今日は色んなお客様が見えました…アレ作文?
◼︎
「辻斬り、ですか?」
いつものパン屋にて。店前の腰掛けに座る黒い隊服を着た栗毛のあの人のそばに牛乳を置いた。いや、別にウチ甘味処でもなんでもないんだけどね。
パンを買ってくれた人が其処で食べるっていうなら、何かしら差し出すシステムやってます。
「気をつけなせェ。何も成人した黒髪の女が狙われるらしいでさァ」
「はぁ…気をつけます」
はぐり、と彼は黒ゴマが乗ったぷっくりとしたキツネ色のあんぱんを頬張った。私もここのあんぱんが好きだ。上がる時に買って帰ろうかな。
「というか、仕事中じゃ無いんですか総一郎君」
「オイ貧乳、総悟でさァ。おっと!自然に街並みに馴染みながらパトロール。これも大事な仕事ですぜィ」
「…チッ」
空かさずお盆を振り下ろしたが、それよりも沖田さんの動きの方が早く、私は舌打ちをした。
「ま、この店じゃァ辻斬りより暴力店員に注意ってところですかねィ」
「あ!土方さんだー」
「げ!」
「いないよバーカ」
「てんめェっ」
土方さんの名前を出してみれば沖田さんはヤバ、と言いたげな表情になった。そんな沖田さんに白い影。
「パン屋の店員口説いてナニする気ですかァー?総一郎くーん」
「万事屋の旦那ですかィ」
坂田さんだ。沖田さんに肩を組んでニマニマ気色悪い笑みを零している。
「口説くもナニも、ただ親切に忠告しにきただけでさァ」
「あん?忠告だ?」
「辻斬りですよ旦那。巷で話題になってるのはご存知でしょうに。ヤツの狙う相手は成人した黒髪の女…」
「じゃ、お前にコレやるわ」
ぽふ、と私の頭に乗せられたのは銀色のふさふさのカツラ。どっから持ってきたアンタ。これだから二次元は。あ、これメタ発言?
安っぽい作りの其れを手に取り、坂田さんに殴り返した。沖田さんは持っていたあんぱんの最後と一口を口の中に放り入れた。
「ま、こんだけ防衛能力があれば心配いらなさそうですねィ。じゃ、失礼しやす」
ひらりと隊服を翻して沖田さんはパン屋を後にした。そのままなんとなくその背を見送ると土方さんを見つけたらしく、何のためらいもなくバズーカをぶっ放した。悲しいかな、バズーカ砲に見慣れてきたよ。
「んで?坂田さんは?買い物ですか?」
「んだよ、呼び方戻ってんじゃねェよ」
「あ、天パさんでしたねすみません」
「ホント、素直じゃねェーのな。そんなに銀さんって呼ぶのが照れ…「銀さんは何をお買い求めに?」……買いモン以外で来ちゃワリィのかよ。買わなきゃ客じゃねェってか?」
「別にそんなこと言ってませんよ」
「銀っさァアアアアアん!!!」
「!」
パン屋の前で火花を散らしていると上空から降ってきた声に私たちは上を見上げた。こないだのあの人だ。
さか…銀さんは何のためらいもなく腰から木刀を抜き出すと、そのまま女の人の額に向かって振り下ろした。宛らバッティングの如し。女の人は無様に地面に落ちた。
「あーパン屋よりもパチ屋な気分だわ。じゃーな名前チャン」
「買わないなら二度と来ないで下さい無職が」
こちらに背を向けて掌をひらひらと降って行ってしまった銀さん。マジで何しにきたんだか。
というか、この人どうすんの?とりあえず割れたメガネは危険なので外して、木刀で赤くなった額に濡れタオルを乗せた。
「アイタタタ!全く、ホント照れ屋さんなんだから銀さんったら」
「いや、私銀さん違う」
「んな!!!なんなのよ!私百合はダメだからね!!…でも銀さんが好きなら考えるけど…っ!」
「気持ち悪!」
ガッと肩を掴まれて頬を赤くされたかと思えば私を銀さんだと思ってたらしく、速攻で否定すればバッと離れた。動きが人間じゃないな…。
私から割れた眼鏡をひったくると、割れたまんまのそれを再度かけてこちらを指さした。
「貴方!!銀さんとどういう関係なの!?」
「……は?」
―――――
「なにこのくるみパン!!美味しいじゃないのよ!!なんなのよ!」
「……(褒めてんのかよくわかんない人だな…)」
「ふわふわのパン生地にカリッとアクセントで入ったくるみ!パン生地は甘すぎないしくるみは香ばしいし!まるで私と銀さんみたいじゃないのよォォオ!!」
「(うわぁ、最後よく分かんないけどすんごい食レポまでしてくれてる…)」
長居をするつもりなのか、パンを一つお買い上げしてくれて、表の腰掛けに腰を下ろした美女さん。
そういえば、名前知らない。
「あの、苗字名前と言います。貴方は…?」
「お見知りおきしなさい!私が銀さんの未来の花嫁!猿飛あやめよ!」
「あ、彼女さんなんですね」
「か…!彼女なんて…っ!」
「(なぜそこで照れる)」
銀さんの彼女と名乗ったあやめさん(猿飛さんと言ったらなんか怒られたので)は、照れながら何故かくるみパンをひと千切りくれた。
ふーん、この人が銀さんの彼女さんか…。なんか先ほどの様子から見て想像はできなかったが、あぁ見えて仲良くしているってことなのだろうか。
なんだか落ち着かない心臓は、きっと綺麗な女の人を見て落ち着かないからだと…思う。
「名前。改めて聞くけど、貴方、銀さんとどういう関係なのよ」
「(いきなり名前呼び捨て)…どう…って言われましても…」
よく考えたら分からない。友達と呼べるほどの関係でもなさそうだし…。
ていうか、先日の階段での一件見てたっぽいし、ここは深い関係がないアピールしておいた方が良いのかもしれない…。修羅場は嫌いだ。
「ただの…ただのバイトの常連客…ですかね?」
「ふうん…こないだも銭湯帰りに銀さんが貴方を家まで届けてたから、そのまま連れ込む気かと思って気が気じゃなかったわ」
「よ、よく見ていらっしゃるんで…」
「ただの」を強調すればあやめさんは花が咲いたように笑った。うん、恋愛シュミレーションゲームで正しい回答ができたパターンだ。
ただ、先日の階段の一件といい銭湯帰りの一件といい…、この人千里眼かなんか持っているのか?逆に怖い。
「なーんだ、てっきり銀さんったら別の女に手を出して私の懐の深さを窺ってるのかと思っちゃったわ…。…それはそれで興奮するけどォォォォ!!!」
身体をうねうねをくねらせてあやめさんは銀さんへの愛を放送規制がかかる単語をつらつら述べて語った。
ちょっと待て、ここパン屋の前だぞ。
「邪魔したわね。あと、ここのくるみパン気に入ったからまた来るわ」
「あ、どうも…」
最後にピシっと私を指指してあやめさんは姿を消した。何者だあの人…。
―――――
「見つけたよ名前チャンンンン…」
この時私は影からこちらをじっくりと眺めている双眼に気づかなかった。
後日それに悩まされることになろうとも、この時はまだ思わなかった。
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