泊まった時に垣間見えるその人の生活って面白い

◼︎


「…う、わ」

その日、バイトから帰ってきて玄関を開けた瞬間に頭を抱えた。もー、何度目だコレ。
銀さんを家に上げてから次の日のことで、玄関にぶちまけられたブツを見てゾッとした。そこにはおびただしい数の写真たち。

その写真はいずれも私が銀さんに押し倒された写真で。
…あれ?この写真よく見たら…


――――ピンポーン


「ッ!!」

玄関先の写真をまじまじと眺めていたら、突然部屋に鳴り響いたインターホンに身体が条件反射で跳ね上がった。びびび、ビックリしてないからね!別に!!

ドアスコープを覗いてみれば、案の定あの銀髪の天パでほっとしてドアを開けた。

「よォ。そろそろ帰ってくる頃合いかと思ってな」
「ど、どうも…」
「あちらさんからなんかアクションはあっ……たみてェだな」

相変わらず気だるそうな表情で現れた銀さんは、顔を出した私の表情を一目見てから、私の手元にある写真を見た。
何かがあったというのはそれだけで十分判断できたに違いない。

「邪魔するぞ」
「は…はい」

回収しきれてない写真をかき集め、銀さんを部屋に招き入れた。
問題の写真を卓袱台に置いて、銀さんは鼻をほじりながら写真を確認。私はそこからちょっと離れたところで縮こまって正座をしていた。

「ふーん、やっぱり反応してきやがったな」
「やっぱり?」
「3つ…ね」
「え?なんですかさっきからマジで」

写真を3つほどにまとめた銀さんは写真を束ねて立ち上がった。

「お前、夜バイト入ってんの?」
「…いえ…今日はもう…」
「じゃぁ、2日か3日くらい泊まれる分、荷物まとめろ」
「…へ?」
「しばらくウチに泊まっとけ」

…は?

「と、泊まる…?」
「予測しかねェが、ヤツを煽った以上今後何を仕掛けてくるかわからねェ。夜中に襲われたらシャレにならねェだろーが」

煽っただの仕掛けだのよく分からない理由をつらつら述べた銀さんは写真を懐に仕舞うと玄関へ向かった。

「わ、わかりました…」

極め付けに「夜中に襲われたらシャレにならない」と言われたらもう頷くしかあるまい。私は銀さんの言う通り、荷物をまとめて部屋を出た。すまん、落ち着いたらまた帰ってくるからな…マイルーム。


―――――


「名前さんこんばんは」
「名前ー!」
「あ…こんばんは二人とも。お邪魔します」

銀さんに言われた通り、ある程度の荷物をまとめ、万事屋へ訪れることになった。
相変わらず愛らしい神楽ちゃんと、爽やかな挨拶をしてくれる新八くんにちょっとだけ胸をほっと撫で下ろした。

「銀さんから話は聞いています。ストーカー被害にあってるんですよね」
「そんなヤツ、私らがぶっ飛ばしてくれるネ!!」
「しばらくウチに泊まらせっからヨロシク」
「ほんと、すみません…。お世話になります」
「そうなんですか!賑やかになりそうですね!…あ!布団用意しないと…!」
「きゃっほー!名前と一杯遊べるアル!」

ドタバタ走り出す新八くんと嬉しそうに私の手を掴んでぴょんぴょん跳ねる神楽ちゃん。
こんなに喜んでくれて嬉しい気もするが、迷惑をかけているのも事実で、リアクションに困っていると、わしゃわしゃと髪を撫ぜられた。

「わぁ!」
「ンな辛気臭ェ顔すんな。煩ェ場所だが、テキトーに寛いどけや」
「ありがとう…ございます」

私の髪をぐちゃぐちゃにした本人、銀さんはフッと笑うと「ジャンプ読みかけだったんだわー。ギンタマンどうなったんだか」と言ってジャンプが置かれたソファーに寝転がった。

「あ、名前さんご飯食べました?」
「そういえば食べてなかったな…」
「じゃぁ、みんなで夜ご飯にしましょうか!」
「私も手伝うよ新八くん!こう見えて料理は結構得意なんだよね」

「伊達にフリーターやってないよ!」と言って、新八くんと台所に一緒に立つことになった。

「そういえば名前さんはストーカーに心当たりっていうのは…?」
「…ないんだよね…それが」
「ですよね。すみません、こんなこと聞いて」
「ううん、大丈夫。犯人見つかったら私も一発殴ってやりたいって思ってるんだよね」
「…名前さんアレでしたもんね。前に銀さんのこと神楽ちゃんのストーカーだと勘違いして回し蹴り食らわせたって言ってましたもんね」
「あぁ、懐かしいね!そうそう!」

みんなと出会った頃の話をして案の定新八くんと大分盛り上がった。
きっと気を利かせて話題を変えてくれたんだろう。彼のその優しさがなんとも身に沁みた。

「なんか良い匂いするアル!!」
「神楽ちゃん、お皿とお箸持って行って」
「ラジャー!!」

匂いにつられてやってきた神楽ちゃんに新八くんはテキパキと持って行ってほしいものを伝えると、一刻も早く食べたい神楽ちゃんはそれに素直に従った。
お皿とお箸を持って駆けだした神楽ちゃんは銀さんとぶつかりそうになったのか「うお!!危ねェだろ!!」と声が聞こえて。それを聞いていたら自然に笑みがこぼれた。

「なんか家族、みたいだね」
「え?…そう、ですね。毎日こんな感じですと、家族みたいなものですね」
「…いいねぇ」
「名前は家族どこにいるアルか?」
「え?」

振り向くと頭に神楽ちゃんがちょこんと立っていた。

「え、と…」

まさかここで自分に話を振られるとは思わなくて、なんて言ったら良いのか戸惑っていると神楽ちゃんの後ろに白い影。
銀さんは鼻ほじくった手で、そのまま神楽ちゃんの頭を撫でやがった。マジかよこの人。

「おーい、銀さん腹減ったんだけどまだ?」
「はいはい。今持っていきますよ。神楽ちゃん、これ持ってって。銀さんはコレお願いします」

気を利かせてくれた、のか…?夕飯をせかす銀さんのおかげで、この話題は自然に打ち切られて、万事屋での初めての夕飯が始まった。


―――――


「――まだ起きてたのかよ」

夕飯も終わり、新八くんはすでに家に帰った。神楽ちゃんと銭湯ぶりに一緒にお風呂に入って髪の毛乾かしながらテレビを見ていたら、神楽ちゃんは膝の上で寝てしまっていて。

「あ、銀さん」
「夜更かしは美容の大敵って言うだろーが」

可愛い天使の寝顔を見ていたら起こすのはちょっと可哀相で、でもちゃんと布団に入って寝てほしい気もして、その葛藤を一人で繰り広げていたら、銀さんがお風呂から上がった。

「あ?何?神楽寝てンの?」
「みたいで…起こすのちょっと可哀相っていうか」
「大丈夫大丈夫。こいつちっとやそっとじゃ起きねェから。貸してみ」

「よっ」と神楽ちゃんの脇に両手を差し込んだ銀さんは、そのまま神楽ちゃんを抱っこをした。…うーん、お兄ちゃんというか、お父さんだな…。

「こんな娘こさえた覚えねェぞ」
「あらま。また口に出てました?」
「おーそりゃもうモロにな」

神楽ちゃんを抱えたまま廊下に出るものだからどこへ行くのだろうと思って追いかけると、玄関の横にある引き戸を開けて、さらにその部屋の奥にある押入れを開いた。
押入れには布団があって、普段から誰かが寝ている痕跡がある。

「まさか…ここで寝て…?」
「おー」
「マジか。リアルドラえもん…」
「本家の方がどら焼き1枚でありとあらゆるモン出してくれんだ。ウチのよりよっぽどいいわ」

押入れの上の段に神楽ちゃんを置くと、おおざっぱに布団をかぶせて襖をさっさと閉めてしまった。ふーん、こりゃ万事屋の日常の面白いもの見たな。そう思いながら居間に戻った。

「飲むか?」
「あ…いただきます」

なんとなくまだ眠れなくて、居間でぼーっとしてテレビを見ていたら銀さんがビール缶を差し出してきた。
それをありがたく受け取って、一口飲む。銀さんは再び横に転がってジャンプを読み始めた。

「あの、銀さん」
「んー?」
「えっと、「煽った」とか言ってましたよね…?どういうことなんです?」
「…あー。オメーの部屋に盗聴器か盗撮カメラがあるかどうか、ヤツに吐かせるために煽った」
「…?」
「ターゲットにゃ親密な相手がいることを見せつけンのが一番だ。怒り狂った奴ァ、全てのカメラから写真を拾って威圧をかけてくるに違いねェ。『俺というものがありながら他の男となんて許さねェ』ってよ」
「はぁ…なるほど…」
「そしたらコレだ。部屋にカメラありますぅって教えてくれただろ?全て見てるぞってアピールさせたがるのがストーカーの心理よ」

ジャンプ捲りながらなんとも探偵らしいセリフが出てきて正直驚いた。頭の回転が良いこと…。

ストーカーの心理を逆手にとってカメラの存在、それから位置を吐き出させたのか…。ぎ、銀さんってすごかったんだ…。
9割方ちゃらんぽらんなところしか見たことが無い銀さんを凝視していると、銀さんは私を見上げてニヤリと笑った。

「何?惚れた?」
「まさか」

即答で銀さんのセリフをはたき落として、ハッと鼻で笑ってビールをぐっと飲みほしてやった。アルコールが良い感じに回ってきたおかげか、迫ってきた眠気にあくびが出た。
テレビではさっきやっていたバラエティー番組は終わっていて、ドラマが始まっていた。

「で?名前チャンいつ寝るの?もう12時だよ?」
「あ、流石にもう寝ます」
「和室と居間どっちがいい?」

和室と居間…。いや、選択肢一個しかないよね。

「まぁ、銀さんは一緒でもいいけ「居間で寝ます」…即答かよ」

部屋の主人が和室で寝てるなら、こっちは居間に決まってるでしょうが。
新八くんが用意してくれた布団を和室から居間へ引っ張ってきて、広げると定春君が寄ってきた。布団の近くに横になってくれて、どうやら一緒に寝てくれるみたいだ。

「じゃ」
「はい。おやすみなさい」

銀さんは和室へ続く襖を閉めた。定春君にも「おやすみ」と言って体を撫でてから、私も布団に潜り込む。





「…名前」

意識を手放そうとした時、誰かに呼ばれた気がした。



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