風邪をひくと人の優しさが2割増しで身に染みる

◼︎


ついさっきまで懐かしい夢を見ていたような気がした。


目を開けた瞬間にそれはすぐに忘れてしまったから、なんだか惜しい気もする。

「…?」

目を開いた時に視界に入った木製の天井の景色に違和感を感じた。自分の部屋にしては朝日がたっぷり入っている気がして…a。
自分の家の天井となんだか色がちょっと違う気もしてきたから、ぐるりと回りを見渡すと見知らぬ和室。

「えぇ!!?」

驚きのあまりに跳ね起きると、額からぽとりと濡らしたタオルが落ちた。

この部屋の出入口と思わしき襖はきっちりと閉められていて、反対側には窓。窓際まで寄って外を眺めると、早朝から働く人達が行き交っている。
もう少しここがどこか確認したくて、窓を開けて身を乗り出していると、後ろから叫び声が聞こえ、同時に体をガシリと抱き込まれた。

「ッァアアアアアア早まるな早まるなァァアアア!!ナニもしてねェから!!まじでナニもねェからァァアア!!!」
「さささささ坂田さんんんん!!?」

思いもよらぬ人の登場にこっちまで思わず叫んでしまった。いつものグーパンが出せなくて、そこでようやく気が付いた。あれ、身体重たいや。


―――――


「――なるほど…。長谷川さんがタクシーの運転手さんにお登勢さんのところまでって言ってあったんですね」
「そ。お前が熱あって頭パーになっちまってっから、絶対ここ連れてけってな」
「頭がパーなのはあなたでしょう」
「バカヤロー。俺がパーになっちまってんのは毛の方だから。……って何を言わせるんだテメーは!!!」

布団に再び連れてこられ、坂田さんの話を聞いてようやく状況が分かった。
お登勢さんがいなくて非常に残念でしたが、長谷川さんお気遣いありがとうございます。お登勢さんがいなかったのだけが本当に残念でしたけど。
そう心の中で呟いたはずなのだが、坂田さんに顎をガッと掴まれて「ダダ漏れだっつーの」と一言言われてしまった。
そこで彼は腰を上げた。

「ちょっくら待ってろ。今メシ作ってっから」
「…え」
「なんだよその顔。天パが料理できなさそうに見えるって?残念だったなァー、これができちゃうんだなー。銀さん有能だから」

いや、別に何も言ってないけど。

ドヤ顔で和室を出ていく坂田さんを見送る。横になりながら待つとにして、なんだかいい匂いがするなぁと思い始めたら、再び襖が開いた。
部屋に入ってきた坂田さんが、私がいる布団の横に小さい土鍋を置いて蓋を開けた。お粥の良い香りが広がる。

「わ…」
「食えそう?」
「ちょっとなら…」
「ホラ」
「あ、ありがとうございます…」

こうやって看護してもらうのいつ振りなんだろう。小さい器にお粥をよそって手渡してくれる坂田さんにお礼を伝える。

「うわ…美味しい…」
「その微妙なリアクションちょっとやめてくんない?めっちゃ意外感すげー出てるんだけどやめてくんない?」
「あははっ、でも本当に美味しくてびっくりしました」
「……そーかよ」

ややぶっきら棒に答える坂田さんだったが、なんだか嬉しそうだ。

「まだ熱あんだろ?寝とけ」
「…料金怖いですね」
「そこは安心しろ。マダオからふんだくるまでよ」
「長谷川すみませーん」
「名前ー!!!生きてるアルかァアアアアア!?」

万事屋の玄関先から荒々しく戸が開く音と、神楽ちゃんの声と、ドタバタこちらに向かって走ってくる音の三拍子が聞こえた。
スパァンと気持ち良いくらい襖を開けた神楽ちゃんとご対面。神楽ちゃんの後ろに見える居間に、「あぁ、間取りこうなってるんだ」なんて。

「名前ー!!生きてたネェエエエ!」
「ごふっ」
「オーイ神楽ちゃーん、オメーがその名前チャンを今し方ぶっ殺そうとしてるよー」
「おはようございます名前さん、銀さん。熱下がりました?」
「微熱くらいだろ。今粥食ってたわ」
「新八君、昨晩はありがとう」
「いえ!今日ここ来る途中に薬局に寄って体温計と薬買ってきました。飲んでくださいね」
「かたじけないです…」

「風邪のイベント精々楽しむヨロシ!」なんて何故か楽しそうな神楽ちゃんと、「風邪って鼻からですか?喉からですか?頭からですか?」なんて風邪薬を選んでくれる新八君と、私が口付けたお粥を食べようとする神楽ちゃんを阻止する坂田さんの3人に、私はいつぶりかに感じる家族のような暖かさに一人で笑うのだった。



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