過去は変わらないから今やれる事をやる
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「兄貴が妹に向かって“殺してやる”なんて…死んでも言うんじゃねェよバカヤロー!!」
「はは…それ死神代行が主人公のセリフだから…」
「なんで此処に」「何しに来たの」なんて台詞よりも、真っ先にその言葉が出た。久保帯人先生の許可取ってんのかよ。絶対取ってないよね。もうなんなのこの人。
「…何しに来たの銀さん」
「ねぇ、ちょ、待って。今銀さん決まってる所だからさ。もうちょっと黙っててもらえながふっ!!」
「お前が黙れやァア!てか、死神代行の主人公に謝れ!!」
銀さんの顎を殴る。シリアスモードな空気に変な空気ぶっ混んでくるな。ほんと調子狂う。
そしてうっかり叫んだら意外に傷口に響いた。
「いたたたた」
「ハイハイ、死にかけても口はようさん動く名前さん失礼しますよっと」
「わ!」
身体が宙に浮き、行き場の無くした手は無意識に目の前の着物を掴んでいた。その直後に銀さんは後ろへ飛び、先ほど居た場所の方から地面が抉れる音が聞こえて、其方を見た。
どうやらあの人が斬りかかりに来たのを銀さんが咄嗟に避けたみたいで。
「…っあぶねーなオイ!こちとら怪我人抱えてんだぞ!!どこ見てんだてめー!」
「オメー誰だ?なんかどっかで見たことあんだよな、その胸糞わりィ死んだ魚の目みてェな男」
「…アララ、そんだけ覚えておいて俺のこと記憶に無いかね、業さんよォ」
「…!……そうか、思い出したわ。そのふざけた天パ。…銀時、久しぶりだな」
「ぎ、銀さん…!危ないから…!」
「テメーはテメーの心配してろバヤカロー」
「ぃだっ!!?」
あの人から離れた場所にゆっくりと降ろされ、銀さんは私の額にデコピンをしていった。しかもかなり重くて痛いやつ。
額を抑え痛みに悶える私に満足したらしい天パドSは腰にある木刀を手に取り立ち上がった。
「…そいつのこと、頼む」
「えぇ」
「さ、さっちゃんさん!?」
後ろから聞こえた声に振り向くと、そこにはさっちゃんさん。手際よく腕の傷を何処からか取り出した包帯で巻いていく。
な、なんで、どうしてここに…!
「うおらァァアアア!!」
「!」
銀さんがあの人の方に向かって駆け出した。
「ーー白夜叉と言われただけのことはあるなァ?まだ腕っ節は衰えてねェか?」
「オイオイ、喋りすぎて舌噛んでも知らねェぞ!」
元攘夷志士同士だからか、私よりもまともにあの人を相手にできる銀さんに、私は自分の無力さを思い知らされた気がした。
「銀さん!刀を!刀を折って!!」
「…チッ!余計なことを」
今の私にできることは、それしかない。
ーーお願い、あの人を、業兄さんを止めて…!
私の声が届いたのか、銀さんは一瞬の隙を突くと、あの人が持っていた刀を真っ二つに叩き壊した。
「…ぐぁっ…!!」
「…はぁ…はぁっ…!!」
あの人はやや間があって苦しみだし、地面に倒れる。折れた刀から禍々しい気配が消えたような気がした。
完全に動かなくなった兄さんの姿を見ると、銀さんはこちらへと歩み寄る。
「名前」
目の前にしゃがみ込んだ銀さんは、私の手を取ると、ゆっくりと私の手を解く。いつのまにか拳をきつく握りしめていたらしく、手が真っ白になっていた。
「歩けるか」
「っ!」
力強く頷くと、銀さんが私を立ち上がらせてくれた。業兄さんの側まで連れて行ってくれて、ゆっくり座り込む。
倒れた身体を抱き起こし、何年振りかにしっかり見た業兄さんの顔は、穏やかに眠っているように見えた。
「…これで良かったのかよ」
「…分からない…。でもこれしかなかったと思う…」
兄さんの頬を撫でると、瞼がピクリとと動き、目が開かれた。あの深い焦茶色の瞳がやや宙を彷徨ってから、此方を見つめた。
「…名前…?」
「!」
「名前…」
「ご、業兄…さん?」
恐る恐る尋ねれば、力なくふと笑った。あぁ、兄さんだ。私はホッとした。
「…悪かったな…随分メーワク…かけちまった」
「兄さん…ッ!」
「約束…、覚えててくれて…ありがとうな…。お前は…俺の自慢の…最高の妹だ」
「…ッ!」
「銀時…」
「!」
「名前を……、頼む」
「オメーが守らんでどうするよ。俺だけじゃ手に追えねェよこんなじゃじゃ馬娘」
銀さんがそう答えると、兄さんはまた小さく笑って目を閉ざした。もう二度と目が醒めることは無いだろうけど、不思議と涙は出なかった。
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