二節「見る、聞く、されど言わざる」



「どっ……毒を飲んだぁ!?」

 ごとん、と足元でカラの湯呑みが鈍い音を立てる。お茶を淹れる前で良かった……とどこか冷静な自分が考えるのと同時に、混乱状態の私の身体は思考を置き去りに、早足で畳まれている布団の方と駆け出した。

「お、おち、おちつ、寝っ、寝て、寝……!?」
「お前が落ち着け」

 あたふたと布団を広げ「寝てください!」という言葉の代わりにと何度か布団を叩いた私に、彼はしれっと言い返す。それでも私は意固地に叩き続けた。

「なぁ、俺も飲んだんだけど……」
「ゔー!」
「威嚇された……」

 後ろからひょっこり顔を出す門倉さんには唸り声を。彼はその様子に軽く笑いをこぼしながら私の横を通り抜け、布団の上へと腰を下ろす。

「土方さん、苦しいとか痛いとかは? け、怪我とかは?」
「問題ない、大袈裟だ」
「でも……」

 ひとまずお茶を、と私は淹れかけていたお茶を用意しに腰を上げる。背後で衣擦れの音と「少し横になる」と永倉さんに告げる土方さんの声がした。やはり、大丈夫なように振る舞っていたって身体は万全で無いのだろう。
 私は新しく用意した湯呑みに注いだ茶を持って、また彼のそばに座り込んだ。

「ありがとう」

 彼はそれを受け取り、躊躇することなく口をつける。そうして一息をつくその横顔を見ながら、私も同じようにほっと息を吐く。

「気をつけろよじーさん、俺は女郎に盛られたからよ」

 牛山さんが火鉢の前で巨体と声を震わせた。私はそんなことしないです! と振り返ろうとした私の目の前では、土方さんが「そうだな」と目を細めている。

「そ……そうだなって……! 土方さん、わ、私がそんなことするって、思ってるんですか……!?」
「――いいや? まったく」
「は……」

 ――即答。私は嬉しいやら照れるやらで何も応えられず、熱くなる顔を隠すように俯くしかなかった。

「……そろそろ休む。今日も一緒に寝てはやれんな」
「! そ、そんなの……そんなの、いいです、土方さんが無事なら、それで……」

 やはり軽口を言う様子からは不調などは見て取れない。それでも、そうは見えないというだけでは彼を心配しない理由にはならないのだ。

「本当に大丈夫なんですか?」
「薬にも毒にも詳しい、問題ないといったら問題ない」
「……でも……」 

 そういう問題では、ないのです。
 飲み込んだ言葉が喉の奥で熱く火照るようだった。

(心配なんです、あなたが。……だって私は)

 あぁそうですとも、わかっていますとも。
 私があなたのことが心配で仕方がないのも、他の人ばかりを見るのが気に入らないのも。初めて会った時よりもずっと、あなたのそばにいたいと、役に立ちたいと思うのも。
 全部、おんなじ理由なんです。

(好きなんです……)

 その言葉は口にはできないまま、私は閉ざされた彼の瞳の奥をじっと覗き込むように見下ろしていた。
 今は、まだ。