モブキャラは出しゃばりすぎないように空気読め
◼︎
「名前ちゃんは…っ!名前ちゃんは僕が守る…!!」
「…」
あれ、誰だったっけこの人…。
あの、あのね、知ってるんです。えっと、なんだっけ、どこで出会ったっけこの人。この辺、喉らへんまで出かかってる…!もどかしい…!!!
「さぁ!早く逃げるんだ!!」
「あ!!」
お、思い出したァァアアア!!すまいるのお客さんだ!!
私が熱を出して頭おかしかった時にフリーで入店してきた人だ!この中途半端に後退した頭の毛!間違いない!!
まさか、ストーカーの正体って…!?
ーーいや、そんなの今はどうでも良い。
重要なのはこの状況だ。とにかく助けを呼ばないと…!この人に頼んだ方が…?
「お、お前ェ!!名前ちゃんに手出したらどうなるか分かってんのか!!」
「…ほう、どうなるモンかご教授願いてェもんだな」
なんで煽るの馬鹿ァァアア!!!
目の前のコレもやばいけど!沖田さんも確かにやばそうで心配だけどコレもコレでやばいよね!?
あぁぁあ!いつも土壇場で変なことを考えてしまうこのクセを治したいなぁ!!と思いました。……アレ、作文?
「そこの貴方!万事屋銀ちゃんへ行ってくれませんか…!!」
「で、でも!名前ちゃんを置いていく訳には!」
「銀さんを呼んでください…っ!」
コレが多分一番良案な気がして目の前に立つその人に話しかける。しかしその人は腰にあった刀を抜いた上にとんでもないことをほざいた。
「僕も戦う!」
「〜〜っ!!だから遠回しに足手纏いなんだって言ってるんだよモブキャラァァ!!」
「ヒィィイイ!!」
人の話を聞かないモブキャラに流石にブチ切れると、モブ男は無様に泣いて転がりながら駆け出した。
戦ったら絶対直ぐにおっ死ぬわあの人。素人でも分かるよそれくらい。
「いっ…た」
腹の底から叫んだからか肩がズキリと痛んだ。無意識に肩を押さえつけていた手を離すと、ぬるりとした感覚。鉄臭い匂いに吐き気がした。
「アイツ、何だ?」
モブ男が置いていった刀を手に取り、それを使って立ち上がる。何だって…こっちが聞きたいくらいだけど。
「…ストーカー?」
「あー、まぁ解るよ。なんせオメーは自慢のーー」
「っ」
その後の台詞は聞きたくなくて、私は気が付いたらまた逃げていた。
「逃げんの?まぁ、付き合ってやっても良いけど」
「くっ…!!」
横から聞こえた声に其方を向けば斬りかかってくる刃。咄嗟に持っていた刀で受け止めると、その力に押し負けて飛ばされる。
「キャァァア!」
「人が…!人が飛んできたぞ!!」
「はぁ…っ、はぁっ…」
何の店かも分からないところに転がり込んで、直ぐ様立ち上がって走り出す。走るのだけは止めてはいけないと本能が訴えてきて、それだけで走っていた。
「はぁっ!…はぁっ!!」
でも何処に逃げたら良いか分からない。下手したら周りを巻き込むかもしれない。
人混みは危険、公園は子どもたちがいる可能性があるし、河原までは遠すぎて足が保つか危ういし…!あぁもう!どうすればいい!?
あれこれ思考を巡らすと、死角から猫が飛び出してきて、私は猫ちゃんを避けて盛大にすっ転んだ。
「うぅっ…!!」
「終いか?」
刺された肩から落下して、もう本気で肩が終わったかと思って、思わず涙ぐんだ。
「随分探したんだ。もう少しくらい遊ばせて貰いたかったんだが…これで終いだ」
「…っ!!」
慌てて身体を起こそうとすると、首元に突きつけられた冷たいモノに身体が固まった。
「チッ、真選組が嗅ぎつけてきたか」
もうダメだと諦めかけたその時、パトカーのサイレンが徐々に此方に近づいてくるのが分かった。私を追いかけてきた影は、その音に素早く反応すると細い路地裏に消えて行った。
一気に解けた緊張感に全身の力が抜けて地面に寝転がった。
「名前!?」
パトカーから降り立った黒服の人物に私はほっと安堵の溜息をこぼした。
「ひじ、かたさん…!」
「しっかりしろ!」
地べたに横たえた身体を起こされ、見上げたら、あらこんにちはイケメン副長さん。
いつもクールな表情しか見てないのに珍しく焦った表情が見れた。
「オイ!名前!しっかりしろ!」
「…」
「死ぬんじゃねぇぞ!」
「ひ、土方さん!その方は!?」
「山崎!急患だ。最寄りの病院へ連絡しろ!直ぐに医者に連れて行く」
頭上で土方さんと誰かが喋っているみたいだけも、もうよく分からなかった。取り敢えず暫くは身の安全が確保されそうで、その安心感から急に疲れがどっと押し寄せてきた。
ちょっと疲れたので目を瞑らせてください。
土方さんに身を預けるようにして身体の力をゆっくり抜いた。
「名前!?死ぬな!」
「…」
「名前!!!死ぬなァァアアアア!!」
「うるっせェェエエエ!死なないから黙っててくださいィィイイイ!!」
「ぇぇえええ!?」
肩痛いから叫ばせるなバカヤロー!
「心配なら脈測ってろ!!」面倒臭くなってそれだけ叫ぶと私はもう目を閉ざした。
―――――
「すんませェェエエエん!万事屋銀ちゃんはいらっしゃいますかァアアア!?」
名前さんがバイトに出かけていた時のこと。
僕たち3人は万事屋で朝食兼昼食の素麺を巡ったバトルを繰り広げていたとき、玄関先から聞こえてきた叫び声に僕らの箸がピタリと止まった。
「ど、どうしたんですか?」
戸を開ければそこに居たのは40代くらいの生え際が後退しているおじさんだった。
おじさんはスッと胸一杯に息を吸い込んだ。
「万事屋銀ちゃんはいらっしゃいますかァアアアアア!?」
「うるせェェエエエ!そんなでけェ声出さなくても充分聞こえとるわァァアアアア!!」
後ろの居間の方から銀さんの木刀が飛んできておじさんの額を直撃した。
「で、アンタ誰?」
「あ、申し遅れました。私名前さんのストーカーやらせてもらってます坂時と申します」
「え!?」
所変わって、居間に血だらけのおじさんが深々と頭を下げた。神楽ちゃんは素麺をズルズル啜りながらその後退している生え際をガン見していた。
…え、今なんて!?
「ストーカー!?ていうか、え!?坂時だって!?」
「自ら首を差し出しにくるたァ良い度胸してるネ!!」
神楽ちゃんが素麺を咥えながら坂時さんに飛びついた。ちょ、行儀悪いよ神楽ちゃん!
「おごば!?…違う!違うんですゥゥウウ!!」
「何が違うってんだよ。ていうか坂時って何そのふざけた苗字。名乗るならちょっといっぺん銀さんに殴らせてもらえる?」
「銀ちゃんいっぺんなんて遠慮しなくてヨロシ!」
「な、なんなんだよアンタ達はァァアアアア!」
自己紹介の一言で2人の襲撃に遭う坂時さんに僕は不思議と同情心が湧かず、良いタイミングとばかりに空いた素麺へと手を伸ばした。
「名前さんが大変なんです!!!助けてください!」
「は?」
「名前が大変なのはオメーにストーキングされてるからだロ。生え際大分後退してるネ。頭大丈夫かクソジジイ」
「神楽ちゃんもうそれくらいにしといたら?なんかもうさすがに可哀想になってきたよ僕」
「うるせェェエエエ!俺はこの頭に誇りを持っとるわァァアアアア!!」
神楽ちゃんに大事な毛を鷲掴みにされた坂時さんはもう殴られすぎて顔の原型を留めていなかった。
「って、そうじゃない!名前さんが刺されたんです!」
「「「!」」」
この人は今「刺された」と言った。刺されたって、名前さんが?誰に?刺すってストーカーがやることじゃ?
僕らよりもイチ早くその言葉に反応した銀さんは坂時さんの胸倉を掴み上げた。
その反動で素麺がぶち撒けられたけれど、誰も気にも止めなかった。
「あァ!?どういうことだ!簡潔に話せ!3秒で話せ!!」
「ばっ、バイト先に急に刃物を持った男が現れてんです!逃げた名前さんを男が刀で刺して…!いや!3秒って無理ありますよぉお!」
「…なんだオメーその腰…刀持ってたんだろ?なんでそこに納まるモン納まってねェんだ!まさか刀とアイツをその場所に置いてきたってか!」
「ひっ、ヒィイイイ!す、すみません!!名前さんが!名前さんが貴方を呼べと…!」
「…チッ」
「銀さん!」
珍しく激昂した銀さんは坂時さんを乱暴に手放すと、立て掛けてあった木刀と机の上にあったヘルメットを手に取って玄関に向かい始めた。
僕と神楽ちゃんはその銀さんの背中を追い掛けると銀さんは玄関先で僕らに振り向いた。
「新八ィ!神楽ァ!今から重大な任務を任す!!あいつの素性を徹底的にして絞り出せ!」
「は、はいィィイイイ!!」
「了解ネ銀ちゃん!!」
銀さんはニッと笑い、玄関を開けると駆け出した。
頼みましたよ銀さん…!
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