こじれた友情



 話は過去へ戻る。その昔、小野泰斗と堤光吾は大親友だった頃へ。

 元々小説好きだった二人は同級生だった。ともに長宝院学園の文芸部に所属し、お互い持ち寄った自作小説を読み合ったり、作品について考察し合ったり、自信のある作品は公募へ出すような活動をしていた。
 特に小野泰斗は親友の堤光吾の才能を大いに認めており、自分はそんな青年の親友であることに誇りを持っていた。しかし堤の作品は不運にも賞に輝くことはなかった。堤は内気な青年だった。実らぬ努力は次第に公募へ出す意欲を下げ、一時は筆を折ってしまうスランプにも陥ることとなる。

 それでも小野は親友の才を信じて諦めなかった。そして何ヶ月ぶりかにようやく堤が生み出した作品を拝読した小野は再度公募へと勧める。しかし堤は公募というワードだけで逃げてしまうほどに自信が無くなってしまっていた。

 そこで小野は堤の代わりに公募へ提出することを思いつく。
 だがしかし万一にも不当選した場合、堤に不当選の連絡がいってしまったら…。そこで堤が完全に筆を折ってしまったら…。
 小野は親友を憂い、名前を自身のそれに書き換えて送付することにした。当たった暁には後から本当の作者は堤だと知らせればいい、自分は悪者扱いになってもいい。その一心で。

「やっぱり…!やっぱりアイツの才能は間違い無かった!!」

 ある日、小野は自分の自宅へ届いた郵便物を見ては近所の目を憚らずにその場でガッツポーズを取る。
 見事に堤の作品が公募で賞を、それも有名作家のお墨付きの特賞を得たのだ。小野はやはり己の親友の才能は間違いがなかったと驚きつつも舞い上がった。

 がしかし、ここからが悪夢だった。

 発表が出てから数日が経った頃、小野はついぞ担当の出版社へ事実を告げることにした。

「――盗作?小野君がかね」
「いやいや、そんなこと発表したら僕たち出版社のメンツが丸潰れだよ。よしてくれ」

 そのセリフに小野は瞠目をせざるを得なかった。

「でも…!!」
「君は気にすることはない。私たちが"どうにか"する」

 出版社の人間たちの反応は小野が思っているものとはかけ離れたものだった。どんなに訴えてねじ伏せられる現実に唖然とした。
 それからというのも自分の話を盗作されたと知った堤は数日後には学校を退学。完全に行方をくらませられ、いよいよ小野は堤に謝罪ができない状況となってしまった。小野は生きた心地を得ないまま、その足で出版社へ向かう。

「……堤の件、どうなったんですか?」
「ん?あぁ、良いよって」
「良いよ、ってなんですか…!連絡取れたんですか!?」
「お金渡したら作品を君に渡してくれたよ」
「…!堤と連絡取らせて下さい!」
「やー難しいと思うよぉ。二度と関わらないで下さいって凄まれたもん。ウチの会社は完全に嫌われてるわありゃ」

 それからと言うもの、胸中に鉛の様な重くて冷たい罪悪感に苛まれつつ学園を卒業した小野は、そのまま出版社にあれよこれよと言われるがままに小説家として活動することになる。日々プレッシャーを与えられ、小説を書き続けたが、その傍で出版社には真実を必死に訴え続けた。
 幸いなことに数年経つ頃には、堤は堤光呉として、独自に小説家デビューを果たしていた。
 人伝に彼の居場所を知ることができた小野は己が見出した才能の持ち主の元へ自ら脚を運び、謝罪の機会を伺ったが、当然門前払いを受けるような状況だった。当然と言えば当然の結果でもある。
 己の罪の償い方が見いだせずにいた小野はせめてものとデビュー作の出版化だけは断固拒否の姿勢を取り続けたが、それでも悪夢はまだ続く。

「なんだよ!!なんだよこの記事!!」

 ある日小野は週刊誌を片手に担当者のいる会社に怒鳴り込んだ。その記事には小説家の堤光呉が小野泰斗の作品を盗作した旨が書かれていたのだ。

「さてな。パパラッチがどこからか話を拾ってきたのかもなぁ」
「まぁ、ライバル潰しになったんじゃないの?小野君からしたら」

 「こんなの…!あんまりだ…」小野は握り拳を作る。金の臭いに貪欲な出版関係者がありもしない情報を売ったのだ。
 こうして堤光呉は根も歯もない話のせいで小説業界から袋叩きに遭ってしまうのであった。

「泰斗、それよりもようやく決まったか?」
「それよりも……?」
「お前のデビュー作の出版化!良くも悪くも伝説の話になってるからなー、ここへきてドーンと出しちまうのも話題性があって良いと思うんだわ」
「……っ」

 長年言われ続けたデビュー作の出版化の話に小野は頭に一瞬血が上った。それから震える肩をどうにか己で押さえつけ、小さく呟く。

「…分かりました…。その代わり一部改訂させてください」

 何か覚悟を決めたかの様な声色と眼差しの小野を見た直後、名前と当時同じ光景を見ていた海斗は目を覚ます。