路地裏ってなんかもう漢字からしてアダルトな感じ

◼︎


「よ、よう名前」

パン屋のバイトを終えて勝手口から出てきた名前をいつもの風を装いながら声かける。やべぇ、ちょっと吃っちまった。

「銀さん…?」
「え!?あ!?なに!?はい銀さんだよ!」
「…なんかテンションおかしくないですか?」
「いやいやいや!普通!マジで至って元気!なんならここで名前チャン襲ってもいいくらい!」
「いやいやいやおかしいだろ絶対」

ジトリと睨む名前に思わず狼狽える。やべぇ、ポケットにある例のブツの存在感が気になってうまく話せねェ。

「あ、あのさ、名前」
「はい」
「お前、香水へーきなタイプ?」
「へ?」

あークソ、そのキョトン顔可愛いんですけどお前。思ってたのと違うようなことを言われたのだろう、「香水か」と小さく呟いた。チクショーその柔らかそうな唇まじで噛みつきてェんだけど。

「モノによりますけど…どうしてですか?」
「これ、大丈夫か嗅いでくんね?」
「…はぁ?」

ポケットからヅラにもらった例の小さな瓶を取り出して、フタを開けて名前に近づける。嗅ぐだけで効果抜群って話だ。下手に飲ませるよかよっぽど扱いやすい。

そしてここが正念場だ。ここで怪しまれて嗅いでもらえねぇのがマズい。頼む、嗅げ、嗅ぐんだ。嗅ぐんだジョー!じゃなくて名前!

…よし!嗅いだ!

「あ、」
「いたァァアアア!!万事屋さァァアアアん!!」
「ぶべらっ!!!」
「ぎ、銀さん!?」

突然突進してきた黒い影に俺の体は吹っ飛ばされた。もう気分はさながらアレ、五郎丸にど突かれたようなアレ。え?俺の体繋がってる?また魂抜けてねェよな?

「あんときの貴方!万事屋だったのね!お願い!私の依頼きい、て…!」

倒れた俺の上に跨ってんのは何時ぞや見かけたゴリラカップルのメスの方。待て、跨っていいのは名前だけだ!やめろ!!白昼堂々と往来の場で発情すなぐげふ!!メスゴリラに胸倉を圧迫されて、い、息が…っ!!

「…ねぇ、万事屋さん…。キス、していい?」
「ーーっはァァアアア!?」

色っぽい雰囲気醸し出しながらモジモジとゴリ美は極厚の唇を突き出して俺に迫ってきた。

待て待て待て待て!!

咄嗟に突っぱねて起き上がると自分の胸元に濡れた感触と僅かにガラスの破片がパラパラ落ちた。

マジでか。

「マジでかァァアアア!!!」
「ちょっ、銀さん!?ぎゃあ!」
「アーン待ってぇ万事屋さーん!!」

名前を肩に担いで逃げる。地響きのような足音で迫るゴリ美から姿を隠すように路地裏に身を潜めた。

「な、なんなんですか急に、」
「しっ!」

ゴリ美の足音が近づいてくるもんだから、名前をしっかり抱き寄せて喋らせないよう口元を手で覆う。最悪だ。よりによってあのゴリラに嗅がれるたァ。

「…もう、行ったか…?」

息を潜めていると名前から嗅ぎ慣れない香りが漂ってきた。…いや、違ェなコレ…薬の匂いじゃねェか!え、てことは、なに?もしかして俺ら、2人してスイッチ入るってこと!?

そんな中で名前が俺の手の中で小さな溜息をつき、急にコイツの唇の場所を意識し始める。
…あー、なんかもう、薬のせいか自分の意思かどっちかなんてわかんねェ。

「名前」

っつーことで、流れに身を任せさせてもらうわ。


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