名前だけで人を判断するのは良くない(前編)
◼︎
「で?どんなご依頼で?」
その日は珍しくウチに仕事の依頼が入った。
事務所兼居間のソファに座るのは高級着物にフレンチブルドックを抱えたマダム・ブル。
纏わりつくキツい香水の匂いに顔を少しだけ顰めながら、ぱっつぁんは手早くお茶を差し出す。オイオイ客にそんな顔見せんじゃねーよ、なんてぱっつぁんを睨んだら「アンタもだよ」と口パクで言われた。
ちげーって、これがいつもの銀さんの仕事モードの顔だっつーの。
「ウチの旦那が夜な夜な若い女とワンチャンに繰り出しているらしいのよ。現場抑えてくれないかしら」
「…まぁ、旦那の気持ちも分からなくはねェよ。どっちがフレンチブルかわかんねェ女よりも若い女とワンチャンに繰り出した方がぶべらっ」
「銀さん…それアンタが悪いですよ…」
「そのワンちゃん…旦那の行き先に心辺りあんのかよ?」
「えぇ。場所はもうわかっているの。クラブモエモエよ。旦那が設立したクラブなの」
「ネーミングから旦那の趣向が見えてくるんだけど気のせい?」
「旦那の趣向には口出さなくていいわ。とにかく現場を押さえてほしいの」
「はいはいっと。クラブモエモエね。旦那の名前は?」
「楊枝茂枝雄よ」
「……ヨウジモエオさんね」
俺とぱっつぁんは顔を引きつり上げた。
―――――
「ただいまヨー。神楽様帰ったネ」
「あー…そうかー、神楽かァ…うーん…」
「何人の顔みて難しい顔するネ。レディに失礼アルヨ。なんか仕事でも入ったネ?」
「おー。旦那の浮気調査よ」
デスク前で写真と睨めっこしていると神楽が定春の散歩から帰ってきた。ソファーでは新八が数枚の紙を眺めている。
「どうするんですか?銀さん」
「そうさなァ…。神楽は髪色がなァ…」
「なんの話ネ?」
「依頼人の旦那さんの浮気現場を差し押さえるにあたって、旦那さん好みの女の子を用意するのが一番だと思ったんだけど、女の子にそんな危ない目に合わせるわけには行かないし、神楽ちゃんだと旦那さん好みから外れちゃうんだよね」
「頗る失礼極まりない話ネ。んで、その好みの女の条件は何アル」
「これ」
新八が神楽に渡した紙には、旦那好みの女の用紙が書かれていて、神楽はそれを読み上げる。
「身長が155センチ体重は44キロ以下、黒髪ストレートロング、二重の仏頂面…何を!私ほぼコンプリートするアルよ!!!髪なんてヅラ被れば行けるネ」
「クラブが相当身体チェックが厳しーんだとよ。ヅラなんざ被ったら引っぺがしされる」
「むう…」
「姉上は連れていくの嫌…というか髪色・長さ・身長ともに対象外ですし…。他に黒髪の方なんて…」
「あ」
「心当たりあるんですか?」
「ま、一応聞いてみっか」
ダメで元々で俺はある一人の人物のところへ足を運ぶことにした。
―――――
「…は?旦那の浮気現場の差し押さえる…?」
焼きたてパンを補充中に三人組のお客さんが入店したかと思えば、それはいつもの万事屋の方々で。
急に「お前体重いくつ?」なんて銀さんがデリカシーのかけらもないこと急に言い出したため、トングで刺してやろうかと思ったのだが、新八君も申し訳なさそうに隣に立っているものだから何やら困りごとの様だった。
店長と奥さんに少しだけお話しさせてもらう許可を頂き、3人分のお茶を用意して外に出た。
そうしたら浮気現場の差し押さえの手伝いをしてくれなんて言われたわけである。
「そ。名前チャンが適役かなーって思ってお願いしたいですけどー」
「ちなみに…その旦那さんの好みってなんですか?」
「これなんですけど…」
新八君が気まずそうに差し出してきた紙に目を通す。
「身長が155センチ体重は44キロ以下、黒髪ストレートロング、二重の仏頂面…」
「名前なら適役ネ!体重はいくつヨ?」
「いや…答えるとでもお思「42か43とかだろ?」…はい?」
「43か?」
「なんで銀さんが答えるんですか…」
「だって俺こないだコイツおぶったし」
「ちょ…どういう関係ですか!?」
「ししし新八君あのね!こここないだすまいるでちょっと飲みすぎちゃってね!そそそそんで!」
「あぁ、そういうことですね。いや、そんな焦って誤解解こうとしなくても大丈夫なので…」
「名前、43キロなんネ?」
「…ハイ」
なんなんだよ。私が何したっていうんだよ。年頃の娘が体重暴露とかもう生きていける気がしないわ。
「オメーの腕っぷしは信用できるし、俺らも何かしらの形で店にいっから。じゃ、今晩よろしく」
「は!?今晩ですか!?」
「うほー!報酬たんまり貰うネー!肉ー!」
「名前さん本当にすみません…。生活費が本当に苦しくて、一刻も早く収入を得たいんです…」
「あ、そうなんだ…。いや、私で良ければ協力するよ…」
「名前さんに危害が出ないように僕たち近くにいますんで…!すみませんが、よろしくお願いします」
「うん…じゃぁ、また後で…」
私は仲良く並んで歩く3人の背中を見てため息をこぼした。
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