうと思っていたバギー一味とは、その間一度も遭遇しなかった。

「追っ手が誰もいない筈はないんですけど…」
「…運が良かったのかしら」
「バギー一味の中でも腕の立つ人間が刺客として送り込まれたのかも知れませんね。それなら1人で事足りると向こうは考えるでしょうし、この人気のなさも頷けます」
「うっ…どっちにしろ、早いとこあいつら見つけなくちゃ」
「待ってくださいナミさん、あっちの方から声が」

 ナミの腕を引いて隣の通りへ出ると、仰向けに転がっているゾロと、犬と格闘しているルフィがいた。
 犬と格闘している、ルフィがいた。

「何やってんのよあいつら…」

 …隣のナミが、呆れきった声で呟いた。
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