町を守るお巡りさん達の様子が気になって

◼︎


「…お待たせいたしましたー…天ぷら蕎麦です…」
「「…おー…」」

ここでバイトを始めて半年くらい経つけれど…こんなに空気が重いことってあんの?
カウンター席の空席の左に座る白髪のお兄さんと反対側の右に座る黒服のお兄さんに両方同じ蕎麦を置く。

まさかと思ったでしょう?えぇそうですよ、そのまさかですとも!
よりによって今日!!ハゲ店長が遅番の時に限って!!!店開きと一緒に入店してきたのがまさかの銀さんと土方さんが同時にご来店よ!いや、同時と言ったらアレだけども、2分差で銀さんの方が早かったけども。

なんだよこの2人、やっぱりなんだかんだで仲良かったじゃん。原作通り仲良しじゃん。
フロア側からキッチン側に逃げ込んで、カウンター越しに二人の様子をチラリ伺う。私が見るよりも早く聞こえてきたのは、チューブからぶちゅぶちゅ出ている音と、ぼちゃんぼちゃんと何かを落としている音。

「オイオイ、さっきから不快音出すのやめてくんね?スゲー気分悪ィんだ…けど」
「テメーこそ味覚イカれすぎるだろ。蕎麦にあんこってお前…なんつーもん作ってんだよ。味覚トチ狂いすぎだろ」
「…あれ?多串くん…?君いつキャラ変したの?」
「あん?」

銀さんが引きつった顔をしながら土方さんの手元を指さすものだから、私もちょっと背伸びしてカウンター越しに覗き込んでみる。

…あれ?真っ白かと思ったら………赤い…。

土方さんは自分の手元に握られている赤いブツを見ると、短い溜息を吐いて額に手を当てた。

「…マジか」
「マヨラーからケチャラーにシフトチェンジ?まぁ、だからと言って別に人気投票1位取れるワケじゃないと思うけどー?」
「黙れ名誉毀損でしょっ引くぞコルァ」
「えっと、マヨネーズならありますけど…要りますか?」
「…いや、構わねェ。このまま食う」

蕎麦にケチャップか…うん、まぁ、……大丈夫しょ。
冷蔵庫にあったマヨネーズを持って、土方さんの横に置いといてあげた。そのマヨネーズを一目見遣った土方さんは私を見上げた。

「おいお前…蕎麦屋で働いてるくらいだから知ってんのか。大晦日に蕎麦食う理由」
「えっと…いろいろありますけど、よく聞くのは厄を翌年に持ち越さない…ですかね」
「それは日常生活でも効果あんのか」
「…はい?」

土方さんの意図が見えずに混乱していると、2席離れたところに座っていた銀さんが器をを持ち上げて蕎麦を啜り始めた。

「なに?マヨラーからケチャラーなのが厄かなんかのせいって言いたいワケ?」
「近頃ウチの連中の様子がおかしーんだよ」

それはそれはかなり本気で参ったようで。土方さんは小さい溜息を吐くと蕎麦を口に運んだ。同時に表の戸がカラリと開いた。

挨拶をしようと顔を上げたところで固まった。…はて、今日は何の日だ?

「すいやせーん、ウチのニコチンやろ…あ、土方さんこんなところにいやしたか」
「オイ…今ニコチン野郎って言いかけただろうテメー」
「なんですかい、ザキの言ってたこと間に受けたんで?千切れやすい蕎麦で厄を落とそうと」
「うるせー。あと総悟、チャック開いてんぞ」
「あり?おっかしーな…今日はチャック固ェやつチョイスしたんですけどねィ」

チャック全開で颯爽と登場してくれた沖田君は土方さんに言われてようやくファスナーを上げた。おいおい一瞬ピンクの文字でドSなんて文字見えたんだけど…。

「あれ?あんた…こないだ旦那と一緒に屯所に来た…」
「あ…お久しぶり?ですね」

おーう、意外に沖田君に顔覚えてもらえてた。

「相変わらずあの趣味わりィフィギュア集めてんで?」
「…!!…えーと、実はあれっきりオタ活を卒業しようかなーなんて…!アハハ」

その設定めっさ忘れてたァァアアア!にやにや笑いながらからかってくる沖田君。
え、もうさすがに分かってるよね?あれの持ち主がわたしじゃないことくらい。これがドSか。



「−−−オタ活をやめる必要なんてないでござるよお姉さん」



土方さんがどんぶりとカウンターにドンと音を立てて置いた。もう食べ終わったらしい。

「こんな身近にブレザームーンのヒロインにクリソツな女性がいるなんてびっくりでござる!ぜひ近々コスプレしてほしいでござるよ!!2人でコスプレのインスタグラマーでも目指さないか!?」
「…っハァアアアア!?」

ほんのり顔を赤らめてめっちゃモジモジしながらこっちに迫りよる土方さん。いやいやいや、そんな馬鹿な。可能性としてはアレの可能性があるが、…そんな突然にある?初めてお目にかかるアレに動揺を隠しきれない私。

とととととトッシーさん!?これ、あの、まさか、噂のトッシー!?

「う、わっ!?」
「危ない!」

あまりにもすごい迫力で迫ってくるトッシーに後ずさりしたら、後ろにある座敷に脚が当たって後ろに倒れた。間一髪のところを土方さんが手を掴んでくれて、転ぶのは免れた。が、そのままぐっと引き寄せられて、土方さんとの距離が縮まった。

「お名前を伺ってもよろしいでござるか…?」

あばばばばば。中身はトッシーなんだけども、中身はトッシーなんだけども外見が土方さんで声はトッシーで。あれ?いや、体は土方さんのものだから声も土方さんなのか?あれ、これどうなってる?ともかく端正な顔が近づいてきて目のやりどころに困って視界がぐるぐると泳ぐ。

「んぐっ」
「はいはい、茶番はその辺にしとけ。流石においたがすぎるぜトッシー」

甘い小豆の匂いが私の口元を覆ったかと思えば、土方さんは私から身を引いた。少し後ろを振り向いたら、こちらを見下ろす銀さん。ふぉ!なにこのアングル!!超かっこいい!!

「む、坂田氏…いたのでござったか」
「ずっとテメーの横で蕎麦食ってたわ」
「これは失礼いたし…た…」
「ぎゃぁ!?」
「うぉお!?」

ドミノ倒しのごとく土方さんは私の方に倒れ込んできて、私はそのまま後ろに倒れて、私の後ろにいた銀さんも巻き込んで3人とも地べたに寝転んだ。

「…なにやってんでィ。蕎麦屋でコントですかィ」

土方さんと銀さんに挟まれてめちゃくちゃ美味しい場面なはずなのだが、沖田くんのセリフに逆に羞恥心がこみ上げてきた。
慌てて退こうとしても土方さんは私の上でビクともしない。しかしそこでようやく気が付いた。土方さん、めちゃくちゃ熱い。

「…あれ!?ひ、土方さん…熱ありますか!?」
「3日前からずっとこんな調子でィ。近藤さんは巡回中にどこぞのメスゴリラの返り討ちに遭って当たり所悪くして入院だし、土方コノヤローはずっとこんな調子だし、ザキはこしあんのあんぱんが見つからねェってうるせェし…」

沖田くんは土方さんの両脇に手を突っ込んで体を持ち上げると、座敷の上に転がした。ちょっと扱い雑だけども助かった…慌てて銀さんに上から退く。

「沖田くん沖田くん。チャック」
「…あり?」

銀さんに指摘された沖田くんは「おっかしーなァ」と言いながらまたファスナーを上げた。
嫌な予感がして座敷に寝転ぶ土方さんの様子をよく観察する。手を見たところでわずかに視えた瘴気に目が留まった。これ…霊絡みじゃ…。

「…こんなデケー荷物ここにあったら確実に営業妨害だろ。さっさと持ち帰ってくんね?」
「すいやせんね、表にパトカーあるんで、今叩き起こして連れて帰りやす」

沖田くんがパトカーと言ったあたりだろうか、そのタイミングで店前で衝突音が響いた。慌てて店前に飛び出すと、真選組のパトカーに篭屋の車が追突していた。

「何してんでィこのヤロー」と篭屋の運転手を引きずり降ろしている沖田くんを私と銀さんはただただ見守ることしかできなくて。

「…ねぇ、名前ちゃんさ…こういうのなんか既視感ない…?」
「…残念ですが…とってもあります」



横の銀さんを見上げたら、顔が引きつっていた。きっと私もそうだ。



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