謝罪っていうのは誠意の有無で大分変わる
◼︎
「すびばせんでした」
「…」
顔をボコボコに腫らした坂田さんは、そう言って私に頭を下げた。ちなみに、ここはパン屋の裏にある勝手口。
顔を腫らした坂田さんがバイト先に来たのはつい数十分前。それを見た店長に何故か休憩を勧められて、今に至る。
「お、覚えてるもんなんですか…?」
「えーっと、覚えてるか覚えてないかと言われましたらですねぇ、そうですね、僕は後者になってしまうんですけれどもー」
「そうなんですね。覚えてないんですね」
なんだ、それならもう水に流しちゃえば良いか。坂田さんも酔っ払ってたことだし。妙に納得した私に坂田さんが食いついた。
「どういこと?え?俺やっぱなんかした!?」
「いや、お気になさらないで下さいマジで。この話金輪際触れないでくださいキレます」
「いやいやいやいや!たまやババアに聞いても教えてくれねェし!それどころか土下座してこいなんて言われてんだけど!そんなにやばいことした感じですかァアアアごぶ!!?」
「うるせェェエエ!」
坂田さんが喧しすぎて思わず拳が出た。その時手首がズキリとして、階段でコケた時に捻ったのを思い出した。
よろめいた坂田さんにひらりと女の人が擦り付いた。あれ、どこからいたこの薄紫色のロングヘアのお姉さん。
「銀さんってば!!私という女がありながら…っ!外でこの女に盛ってたの忘れたの!?酷い…!でも、そうなのね、よく考えたら私外でのプレイ承諾してなかったわよね!良いわよ!なんなら昼からでも!!興奮するじゃないのォォォオオ!!」
「「…」」
え、どういうこと?坂田さんは何故か遠い目をしており、女の人は目を潤ませ頬を赤らめて坂田さんに抱きついている。かの、じょ?もしかして痴話喧嘩か…?
これはちょっとヤバい現場ってヤツなことに気が付いた。
「えっと、じゃぁ、私はこれで…」
「待て待て待てェェエエエい!」
―――――
「えっと、どなたですか?」
「どなたって貴方失礼ね!!覚えときなさい!私が銀さんの…っ!!」
あの後必死に私を引き止めた坂田さんは女の人を背負い投げで空に投げ飛ばした。
「気にすんな。次のコマには消えるから、まじで気にすんな」
次のコマってそういうメタ発言するなって此間アンタ言ってただろ。ていうか、今消し飛ばしただろ。いろいろツッコミ所が満載だったけれど、そんな言葉を取りあえず飲み込んでおいた。面倒くさい。
「私ちゃんと見てたんだから!酒の勢いでこの女にキスしてたところを!!!そして、甘い声でこの女の名前を囁いてたんだから!!」
「いやー!!!どっから来たのか分からないですけど、ちょっと黙っててもらえますかァアアアアア!?」
投げ飛ばされたはずの女の人が今度は坂田さんの後ろから現れた。あまりにも包み隠さずフルオープンで語るものだから、火照る顔をそのままに女の人に飛びつく。
女の人は飛びついた私を避けると「フン!残念だけど依頼人が待ってるの、また来るわよ!」と威張ってその場から姿を消した。
待て待て待てェェエエエい!爆弾落とすなァァアア!!!
「え、今の大まじ?」
「えっと…」
キスというかあれはたまたま唇が耳にぶつかっただけというか、囁いたというか呟いたというか…。なんて説明したら良いんだろ。とにかく頬が熱くて、言い訳がなかなか出てこない。
顔を真っ赤にした私を見て坂田さんがそれを肯定だと受け取ったのか、あっちまでワタワタし始めた。なんだこの光景。
「すいまっせーん!!ほんと、すいまっせーん!!まじで銀さん金輪際酒には手だしませーん!!」
「いや、飲んだら良いと思います…ただし私がいない場所で」
「くあー、まじか…。もうほんと、無かったことにしてくれる?あ、でも初めてだったらまじで悪いていうか、彼氏クンにもまじで悪い。て言うか銀さん彼氏クンと間接…いやいやいやいや」
「…あ、いや。その、ききキスっていうのはちょっと大袈裟といいますか、こう、みみみ耳にね、ちょっとふにっとしたっていうか」
「なに!?俺、耳にチューしてたの!?まじか!!ぶべらっ」
「五月蝿いって言ってるんじゃバカタレェェエエエ!」
本日2発目の拳。何が悲しくてこっちが事情説明せないかんのだ。
「あと、坂田さん何か勘違いしてますけど、私彼氏いませんので!!」
「……まじかオイ…。…あーまぁ、そうだよな。こんなじゃじゃ馬手懐けるなんて相当な腕前の騎士だよな。うん、そうだよな」
「坂田さんに言われたかな…い」
さっきから目を点にしたり喧嘩ふっかけてきたり顔を赤くしたり表情がコロコロ変わる坂田さん。
これで最後にしてさっさとお店に戻ろうと拳を突き出すと、その手はやんわりと坂田さんに受け止められた。湿布も特に貼ってない手首を坂田さんの長い指が滑る。つい、ドキリとしてしまったのは内緒だ。
「まぁ、その、だ。手首も俺のせいだろ?」
「え…?」
「完治するまで買い物とか手伝ってやっから」
「別にそこまで重傷じゃないんですけど。骨折じゃあるまいし」
「こういう時は素直に甘えときなさいよ!!」
「あははっ」
焦ったり謝ったり怒ったり、いろんな坂田さんが見れて思わず笑いが出てきた。
「でも、本当大丈夫なんで。今日は面白いもの見れたし。まだ気になるようでしたら、今度の依頼料99パーセントオフでお願いしますね」
「……おー」
銀さんは照れくさそうにぽりぽりと頭をかいた。
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