会いたくない時に会っちゃったりするもんで

◼︎


「…くうっ…鯖味噌!?」

ハッとして目が覚めた。いや、鯖味噌ってナニ?謎の自分の寝言に呆れながら身体を起こすと頭がズキリと痛んだ。

「うぅっ…頭痛い…」

その痛みが昨晩の出来事を思い出させた。

「わ、わたし!!坂田さんにおぶされて…え!?どうなった!?」

慌てて自分の格好を確認するも、衣服に乱れ無し。うん、多分、無事。汚されてない、多分。

それから玄関に向かうと、鍵はしっかり閉じられていて、マフマフちゃんのストラップがついた鍵が落ちていた。玄関ポストから入れて此処に落ちたのか…。
ていうことは、坂田さん家に上がった…?ベッドまで運んでくれたってこと…?うわ、間抜けな寝顔と汚い部屋を見られたに違いない。最悪だ。

「なんで寝ちゃったの私…」

やっちまったーとボヤきながらベッドに座り直すと、またもや頭がズキンと痛んだ。あぁ、これ二日酔いか。
基本的にすまいるの勤務時間は日を跨ぐことが多いため、翌日はバイト入れないようにしているのでお陰で今日は何も予定はない。

「あれ?これ…」

ベッドの枕元にあった一枚の名刺には『万事屋の銀ちゃん』の文字。やっぱりあの人ここまで…。情けないやら恥ずかしいやらでもう一度ベッドに伏せた。


―――――


「あれ、名前さんいらっしゃい。どうしたんですか?」

ここに来るのは二度目か。と腹を括ってインターホンを押せば、出迎えてくれたのはお妙ちゃんの弟、新八君だった。あの天パじゃなくてちょっとだけホッとした。
顔見せたらまたいつぞやのすまいるで対面したときの様にプククとするだろう。あー、あの顔を思い出すだけで腹が立つ。

「こんにちは新八君…。坂田さん、いますか?」
「あぁ、銀さんなら今仕事に行ってますよ。うーん、何時に帰って来るのかなあの人…」
「あぁ!大丈夫!!昨日ちょっとお世話になったから、これ持ってきたんだ。良かったらみんなで食べてね」
「そうなんですか?あの、良かったら上がっていきませんか?」
「おおおお構いなく!では、私はこれで!!」
「行っちゃった…」

そう言って新八君に持っていた菓子折りを押し付けて来た道を戻る。うんよしよし、不在なのは仕方ない。誠意だけでも置いて帰ろう。
サワリと靡く秋風に、私はある場所へ向かうことにした。久々の何もない一日だし、たまにはいいかって。


―――――


「…来たよ、兄さん」

一つのお墓を目の前にして、ついそんな言葉が出てきた。100円均一で買ったお線香に火を着けて墓前の香炉皿に乗せ、手を合わせた。
今日はなんとなくフラって寄っただけだから、仏花用意できなくてごめんね。

「おや?名前じゃないかい」
「ん?お登勢さ……」

手を合わせてる最中に聞こえたお登勢さんの声にぱっと顔を上げると身体が固まった。
お登勢さんの後ろにいる天パ野郎は間違いなく坂田さん。アレレーナンデココニイルノー。死んだ魚のような目が私を見てニタリと歪んだ。

「アレレー?めちゃめちゃお酒が弱いベタベタ設定名前チャンじゃん」
「その節はどうもでした!!なんで坂田さんこんなところに?」
「仕事よ仕事」

お登勢さんが咥えていたタバコを離し、ふぅと空に向かって息を吐ききった。
それから坂田さんを見ると、手には桶やブラシ。枯れた仏花を持っていることから、どうやらあちらさんも墓参り後のようだ。お登勢さんは何度か墓参りで顔を合わせたことがある。だから前に墓友と答えた。

「墓掃除の手伝いさせに連れてきたんだよ。家賃の支払いもたんまり滞らせてくれてるからね」
「うるせーなクソババア」
「あぁ、そういうこと」
「アンタのとこもこいつに掃除させようかい?」

新八君が仕事って言ってたのはこの事か。ふと、今朝の名刺を思い出す。本当になんでもやるんだな、万事屋銀ちゃん。

「ううん、今は良いかな。また今度、ね」

お登勢さんは何を思ったのか私がお線香を置いたお墓を見てから坂田さんに顎で指示を出した。

「…銀時、ついでだ。ここの仏花、枯れたヤツだけでも回収していきな。そしたら今日の仕事は終わりだよ」
「え」
「へいへい」

坂田さんは持っていた柄杓や桶を地面に置くと、「失礼すんぞ」と言って枯れた仏花を抜き始めた。

「じゃ、あたしゃもう先に帰ってるわ」
「え」
「あとは若いモン同士で仲良くしてな」
「何言ってんですか。私は若いですけどこのオッサンをカウントしないでくださいよ」
「オイオイ、銀さんまだ20代だかんね?」

いらない気遣いしてくれたお登勢さんの背を見送ってから、枯れた仏花を束ねる坂田さんを見上げる。
この人、よく見ると意外と背が高いんだなぁ。背といえばまた昨日の記憶がフラッシュバック。同時に坂田さんの小豆色の瞳がこちらに向いて、不覚にもドキリとした。

「何?」
「い、いや。なんでもない、です」
「あそ」

柄杓やら桶を手に取ると、スタスタ歩き始めた坂田さん。しかし、数歩歩いて止まったところで私の方を振り返った。
じっと見つめられて、今度は私が口を開いた。

「なんですか?」
「帰らねーの?」
「あ」

一緒に帰るつもりだったのか。墓前を見直して、特に片付けるところもなさそうだったので坂田さんの方に足を進めた。すると彼も一緒に足を動かし始めた。本当、何考えてるかわからない人。

「お前さ」
「はい?」
「意外に着痩せするタイプ?」
「さて、ちょっと準備運動させてくださいね?」

手首をプラプラ振ってから拳に力を込めた。


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