荷物は一人より二人で持とう

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「いってーなコンチクショー」

銀さんはぶっきら棒にそう言い放って、ベッド脇のパイプイスにどっかり腰掛けた。錆びた鉄パイプがギシリと悲鳴を上げた。

朝方、銀さんが呼んだ真選組のパトカーに連れられて入院先の病院に戻れば、病院抜け出すわ怪我が増えているわで主治医さんと看護師さんにこっ酷く叱られ、何故か銀さんがやたらボコボコにされた。

「治す側の人間が傷作ってくれちゃって…何考えてんだかあのクソジジイ共」

私は不意に右手側にある窓に意識が向いた。
締め切った窓の向こうには雲一つない秋空が目一杯に広がっていた。それは憎たらしいくらい清々しい空で、兄さんの魂は今どの辺にいるんだろう、なんてらしくないことを考えた。

あの後、兄さんの遺体は暫く真選組で保管することになった。一応犯罪者と攘夷志士という事で、処分、対応については追って近藤局長から教えてもらうことになっている。

「今度こそ抜け出すんじゃねーぞ馬鹿女」
「いたっ」

「人の話聞いてんのかコノヤロー」なんて言葉が聞こえたと思ったら、にゅっと私の顔の前に手が伸びてきて、ビシッと指で額を弾かれた。

再入院後、再び充てがわれた部屋は4階で、まぁ、そんな予定もないのだが、ベッドシーツで伝っても降りれない高さだった。
前科あるから警戒するのも分かるけど、前よりボロボロな身体で動けるわけないのに用心な事で。

「じゃ、俺ァけーるからな」
「さっさと帰れ帰れ」

看護師さんも主治医も退室し、残りは銀さんだけになった空間。
彼も無傷という訳ではなく、頬にガーゼや腕には包帯が巻かれていた。まぁ、どちらかというと妖刀との戦いの時より、主治医たちにボコボコにされて増えた怪我の方が多い気もしなくない。

退院したらなんかお詫びしないとな…。

「次はガキ共連れてくるわ」

そう言って銀さんはベッド周りのカーテンを閉めると、ブーツをカツカツ鳴らして出入り口へ。
やや間があって、戸が開かれるとパタンと戸が閉まった音が聞こえた。ようやく1人になった時間に短い溜息を吐いた。

「(全部、終わったんだ…)」

ベッドの横にある窓をまた見た。
窓枠の端っこに見えるのは桜の木だろうか。葉は殆ど落ちていて、何枚かが必死に枝先にしがみ付いていたが、秋風が其れをいとも簡単に切り離してしまった。

同時に私の頭の中の何かがプツンと切れた。鼻の奥がツンとして、視界がみるみるうちにぼやけていく。

「…っ……ぐずっ……」

恐怖、安堵、悲しみ、怒り、どれから来る涙なのか、全てから来る涙なのかは、今の私には分からなかった。

「…うぅっ…!!!」


ーー死ぬのが怖かった。

ーー生きててホッとした。

ーー兄さんが居なくなってしまった。

ーー妖刀さえ無ければこんなことには。

ありとあらゆる感情が頭の中をぐるぐるぐるぐると駆け巡る。まるで迷路に迷い込んで出れなくなった子どもになったような気分だ。寂しい。苦しい。助けて。と叫びたかった。
私は包帯まみれの腕を口元に当てて、声を押し殺して泣いた。

「…兄さん…!!」



突然カーテンが荒々しく開かれる音がして、私は顔を上げる間もなく何かに包まれた。

「……え、…」
「…ちっせー身体で全部背負い込みすぎんだよ。俺にも荷物分けろや」
「ぎ、ん…」

私を包み込むあの甘い香りの持ち主はそう言った。

相変わらず止まらない涙は、銀さんのその一言で違う種類に生まれ変わった気がして。
私の心の中を蝕んでいた真っ黒い何かが、目から出てきて銀さんの白い着流しにぽたぽたと。まるで毒気を抜かれるようなそんな不思議な感覚だった。

「がえっだんじゃ、ながっだんですが…っ」
「ンな俺よりも死んだ魚みてーな目ェしたヤツほっとけるかってんだコノヤロー」
「うぅ…っ」

力強いけど、不思議と痛くない力でぎゅっと抱きすくめられて、言葉に詰まった。頭を支えている手が、軽く優しくポンポン、と叩かれた。

「…今な、銀さんの男前な胸、レンタルサービスしてっから黙って借りとけ」
「…ははっ、…こんなイチゴミルク臭いやつの…何処が男前なんだか」

私の頭の上には銀さんの顎が乗っているのか、銀さんが喋るたびに其処がガクガクと動いた。頭が動かなくて、私はそのまま力を抜いて目の前にある銀さんの胸に身を預けた。

「…っ、わぁあああああっ!!」


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