05
「お客様3名ご案内しますー!」
「いらっしゃいませー!」
バッシング中に店の入り口の方から聞こえた仲間の声に応えるよう声を張り上げ、手早く目の前のテーブルを片していく。テーブルとイスにきちんとアルコール消毒をし、テーブルセットを整え、メニューをきれいに並べたら完了だ。
「7卓バッシング完了ですー」
「はあい!」
厨房に帰るなりグリーターに空いた卓番を伝えると、厨房の方はすっかり繁忙期が過ぎたのか落ち着いて片付けに入ってるように見えた。「苗字さんホント助かるよー」ホールから戻ってきた店長がほっと一息をつきながら笑顔をこぼす。
「復帰してくれて助かったよ、ありがとうね!」
「いえいえ。最近あまり入れてなくて申し訳ないです」
「正社員の仕事見つかったんだろ?良かったよなぁ苗字さん。一時は病気で辞めるとか親戚から電話あった時はびっくりしたけども」
「ははは、その節は…」
五条さんに勝手にバイト先を辞めさせられたあの後、ダメ元で一番親身になってくれていたバイト先の店長に連絡したらもう一度働けることになった。よほどの大怪我なんかしない限りは空いた時間にこうしてシフトを入れさせてもらっている。
なにせ呪術師の給料は今のところ全部五条さんへの借金に使っているから、最低限生活費を稼ぐ必要があったから。
「無理はしないでね」と自分の身を案じてくれる店長に申し訳なさを感じ、雑談をしているとピンポーンと軽い音を立てて呼び出し音。
「じゃあ私行ってきます」
伝票端末を持って暖簾をくぐり、呼び出し卓の番号を確認。個室になっている扉に向かって「失礼しまーす」と中まで聞こえるよう声を出して襖を開けた。が、すぐに後悔した。
「……何故?」
「まずは注文聞けよ。いや、先に灰皿を置いとけ」
「や、家入さん、この店喫煙ルームがありまして」
「客に口答え?はぁ〜っ、躾がなってないなぁ!?店長どこよ!」
「や、あの、おふたりとも…!」
「……もう一度聞きますけど、何故?」
そこに集まっていたのはあら不思議、昼間も高専で見かけたメンバーだった。パワハラの化身五条さんに家入さん、それから冷や汗をかきまくって脱水症状が心配になる伊地知さん。あはは、伊地知さん顔真っ白だよ。止められなかったんだね。そうだよねぇこんな呪術界の権力者たち目の前にしたら言うこと聞くしかないですよねぇ。
「家入さんのお口に合うお店なんてもっと他にあるだろうに…」
「これまで治療の分奢ってもらおうかと思ってな」
「えっ、呪術師の治療費まさかの自腹!?でした!?」
初耳すぎてひっくり返りそうなんですけど。アホみたいに家入さんのとこ入り浸るんじゃなかった!
「呪術師は人手不足だっつーのに居酒屋のバイトとか余裕じゃあん名前」
「私の懐が余裕じゃないんです」
「なるほどな。そんな仕事頑張る名前に菊正宗奢るだけでチャラにしてやんよ」
「私の話聞いてましたか?聞いてないですよね。しかもそれ高いやつすぎて店にありませんよ」
「仮眠してたところに抉られた左腕の肉直してやったの、誰だと思ってんだ」
「……その節はどうも」
「は?なに?肉抉られた?聞いてないんだけど」
「しまった。五条さんに知られるとうるさいからさっさと治したのに思わぬところからボロが」
「思いっきり声に出てるぞ名前」
「――いでっ!?」
不意に左腕を引っ張られてドタンと膝を床につく。見れば五条さんが私の腕を引っ張って、シャツの裾を思いっきり引き上げるではないか。
「……治ってる、ね」
「誰が施術したと思ってんだ」
「はいはい、流石硝子サマサマだよ。いいよ、今日はこのバカが世話になったみたいだから僕の奢り」
「ちょっと、こないだのラーメン代どうしてくれるんですか」
「おい名前、五条に感謝しろよな」
「なんで!?」
解せん。なんなんだろうかこのドSコンビ。つい伊地知さんに救済の眼差しを向けてしまったが、白い顔が余計に白くなるだけだった。すみません。
とりあえず一向にご注文が出てこないのでひとまず退散して良いですか?
[借金450万]−[報酬50万]=[残金400万]