大変なことになってたので助けたのに

◼︎


『我の前で…許さぬぞ…!許さぬぞォォオ!!』
「「!!」」

聞こえてきた突然の叫び声。そして土方さんの部屋から突然の突風。
思わず目を瞑って次に目を開いたときには着物を着た女が部屋の中で宙に浮いていた。

「うぉぉおおお!?いきなり本体出たァァアアア!!?」

さっと私を盾にして隠れる銀さんにがっしりしがみつかれる。あ、幽霊が苦手ってマジなんだ。

『許さぬ…!我の前で男女がイチャコラするだなんて…!断固許さぬぞ貴様らァァアア!!』
「ふざけんな何の話だよコノヤロー!!」

何故か初っ端からキレ気味の幽霊のセリフがなんだか想像の右斜め上だったものだから、後ろから銀さんが思わず突っ込む。幽霊女は土方さんの側に降り立つ。

『立ち上がれ!』
「「え?」」

寝転がっていた土方さんが幽霊女の声に反応して立ち上がった。

『ゆけ!愛しの伊東四朗!!』
「うわわっ…!」
「愛しいと十四郎で伊藤四朗が生まれたァァアア!!」

土方さんは枕元に備わっていた刀を手に取って私に飛び掛かってきた。

「ふんがァアア!!」

早すぎるその動きに身動き取れずに固まってしまっていたところを、咄嗟に目の前に滑り込んできた銀さんが腰にある木刀で土方さんの刀を受け止めた。

「ぎ、銀さん!」
「憑代!いるんだろ!?お前はソイツを探して来い!!」
「…っ分かりました!」

私がいても絶対足手まといだ。

立ちあがってあの幽霊女の憑代を探しに行く。微かに視える瘴気を伝って屯所内を駆けた。

銀さんと土方さんの戦いが思った以上に派手なのか、屯所の人たちはそちらを足を進めているおかげで人気が少ない。動きやすくて助かった!

「−−この部屋!」

開いたところは資料室だった。

ここ部外者禁止なところだよね…だけどそうも言っていられず、だんだん濃くなる瘴気を追いかけて有る場所で足を止めた。
「落としもの」と書かれた紙が貼ってある籠に、「縁結び」と書かれた赤いお守りが一つ。瘴気は間違いなくここから出ている。私はそれを手に取って駆けだした。

『なぜじゃ!なぜ我は死ななければならなかったのじゃ!』
「うっせーな!重ェ女は好かれねェぞ!!」
『黙れ小僧!!』
「くっそ…!」
「万事屋の旦那ァ!副長ォ!もうやめましょうぜ!!」
「バカかよく見ろ!アイツが斬りかかってきてんだよ!俺ァいつでも止めれるわ!」

土方さんの部屋へ向かえば相変わらず刀を交えている2人の姿があった。2人に真選組の人たちが動きを止めさせようと奮闘している。

「――な、何が望みなんですか!!」

思わず飛び出た一言。

幽霊女はもちろん、屯所の隊士たちの視線が集まる。
こんな大人数を前にして幽霊としゃべることが初めてで、異質として見られる目が怖いと一瞬感じた。でも、そうも言っていられない…。

『!…貴様は…』
「あなたはこの縁結びのお守りの持ち主でしたよね!不幸があってこの世を立ち去らなければならなくなってしまった!」
『なぜそれを…!』
「教えて下さい!何を想い遺したんですか?私が叶えることはできませんか…!」

私はじっと彼女を見つめた。この誠意があの幽霊女に伝わるだろうか。伝わってほしい気持ちでいっぱいだった。

『我は…ただ欲しかったんじゃ…。たった一人の大切な人生の伴侶が…ただそれだけなんじゃ…』

幽霊女はポツリポツリと語り始めた。

『子どもの頃から恋焦がれていたんじゃ…我と共に人生を歩んでくれる伴侶と結ばれることを…。なのに…不慮の事故などで絶命…!』

そうか、それで成仏ができなかったのか…。しかし理由は分かったところで解決策がわからない…。

『その縁結びに憑りついたところをこの伊藤四朗が拾ってくれたときはそれはそれは運命の出会いと思ったのじゃ!我を優しく拾い上げ、念願のお持ち帰りまでされ…!持ち帰られたその先には至る場所に良い男がおるではないか!!』
「……?」

……アレ?

『特にあの栗毛の可愛らしいお目目をした青年、あやつは素晴らしい。見た目がパーフェクトじゃ。魂が強力なドSオーラを纏っているゆえ、頑張ってもチャックを下して町中の女が寄りつかないようにするだけで手一杯だったのう』
「……?」

……アレレレ?

「ここらでは局長と呼ばれているゴリラは目障りだったか。あの世に送っても良かったんじゃが、まぁこの伊藤四朗が陶酔している人物らしいから入院止まりにさせたのじゃ」
「…えっと…つまり…」
「そう!我の望みはただ一つ!イケメンパラダイス帝国を築き…ぎゃぁぁあああああ!!!」
「「ふざっけんなァァアアアア!!!」」

私と銀さんの声が重なった。銀さんは土方さんを庭の灌木に吹っ飛ばし、私はお守りを地べたに叩きつけて思いきり塩を叩きつけた。
それだけでは気が済まないので、お守りの上に山塩を作る。

「ぎゃぁぁぁああ!小娘ェェェエエ!やめろォォオ!!」
「さすがに自業自得でしょ。救えません。万事屋さん、今回私の手に負えないパターンです」
「え、そんなことあんの?」

じたばたと中を這いつくばる幽霊女に対する同情心はとうにどこかへ消えました。残念。これダメだ、あの人に強制的に成仏してもらおう。

『ーーなんてお美しい方だ…』
『「「え?」」』

にゅっと姿を現したのは男の幽霊。あれ、どっから出てきたこの人。
憑代を探すと、籠を持って屯所前の門を潜ったばかりのザキと目が合った。ザキに駆け寄って籠の中を見せてもらうと、男性の持ち物っぽいそれが入っていた。その中に一層瘴気が纏わり付いている物がある。

「あの、山崎さんコレは…?」
「あぁ、さっき交通事故があったらしくてその男性の持ち物です。しばらくうちで保管することになりまして…」

それからもう一度後ろを振り返る。

『あぁ…なんて美しい雪のような女性なのだ…よければ…』
『…我はどうやら一目ぼれをしたようじゃ…そなた…』
『『君の…名前は?』』
「ヤメロォオオ!!新海誠に監督に失礼だろーが!!」

これ、まさかとは思うけど成仏フラグ?なんかキラキラし始めてますけど。

『お主ら、随分迷惑かけてしまったのう。すまなかった。御詫びに主ら以外の者の記憶を数分間書き換えてやろう』
「…え?」
『幽霊としゃべれる人間なんぞ知られとうないじゃろ』
「!」
「おー、その方が良いねェ。気が利く女は将来良い嫁さんになるぜアンタ」
『フフ、礼を言う』

2人の幽霊カップルは星粒となって消え去った。小さな星粒は私と銀さん以外の隊士たちに吸い込まれていった。

「…あれ?今まで俺たち何してた…?」
「うお!副長倒れてるぞ!!」
「副長ォォオオ!しっかり!!」

あれほど異質な目で私を見ていた隊士たちが何事もなかったかのように庭の灌木に突っ伏している土方さんに向かって駆け寄りだした。

「…おわっ…た?」
「お疲れさん」
「っはぁー…」

急に押し寄せてきた疲労感にへなへなへたり込む。「あー良かったー」と思わず声を零すと銀さんが隣にしゃがみ込んで頭をポンポンと撫でてくれた。いやいやいやいや、たった今ヒットポイント0になったよね。メンタルが瀕死の重体だよこれ。

へたり込む私のそばに一人の足音が近づいてきた。

「…救急箱、遅くなっちまいやしたが、要りますかィ?」
「おー総一郎くん。ありがたく借りるとすっか」

客室に案内してもらって自分で足の手当。
銀さんが手伝うとか言ってたけど、やってもらったら私のメンタルが保てない。足からも鼻からも血だらけになりそうだったから丁重にお断りしておいた。
沖田くんは縁側をぼーっとしながら眺め、御煎餅を手にぽりぽり食べている。ふと傍で寝転がっていた銀さんが立ち上がった。

「俺便所行ってくるわ」
「はい。行ってらっしゃいませ」

幸いそんなに足の切り傷は深い物ではなかったみたいで。消毒液が染みたけどもさっとガーゼを貼ってテープで留めた。この足で屯所を走り回ったのだから、今更痛みどうこうというのはあまりない。

「救急箱、ありがとうございました」

救急箱の中身を戻して相変わらずぼーっとしている沖田くんにお礼を伝えた。

「ソレ、そこのタンスの上に置いてもらえやせんか?」
「あ、わかりました」

沖田くんの指示通りの場所に救急箱を置いて振り返ったところで驚いた。


「アンタ、何モンでィ」
「…!!」

瞳孔がかっ開いた沖田くんの目がすぐ傍に迫っていた。


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