「今日は一段と機嫌が悪い」
「……べつに!」
師団に囚われた白石を助け出そうとみんなで決めた夜、私は間借りしているチセの隅でぷいとそっぽを向いていた。
「今度は何が気に入らないのか」
小さく息を吐く土方さんに、私は「だってアシリパちゃんには」と言いかけた口をつぐむ。この子は大物だ……そんなことを言いながら彼女を優しく抱き上げた彼の横顔を思い出してしまうのが、心底嫌だった。
(……子供扱いはいやだ、でも……悔しい、なんで? 別に、私にだって同じように笑いかけてくれるのに)
きっと同じ瞳だ。小さな子を慈しむような、そんな感じの。しかしならば私は何がこんなに気に入らないのだろう。
それじゃあ嫌だからと意地を張っていたのに、同じものが他の子に向けられるのは嫌だなんて。
(……わからない、わからないけど、とにかく面白くないんだ)
晴れない気持ちに俯いていると、彼は全て理解したかのように小さく笑い声を漏らす。それがまた愉快ではなく、様子をちらりと伺えば彼はすでに寝床に体を横たえようとしているところだった。
「ゆき」
「…………」
「――おいで」
「!!」
優しい声が私を呼ぶ。思わず緩みそうになった頬を抑えながら「ひ、一人で寝られますもん」と私はまた彼から目を逸らした。
「私がお前と一緒に寝たいと言ってもか?」
「え」
思いもよらない言葉に思わずもう一度彼を振り向く。しまった、と思っても時すでに遅く、期待に目を輝かせる顔を見せてしまった私は恥ずかしいやら悔しいやらで熱くなる頬を手で隠しながら、「それなら仕方ないかもしれないですね」と観念して彼の隣へと寝そべった。
「何故そんなにも嫌がるんだ」
向かい合うようにして彼の腕の中に収まれば、彼がそんなことを訊ねてくる。どう答えたものかと俯きながら、私は父と過ごした日々のことを思い出した。
「……父が、昔よくこうしてくれたので」
「それが嫌で?」
「違います! う、嬉しかったし、嬉しいけど……でもそれって、土方さんも、私のこと子供みたいに思ってるって、ことですよね」
それが嫌なのだ、と私は素直に口にした。
……何故なのかは、まだわからないけれど。
「そうか」
大きな手が私の背を撫でる。それです、そういうのが……と声にしかけた私の頭上で、彼がまた私へ言葉を投げかけた。
「……お前の父は、お前のことがよほど大切だったんだろう」
は、と顔を上げて瞬きを繰り返す私に、彼は微笑んでこう続ける。
「子供だからではなく、大切だから、守りたいと思うのだ」
「……! ……大切、だから……」
言われてみれば、そうではあるのだ。
だって、たしかに父以外の「大人」には私を守ってくれる大人ばかりではなく辛く当たる大人だっていて。子供だからと無条件に甘やかしているわけではないのなら、それらを分け隔てるのはなんなのか……と。考えてみた時一番に思いつくのは、
そんな簡単なこと、なんで今まで気づかなかったのか。
「……そっか……」
今度は自分の未熟さへの羞恥で体温が上がる。そしてドッと疲れのようなものが全身に降りてきて、私の瞼は少しだけ重くなった。
「じゃあ……」
「ん」
「……じゃあ、土方さんも……?」
――私のこと、大切にしたいと思ってくれてるってことですか?
そう、訊けたのか、訊けなかったのか。答えてもらえたのか、もらえなかったのか。――明朝、やけにすっきりと目が覚めた私は、とんと覚えてはいなかった。
その日以降、出会った頃と同じような(あるいはそれ以上の)熱量で土方さんについて回る私を見て、牛山さんなんかは温かな目をしていた。
「素直なのが一番だよな」
そう言った牛山さんの隣で「そうだな」と彼に言われ、ここ数日の自分の行動を思い出した私はあまりの羞恥に何も答えられなかった。
返事の代わりに彼の裾をぎゅぅと力強く握りしめた。