酒の席で世話係はやめとけやめとけ
◼︎
「あ〜腕がもげるわ。銀さんの両腕まじもげる。知ってるか?侍は腕が命なんだよ名前チャンよ」
「侍は切腹して内臓吐き出すことはあるかもしれないですけど、弱音は吐きませんよ」
「あー超軽いよね。マジこんくらい朝飯前だし」
流石に手ぶらじゃ悪いと思って、いくつかお酒を購入。一応水商売しているから、焼酎割りやカクテルが作れそうなものと、新八君と神楽ちゃんもいる聞いたので、2人にも飲めるようなジュースやお茶を買えば、持ってきていたエコバッグがパツパツになった。
それを坂田さんに持たせてお登勢さんのお店に向かう。
「今日は潰れてくれんじゃねーぞー。銀さん今日浴びるように飲むから。潰れるなら彼氏クン呼んでね」
「普段から潰れるくらい飲みませんからご安心を…って、え?彼氏?」
「あ」
「え?」
この人何言ってるんだ?な状態な私と、しまったなんて表情の坂田さん。そんな私たち、いや厳密には坂田さんに向かってあちこちから「ツケ払えや天パ!!」「銀さんこないだの修理費まだ出してもらってねェぞ」「指でもタマでも売ってこい!」なんて、声の持ち主の表情は割りかし穏やかだが口からはヤクザ紛いの罵声が飛んでくる。本当にいろいろと大丈夫なのかこの人?
本人はだいぶ汗ダラダラだから、大丈夫じゃなさそうだ。
「彼女作ってる暇あんならツケ払え!」」
「「違ぇ(います)から!!」」
思わぬ罵声に思わず私も反応してしまった。隣歩いてるだけでそう見えるもんなのか。ジロリと隣を見上げると坂田さんもこちらを見ていて。アレ?
「何ちょっと赤くしてんですかアラサーの分際で」
「うっせー!返済方法考えてたら知恵熱出ただけだし」
カン!とベルが鳴ったかのように啀み合いが始まったが、お登勢さんのスナックに到着するころにはお互い落ち着きを取り戻していた。
戸を掛ければ、私の姿に気づいた神楽ちゃんがすっ飛んできてくれた。
「名前!会いたかったアル!!」
「神楽ちゃん!」
「バイトお疲れ様でした」
「新八君もありがとう」
坂田さんにも改めてエコバッグを持ってくれたお礼を伝えて、それをカウンターに並べた。
「おや、飲みモン買ってきてくれたのかぃ」
「手ぶらじゃ流石に悪いですから」
「悪いね。今食いモン用意するから待ってな」
「はい」
―――――
そういえば、と思って飲み会の理由を聞けば、何やら途中から入ってきた長谷川さんという方が馬券が当たったらしく、それでパーっとやろうとなったらしい。
「名前ちゃん可愛いよねェ。万事屋ンとこのチャイナ娘とはまた違う感じがさぁ!」
「あれ、ここキャバクラでしたっけ」
「そんなちょっと冷たいっつーかさ、ツンデレ気味なところ、かなり読者にウケると思うんだよね!」
「読者って何ですか?」
「フン!ワタシダッテソンクライデキルワヨ!」
「うるせェェエエエ!お前と名前ちゃんを一緒にすんじゃねェェエエエ!」
「アンダトマダオノクセニィィイイ」
10時半を過ぎたあたり、神楽ちゃんが眠たがったので新八君は神楽ちゃんを送るついでに帰ることになって。スナックにはお登勢さん、キャサリンさん、ロボットのたまさん、長谷川さん、坂田さん、私のメンバーになった。坂田さんは隣でぐでんぐでんにソファーに転がっている。
「だらし無いねェ。名前、銀時を二階に運んでやってくれねェか」
「え」
テーブルの上を片付け始めるお登勢さんの手伝いをしていると、お登勢さんは後ろ指で坂田さんを指差した。長谷川さんの方が良いのではと思って彼を探すと、キャサリンさんにボコボコにされて気絶していた。
思わず顔がひくついた。…まぁ、これでこないだの件をチャラにしてもらおう。私は腹を括った。
―――――
「っ、重い!!」
「あー、ダメだって、銀さんそういうのダメだから。どうしてもっていうならいいけど、うん」
「腐れ天パが!!」
意味わからない寝言をほざく坂田さんの腕を肩に回して片手は腰を支える。二階の万事屋に続く階段に絶賛大苦戦。
「ちょっとオメー、銀さんつれこんでナニするつもりなわけぇ?」
「連れ込むってかここ貴方の家」
「おーい、名前チャン、きいてんのー?」
酔っ払いをまともに相手する方が馬鹿らしいか。もうフルシカトで玄関先まで連れてったらすっ転がしてさっさと帰ろう。
「―――名前」
「ひぁっ!?」
耳に柔らかい感触があって、坂田さんの声が鼓膜を震わせた。
突然の出来事にびっくりして階段を踏み外し、坂田さんごと後ろにすっ転びかけるが、自分の体を前のめりにして踏ん張る。
気がつくと私は仰向けのような状態で階段に座っていて、坂田さんは私の上で大爆睡。咄嗟に自分が下敷きになる事で坂田さんが階段にぶつかることは免れた。強打した背中やお尻が痛い。
「いった…」
「ぐーぐがー」
「…」
人の肩口で爆睡してる天パを見下ろすと先ほどの耳に当たった柔らかい感触を思い出す。一瞬で顔がかっと熱くなって、耳をパタパタ叩く。
早くこの状況を打破せねばと坂田さんの体を押すがビクともしない。意識の抜けた人間の体がなんと重いこと。
その時下の階から「なんだ?」なんて声と階段を駆け上がる足音が聞こえて、今度は顔の血の気がサッと引いた。
「銀さん!?どうし…っ、ァアアアアア!!」
「名前!アンタ無事なのか…ぃ…」
「ははは長谷川さん、お登勢さんんんん!!」
「銀時様、なかなか大胆な方でしたのね。データに追加致します」
たまさんと坂田さん以外の居合わせた人たちが完全にフリーズ。真っ先に動いたのは長谷川さん。いつの間にか持っていたタバコに火をつけた。
「起きろや天パァアアアアア!!」
「おごば!!?」
長谷川さんは「羨ましいぞこんチクショォオオオ!!」と叫びながら坂田さんを背負い投げして階段下にすっ飛ばした。
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