10話完結の筈が収集つかなくなってきたのは内緒

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「万事屋さんどこー!?」と地響きとともに近くまでやってくるゴリラの女の子から逃げるようにして路地裏に隠れた私と銀さん。

「な、なんなんですか急に、」
「しっ!」

事情を説明してもらおうと話しかけると大きな手で口を塞がれた。
ただでさえ狭い路地裏、2人で密着している状態なのに口まで塞がれたらそりゃもう心臓が騒がないわけがない。

「…もう、行ったか…?」

後ろから私を抱きしめるような体勢でいる銀さんがそろりと小さく呟いた。
馬鹿みたいに騒ぐ心臓、落ち着け!今ときめく必要ないだろ!

「?」

寿限無でも唱えようと小さく溜息を吐くと、口元にある銀さんの手が強張った。え、まさか見つかったのかと銀さんを見上げると、あの小豆色の瞳とばっちり目があった。え、なんで私の方?

「名前」
「え」
「キスし……するわ」

は?と言いかけた言葉は銀さんの唇によって封じられてしまった。突然の行為に私の思考が完全に抜け落ちる。

あれ、いま、キス、してる?

「んっ、」

優しく触れるようなキスは、次第に啄ばむようなキスへと変わり、突然すぎたそれに私の思考はなかなか追いつかず。顔を離したくても首の後ろに手が添えられていて身動きも取れない。

されるがままに銀さんのキスを受け止めていたが、段々体に力が入らなくなってきて目の前の着流しを咄嗟に掴む。

「っ、ん、…ぎん…っ!」

次第に息苦しくなってきて酸素を取り込もうと少し口を開けたら今度はぬるりと熱いものが捻じ込められる。それが銀さんの舌なのはすぐわかって、心臓がぎゅう、と一層苦しくなった。

「…ふ、はぁ!!」
「…ワリ、」
「な、なんで、きゅうにまた…!」
「急じゃねーよ別に…ずっと、言ってたじゃねェか」
「…っ」

ゆらりと銀さんの瞳が揺れて、その色っぽさに思わず顔に熱が集まった。

「お前なー…ほんと可愛すぎてしんどいわ」
「何言っ、」

なんだか吹っ切れたらしい銀さんはまた私にキス。今度は軽くて短いのをひとつ。

「ていうか、お前…キスしたくならねェの?」
「はい?」
「?」

怪訝そうな表情で銀さんに尋ねられて私も困惑する。いや、その、したくないかしたいかって言えば確かに後者だけども…、え?違うよ、ムラムラみたいなそういうやつじゃないよ?どういうこと?何が聞きたいんだこの天パ。

あ、やばい、鼻がムズムズする。銀さんから顔を背けて着物の裾で口元を覆う。

「ーーはっくしゅん!!!」
「え、まさか、」
「なんなんですか本当にさっきから…」
「お前花粉症とか…言うなよ?もうドベタ路線やめようぜ?」
「言いますけど、花粉症ですが何か」
「鼻詰まってる?」
「詰まってますけど何か…?って診察か」

「ア゛ァァァァア」と項垂れる銀さんからするりと離れる。さっきからなんなんだこの人は。

「銀時くーん!遂にやったか!?遂にやったか!?」
「か、桂さん!?」
「名前殿、久しいな」

どこからともなくひょっこりと現れた桂さん。ぎくりと体がこわばる。ま、まさか見られたとか…と一瞬思ったけれど、存外けろりとしたいつもの様子だったので先ほどのキスは見ていないようだ。

見られてたら恥ずかしくて死んでたところだ。ふう、と小さな溜息を吐いたのだが、その後の爆弾発言に自分の耳を疑った。

「どうだ。我ら攘夷志士特製のチューしたくなる、」
「ばっか!おまっ!本気で頭のネジ落ちたのな!!」
「ネジではないヅラだ」
「その話じゃねェよ!それもそれでやべーけど!!」
「万事屋さん!?ここにいたのねェェエエ!?」
「あぁぁぁ!なんつータイミングだぁぁ!!」

ゴリラの女の子は銀さんの姿を見つけると狭い路地裏を突っ切って駆け抜けてきた。このままだと私も潰されそうで、3人同時に路地裏を駆け抜ける。

「なんなんですか!本当になんなんですか!!私全然関係ないですよね!?」
「あーそうだよ!どっちかっつーとあっちが関係無いよ!!無理矢理コマ割いて割り込んできたクセに制御不能になったモブ以下のモブだよ!!」
「うむ、だがしかしあのツラは主役級だな。いや、ツラじゃない。桂だ」
「なんの話ししてんだてめーは!!薬の切らし方教えろ!!」
「…えっ、薬!?」

走りながら話ししているとはいえ、その単語を聞き逃すはずがなかった。え、薬って言った今!?2人を見遣ればギクリと強張った。

…まさか。

「銀時がな、ずっと名前殿とキスしたいうるさくてだぶべら」

顔面を潰された桂さんがすっ転んでゴリラの餌食になった。

「…一発殴らせほしかったな」
「名前ちゃん名前ちゃん、自分の拳よく見て。もう殴ってたよね?ヅラそれで転んで餌食になったから」

今日の銀さんの挙動不審っぷりに納得がいった。なんかもうとりあえず恥ずかしい話は置いておこう。後ろのゴリラの殺気がすごくてそれどころじゃない。

だがしかし、ピンチの時に限って更にピンチが重なるというもので。新たな大ピンチが目の前に立ち塞がった。


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