同僚・有古の場合



05


 正直なところ、出勤自体がすごく気まずかった。あんなことがあったわけだし、なにより、有古くんが私を連れ帰ったことはあのメンバー全員が知ってるわけだし。

「……で、どうだったよ有古のやつ!」

 と真っ先に聞いてきたのは例の無神経な同僚。「なにが」と不機嫌を隠さず聞き返せば、「隠すなって」とにやけた顔が近づいた。

「まさか何もなかったわけないだろ」
「ない。貴方と違うので」
「うわひでぇ」

 酷いのはお前のそのデリカシーの無さだと不快感を顔に出せば、彼も流石にまずいと思ったのか身をひいて悪い悪いと口にする。多分、思ってはないだろうけど。

「……つか、まじでなに、何もなかったのかよ」
「ない、しつこい、セクハラだよ」
「あー……スイマセンでした」
「思ってないでしょ、ちゃんと反省して」

 ひとり静かに昼ごはんの予定だったのに、と私はお弁当に箸をつける。せっかく空いている会議室を見つけて借りることができたのに、まさか入るところをこいつに見られてしまうとは、と大きくため息。今日は、本当に、ついてない。

(……ただでさえ、有古くんとギクシャクしてしんどいのに)

 席が向かい合わせというのも考えものだ。身体の大きな彼は嫌でも視界に入り、どうしたってあの日のことと彼の目を思い出してしまう。仕事にも集中できてなくて、午前のうちにすでにミスを連発して先輩からも注意されてしまった後だった。

「……っていうか貴方さ、有古くんに変なこと言うのやめなよ」
「変なことってなんだよ」
「知らないけど……有古くん、嫌な顔してるじゃん」
「は? いつ?」

 本気でわからないという様子の彼に、先日の飲み会のことを告げる。ずっと私が気にしてしまっていたことは隠しながら、たまたま視界に入ったという体で。

「別に嫌がってなかっただろ」
「嫌がってたよ、やだなーって顔してた」
「……ふーん」

 何だその返事、反省してないだろ。と睨みつけると、彼は両手をひらひらさせながら半笑いで「はいはい」とムカつく返事をよこしてきた。

「ま、彼女さまがそういうならそうなんだろうな、以降気をつけるよ」
「は!? だからそんなんじゃないって……」

 否定の言葉を全部聞き終わる前にその男は会議室を出ていった。……後には私と、何とも言えぬ不快感だけが残されていた。