偏見を取っ払うのって結構難しいよね

◼︎


「おはようございまーす」
「おはよう名前ちゃん!」
「今日はね、良いチーズが手に入ったんだよ」
「小麦粉も北海道のやつでね。もう最高のヤツ入ったのよー!」

またいつも通りの朝。いつも通りの日常。いつも通りにパンの仕込みをして、いつも通りにお店の戸を開ける。
いつも通り接客していつも通り家路につこうと、裏の勝手口を開けた。大江戸スーパーのセール何時からだったけかな。


―――――


「よォ」
「…なんですか」

最近やたらこの人に会う。会うってか、あっちが私に接触したがってる気がしてならない。なんだ?ついに私にもストーカー?

「どこぞのゴリラ局長と一緒にすんじゃねーよコノヤロー」
「…暇なんですか?」
「さーな。優秀な従業員が頑張ってくれてっから、俺は出番無しかもな」
「じゃあこのまま本編は打ち切りですかね。万事屋新ちゃん!で新連載スタートですか。新魂?なんだか爽やかでクリーンな万事屋になりそうですよね」
「ッダァァアア!!なんなんださっきからオメーはよ!人のメンタルに突き刺さることばっかり!!」
「そっちこそなんなんですか!あの一件から人の周りをうろちょろソワソワと!同情ですか!?同情するなら金を、ぐれっ!」
「おーおー言うようになったじゃねーか名前チャンよォ」
「うるひゃい!」

がっしりと顎から頬にかけて坂田さんの手に掴まれて情けない喋り方しか出てず、凄んでもヘラヘラしたまんまの坂田さんの脛を思いっきり蹴ってやった。

「オイ」
「なんですか」

涙目で脛を抑える坂田さんにざまあみろと内心呟いて歩き出せば、付いてくる足音。
足は大江戸スーパーに向かっているので、だんだん街を行き交う人々の姿が増えてきた。そうだ、たまご切らしてたんだった。

「どんな奴だったんだよ」
「?」
「オメーの兄貴だよ」
「え……えぇ?」

思わず振り返ってしまった。あのやる気の無い瞳と視線がぶつかる。
人が行き交う道のど真ん中で、鼻をほじくる坂田さんと、語彙力を失った私が立ち止まる。どういうこと?

「あんまり昔の話はしたかねェけどよ、業とは戦友であって、戦時中はある意味随分世話になった。けど俺ァほとんど戦場でトチ狂ったように先陣突っ切って行くアイツしか知らねェわけよ」

坂田さんは鼻の中からブツを見つけると、それを指で弾いてどこかへ飛ばした。それはなかなか高価そうなコートを見に纏った天人にくっついた。しかし本人は気付いてない。

「あの日オメーがあんなにも穏やかな表情で墓前にいっからよ。もしかしたら俺らには知らねェ違ェ表情があんのかもしれねェわけだろ」
「そ、れは…」

遠い昔に私に優しく微笑んでくれる兄さんと、血を浴びて恐ろしく微笑む兄さんの姿が過ぎる。坂田さんは分かったのだろうか?

「別になんだっていい、好きな食いモンや好きなAV女優とかよ。なんかあるだろ?今度墓前にAV持ってってやっから」
「に、兄さんはAV見ませんから!!」
「くはっ、喰いつき様やべー」

そうやってちょっと子供の様に笑う坂田さんに心が救われた気がした。血狂いの業なんて恐ろしい鬼に対してではなくて、純粋にただ深山業というただ1人の人間に興味を持ってくれたことが素直に嬉しくて私は照れ隠しに坂田さんの鳩尾にパンチを決めてしまった。

どしゃりと顔を青くして跪く坂田さんに、私は流石に謝るのである。 …たまご、1パックで手を打ってもらおう。


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