お酒飲んだ後の眠気ってどうにもならない
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「ずびば、ぜん…、もう、む、りです…」
ニヤニヤしているだろう天パの顔を思い浮かべながら目を閉ざした。
「暴力女が酒弱いとかベタすぎね?定番すぎるだろオメー」
「…う、るさい」
えぇ、そうですとも。お酒弱いくせにキャバ嬢やってんなって思うでしょうけど、お酒弱いですよ私。なんて減らず口を叩く気力もなく、数分前にソファーから降りて座面に突っ伏したまま微動だにできずにおります。
松平様は私が途中で酔いが回ってからさっさと他の席へ移動してしまっていた。
お酌するどころかお酌されまくりで全然お酌出来なかった。アレ?お酌言いすぎて訳わかんなくなってきた。
「おい、多串くーん。酔っ払い連れて帰ってあげてよー」
「誰が多串だ馬鹿野郎。生憎俺たちゃとっつぁんの護衛で此処を離れる訳にゃいかねーんだ。っつーことで仕事依頼変更だ。テメーが連れて帰れ万事屋。そんで二度とそのツラ見せんな」
「オイオイ、善良な市民の安全より幕府の犬のお世話かよ。税金泥棒も良いとこだぜ」
多串さんと坂田さんが何やら揉めているようだ。ていうかなんかマヨネーズ臭いな…どっから臭ってんだ。
「あらあら。名前ちゃんお酒弱いのに飲ませたのね銀さん」
「いやいや、俺じゃねーし。あのオッサンだから」
「か弱い女の子酔わせてナニしようとしてるのかしら?」
「だから、ナニって何?どいつもこいつも俺のことなんだと思ってんの?」
見えない頭上でのやり取りはもはや頭に入らず、そのまま転げ落ちるようにして意識を手放した。
―――――
体感時間的にはそれからすぐのこと。ゆらゆら揺れる体と冷んやりした風が顔をかすめて目が覚めた。視界に入るのはくるんくるんの銀髪と、外の景色。
「へ?」
「起きたか。おじょーさん、おうちはどこですかー?」
「え」
「とりあえずゴリラ女にあっちって聞いてんだけど」
「え!?ど、ういう!?」
よいしょ、と言って坂田さんが私を持ち直した。そこでようやくおんぶされている気がついた。
酒によって鈍くなった頭を必死に回転させるが、何故こうなったのか一切分からない。無意識に目の前のくりんくりんの毛を鷲掴みにした。
「いだだだだ!!髪引っこ抜くな!!振り落とすぞ!!」
「なんで、さかた、さん」
「ハイハイ、坂田さんですよー。名前チャンをお家に届ける任務を遂行中でーす」
「…お、りますから」
「…歩けんの?」
「たぶん」と言えば案の定素直に下ろしてくれた坂田さん。地面に足を降ろして自分の足で踏ん張るが、身体があっちこっちフラフラと揺れる。
バランス感覚とやらが完全に抜け落ちてどっか行ってしまったようだ。
「あーあー。分かった分かった。名前チャン、ほれ」
「?」
坂田さんの方を見るとこちらに背を向けてしゃがみ込んでいた。乗れ、という事で良いのだろうか。情けないが、此処はもうこれしか手段がなさそうで。
坂田さんの肩に手を乗せ、身を預けることにした。ふわりと足が宙に浮いた。
「おねがいしま、す」
「で、どっちいけば良いの?」
「あっち…」
「どいつもこいつもあっちそっち言いやがって。家に着きてェならナビぐらいしろや」
ぶつくさ言いながらも私が指差した方に足を進める坂田さん。
もうすぐ冬が来るのだろうか、秋風に乗ったほんの少し冷たい空気は、坂田さんの柔軟剤の匂いと織り混じって私の鼻孔をくすぐった。
密着した部分が温かく、一定のペースで揺れる背中で私は気がついたら目を閉ざしていた。
―――――
「おい、どの辺曲がるかちゃんと言えよお前」
すっかり酔っ払った暴力女を送ることになったのは良いが、背中に応答しても返事がない。オイオイオイオイ。どうすりゃいんだよコレ。
あっちって言われて足を進めてみたはいいものの、曲がれの指示がねェから聞いてみたら、どうやら寝ているらしい。
「起きろコラァ。オメーんち何処よ」
「くー」
「いや、クーじゃないだろクーじゃ」
あーもーめんどくせェな。俺もねみィから頭の思考が徐々に鈍くなり始めてきた。早くコイツ帰して早いとこ帰りてェまじで。
仕方ないからゴリラ女に渡されたコイツの鞄の中から住所が分かるものを物色し、住所が書かれた光熱費の請求書と今流行りのゆるキャラストラップがついた家の鍵らしきものを見つけた。
「…ここか」
着いたのは二階建てのアパート。この辺りだと万事屋から原チャで10分ぐらいってとこか。
階段を登って一番奥の角部屋のドアに鍵穴に差し込めば軽い音を立てて開いた。おし、ビンゴ。
「オイ、入るからな。オメーが起きねーのがわりィからな。不法侵入とか騒ぐんじゃねーぞコノヤロー」
「ぐー」
「グーじゃねェよグーじゃ」
もうちっとやそっと揺らしたぐらいじゃ起きない程深い眠りについているらしい。
コイツの草履を脱がして、自分のブーツも脱ぎ、手探りで玄関らへんの照明スイッチを探して廊下に明かりが灯る。
それから直感に任せて廊下の突き当たりの戸を開けば案の定そこにベッド。とりあえずコイツを転がすと、背中から重みと温もりが消えた。
「一人暮らし、ね」
ぐーすか眠るコイツを見下ろしてから、顔を上げた。まぁ、女の部屋って感じだわ。適度に生活感のある部屋だった。
「おーおー。やるねェ名前チャンよー」
ベッドの横にある小さな卓袱台の上。そこにあった写真立てには名前チャンと仲良く並んでピースサインを繰り出す男とのツーショット。
こんな暴力女に彼氏いたのかよ。鉢合わせしなくてまじよかった。銀さん修羅場っちゃうところだったわマジ。
「ナニコレ。木刀?」
壁に立て掛けるようにあったのが刀袋。女の部屋にこんなモノがあることに少し違和感を感じつつも、何の気なしにそれを引っ掴んで見ると、その重みにすげェ胸騒ぎがした。
懐かしいようなその感覚に、そんな訳ないだろうと中を取り出してみればやっぱり俺の勘は当たった。
「オイオイ…日本刀じゃねェの…」
今のご時世、廃刀令の制度で刀を持ってる人間なんざ相当なワケありに違いない。刀身をよく見れば刃が潰されてはいるが、研げば間違いなく斬れる。
「…はぁー。ナニ抱えてンだか知らねェけどよ、とりあえず営業しといてやらァ」
相変わらずぐーすか眠るコイツ枕元に名刺を置いて、鼻を摘んでやれば寝苦しそうに呻くもんだから、思わず笑いが出た。
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