六節「こころばかり」
我々は手を組むしかない。と言った。私より背も歳も小さな女の子は、その青い瞳で真っ直ぐに土方さんを見てそう言った。
彼女は、それができる強い人だというのが――たまらなく悔しかった。
「土方さん、外に出る前に包帯を変えた方がいいです」
「もう動かせる、問題ない」
「それでも、治ったわけではないですから」
明朝、身支度を整えるなり寺を出ようとした彼を引き留め私は彼の左腕を差し出させる。彼は特に抵抗するでもなく大人しく私の前に座り、着込んでいた上衣のボタンに手をかけた。
「……」
手当のためとはいえやはり気恥ずかしく、私は少しだけ目線を逸らす。部屋の隅をジッと見つめながら衣擦れの音を聞いていると、「脱いだぞ」と彼に短く声をかけられた。
恐る恐る顔を上げればやはり血の滲む彼の腕が目の前にあり、それを見た瞬間、微かにあった恥じらいなどはとんと私の中から消えてしまった。
「やっぱり、まだ全然治ってないじゃないですか!」
古い布切れを取り、患部を清潔にしてから、新しいものに取り替える。その際に確認した傷口は確かに昨夜よりはマシになっているようにも見えるが、やはり拭った布を赤く染めるくらいには重傷であった。
「……調査に行くのはやめて、安静にすべきです」
止血のためにと強く包帯を結びながら、私は彼にそう言ってみる。
「時間がない」
彼は私の方を見ることもなくそう言った。
「じゃあ、私がその分一人で調査に出ます」
「お前はガムシンと一緒に行動する予定だっただろう」
「聞き込みくらい一人でもできます!」
「――だめだ、調査は必ず誰かと共にしろ、それが出来ないのならここで待て」
「……っ!」
彼は、やはり私を見ない。
――昨夜、あの子と話をしていた時は、しっかりとその眼を見ていたのに。
「……土方さんの中の私は、まだか弱く頼りない小娘でしかありませんか」
「――、」
息を呑む音が聞こえた……気がする。私は視線を落として、震える言葉を絞り出す。
「……少しは強くなったつもりでいました。……アシリパちゃんには出来て、私にはさせてもらえないのはどうしてですか? ……土方さん」
見下ろしていた自分の拳の輪郭がぼやけた。泣くな、泣くな、と自分に言い聞かせながら、問いの答えを急かすように彼の名前を呼ぶ。
(ああ、でも、こんなこと聞いたって困らせるだけだろうな)
やっぱりなんでもないです。と努めて明るく告げようと彼を見上げる。その先で、いつの間にか私のことを見つめていた瞳と視線があった。
それは――はじめてみる、顔だった。
「……お前に、危険な目にあってほしくないと思うのは、私の弱さか」
「――っ!」
「…………弱くなったのは、私の方かもしれないな」
今度は私の息が止まる。その言葉の意味を私が理解するより早く、彼は衣服を整えて立ち上がった。
「今日はここで大人しく待っていろ、すぐに戻る」
私は――返事もできずに彼の背を見送るしかなかった。
もし、これが私の勘違いでないのなら、少しくらいは自惚れても良いのだろうか。
――私を、大切にしたいと想ってくれていると、自惚れても。