一節「お役立ち、私」



 聞き込みは私の領分なので! ……と、私が胸を張っていられたのは釧路の港について数十分の間のこと。結局自分が想像していたよりも上がらなかった成果に肩を落とした私は、たくさんの女性に囲まれてニコニコ上機嫌の牛山さんを遠巻きに眺めながら隅のほうでさざ波の音を聞いていた。

「……まぁ、あれも情報収集の一環と言えなくもないが」

 渋い顔をした永倉さんがぼやく。そうして私が手に持っていた飴の袋を見下ろしながら、さらに眉間のシワを深くして「それは?」と彼は尋ねた。

「……もらいました」
「誰に」
「…………漁師のおじさんたちに」
「……そうか」

 もう何も言うまい。そんな表情で長く息を吐かれてしまえば私も何も言えず、道すがら「お爺ちゃんとお出かけかい」と声をかけてくる老若男女に「そのようなものです」と曖昧に笑って返し続けた。
 否定は無駄だ。私と永倉さんの風貌では何度訂正をしようともキリがないと先ほどがら身をもって実感している。

「永倉さん、早く土方さんたちの方へ行きましょう。このままじゃ町中の人たちに私が永倉さんの孫だって勘違いされます」
「なんだ、そんなに嫌か」
「いやです。……娘ならまだしも、孫は」
「ふ」
「…………なんですか! 笑わないでください!」

 なるほど娘ときたか、と何が面白いのか永倉さんはまた笑みを漏らす。孫、でなければいいか、というのは最近覚えた譲歩というやつだ。子供扱いは相変わらず面白くないが、彼等と私ほどの歳の差があればそれも仕方ないのだろうと。
 ――ああ、でも、永倉さんならまだしも、土方さんとそのように見られるのは、少し……。

「お嬢さん方……ちょっとこれを見てくれないか?」

 そんなことを考えながら彼の元へ行くと、ちょうど彼も幾人かの女性に声をかけたところだった。「お嬢さん方」と呼ばれ振り向いた彼女たちの頬は少し赤い。私はそれが少し面白くなくて、頬を膨らませたまま彼の隣に立った。

「あら、ふふ、可愛らしい、お孫さんかしら」
「ち……! ちがい、ます」

 私の姿を見て少し屈んで視線を合わせてくれる女性。彼女の言葉に(先ほどあれだけ無駄だと自分でも理解していたはずなのに)私は思わず否定の言葉を口にする。
 今度は、土方さんまでもが小さく笑い声を漏らした。
 
 その後、キラウシという名のアイヌのヤン衆に声をかけ、私たちは屋根のある寝屋を確保できる次第となった。そのうえ土方さんはどうやら彼に道案内を依頼したようで、明日からは彼も私たちと同行することになるらしい。
 その話を「ふぅん」という心地で聞き流していると、彼が数秒私の顔をじっと見つめた後、「また何か拗ねているのか」と呆れと愉快さが半々というような声色で尋ねてきた。

「す、拗ねてません」
「だが随分と……しかめ面だな」
「う、ううう」

 彼が人差し指で自身の眉間をとんとんと叩く。知らず私はそこに力を入れているのだろう、それを指摘された恥ずかしさに唸っていると、彼が口の端を緩ませた。

「す、拗ねてるわけじゃないんです、ただ、さっき……あまり、お役に立ててなかったなって……」
「そうか」
「……私は土方さんのお役に立ちたいのに」

 正直、「そんなことはない」と言われるのを期待していなかったかといえば嘘になる。しかし、そんな中身の伴わない言葉を口にする彼ではないとよく理解もしていた。やりようのない情けなさに私が俯くと、彼は凛とした声が続く。

「そう思うのなら、慣れないことをして無理をするより、自分にできることを考えろ」
「! は、はい……!」

 言葉だけ聞けば突き放すようにも聞こえるそれは彼の声で紡がれることで激励の言葉へと変わる。いや、それはもう受け取る私の心情の問題でしかないのだけど、しかしそれに確かに励まされた私の背筋は伸びた。
 私にできること――それはまだわからないけれど、まずは、それを探すことから、一歩ずつ。
 
「…………ところで、土方さんは」
「ん」
「………………あの、……お、奥様方くらいの女性がすきなのですか」
「! ……ふ、」
「な、なんで笑うんですか……!」