そうしてまた今日も面倒ごと首を突っ込んだり、

◼︎


「じゃ、また来るよ大将に名前ちゃん」
「「ありがとうございましたー!」」

足の怪我はすっかり癒えてまたお店で働けるようになった頃のこと。
私と店長は本日最後のお客さんを見送った。時刻は15時。店長は最後のお客さんのお皿の片付けに入り、私は表の暖簾を降ろした。

「よし、予定通り今日は15時で縁は営業終了!名前ちゃんお疲れ!」
「はい!」
「晩飯、一緒に食ってやれなくて悪かったな」
「たまには良いじゃないですか。旧友と飲み会なんですよね?」
「おー。旧友っつーのか腐れ縁っつーのかなんだか知らねェが…」

店長は今晩は旧友と飲み会だそうで。本日の縁の営業は15時までで終わりとなった。普段夜の部がある日の夕飯はお客さんと一緒に店で食べたり、お店が休みの日は店長とお店で晩御飯を食べたりしているのだが、今日は別々。

さて、今日は晩御飯何にしよう。大江戸スーパーは橋の向こうの所が一番近いかな。店長に一言声をかけて私は店を出た。

空を見ればどんよりとした雲が広がっていた。そういえば、今朝の天気予報夕方から雨って結野アナが言ってた気がする。傘持ってないし、早く買い物済ませないと!

『…うっ、…ぐすっ……うぅっ』
「……」

夕飯はとりあえずアレだな。うん、アレ、スーパー行って割引になってるやつで良いや。うん、そうしよう。アレ、節約にもなるし。

『ぐすっ……』

たまにはアレ、1人で家飲みも良いかもしれない。いつもむさ苦しいおっさんばっかりと晩御飯食べてるしね。さて、携帯でアレ、美味しいお酒の口コミでも調べとこうかな。

『…ひっく……うぅっ…』

…足が止まった。

「……僕、どうかしたの?」

今日はアレ、もう晩御飯はそのへんの屋台で良いや。私は開いた携帯を、お酒の口コミを調べるわけでもなく、そのまま耳に宛てて、川橋の欄干に寄りかかる。

『うぅ…、……え?…お姉ちゃん…僕の姿が視えるの?』
「そ。だから、お姉ちゃん、君が泣いてる理由聞いても良いかな?」

電話に出ているようなそぶりを見せながら、橋のど真ん中で泣いている男の子に話しかける。橋の上を行き交う人をすり抜けさせた男の子は間違いなく向こうの類だろう。

首突っ込み体質な自分の性格は、ほとほと呆れる。ホントどうにもならないらしい。




「ーーっ、はぁっ…!ホントにこの辺なの?」
『うん…だって僕この辺から動けない…』
「もう一踏ん張りってところかあ」

もう一度、目の前の草を掻き分ける。川橋から見下ろしてくる人たちの視線がちょっと痛い気もするが、とりあえずスルーだ。

この子供の幽霊は草太と名乗った。この川で落し物をして、探し物していた所を溺死したという。落とした場所が川というか、川のすぐ側の草むらあたりらしい。なんちゅー場所に落としてくれたんだ君は…。
雲行きが怪しいと思っていた空は、朝見た結野アナの天気予報通り、雨が降り始めてきた。マジか。早いとこ見つけないと。

「…これ!?」
『ううん…違う…』

ばっと手にした物を見せるが、不正解。
今日の晩御飯はおでんとか鍋とかあったかいものにしよう…。自分へのご褒美と言う名の晩御飯を想像して、降りしきる雨の中再度草むらに手を突っ込んだ。

『お姉ちゃん…もう良いよ…見つからないよ…』
「なーに弱気になってるの。大事な物なんでしょ?」
『お姉ちゃん…』

弱気になるくらいなら落とした場所をもう少し絞ってほしいもんだ。
そんなことを考えていると、ふと雨が止んだ。いや、雨は降り続けているんだけど、私の頭上だけ、止んだ。



「おじょーさん、こんな雨ン中、河童探しか?楽しそーだな、オイ」



なるほど、人っていうのは心底驚くと声が出ないらしい。

やや間を空けて後ろを振り向くと、其処には傘を持った銀さん。私に傘を差し出していた。

「よ、万事屋さん!」
「泥だらけじゃねェの名前ちゃん」

銀さんにそう言われて自分の格好を見下ろすと、草履も小袖も、手も泥だらけだ。晩御飯の前にお風呂だなこれは。

「傘、ありがとうございます。もう手遅れなので大丈夫ですよ。万事屋さん濡れちゃいます」
「何?またスタンドの手助けでもしてんの?懲りないねェオメーさんも」
「あはは…ホントですよねー。でも、自分が助けられるって思ったらなんか動いちゃって…どうしようもないですよね!」
「……そーかい」
「!」

フッと優しく笑った銀さんから不意に手が伸びてきて、私はその表情の銀さんに見惚れてしまった。銀さんの親指が私の唇をなぞる。

少しだけざらついた感触がして、銀さんは撫でる行為を何度か繰り返すと、私に顔を近づけた。あ、と身を引こうと思った時にはもう遅かった。

「ちょっ…!」
「じゃ、俺も視えるようになっちまったし、名前ちゃんに倣うとすっか」

唇同士が軽く触れたところで私はさっきの行為が、唇についていた泥を払うためのことであったと気づく。
は、鼻血出てない!?大丈夫か私!?ていうか流れが自然すぎてドキッとしたわ!一瞬恋人同士だったかと錯覚しそうになったわ!!

「ん、オメーか?」
『お兄ちゃん…僕の姿視えるの…?』
「おー。このオネーサンとチューすれば色んなモン見えるようになっちまうんだ。で?何を困って成仏できねェんだ?」
「万事屋さん!私1人でなんとかしますから!」
「ばっか、オメー。こんな雨ん中女の子1人草掻き分けてんの見て放っておけるとでも思ってんの?」
「うぐ…」
「それに…」
「それに…なんですか?」
「テメーにも助けられそうだったんでな。なんか動いちまった」
「あ」

そう言ってニマニマ笑う銀さん。…さっきの私の台詞もろパクり。

「で、何探してンの」

私は諦めて銀さんに見つけて欲しいものを伝えた。

「は?ビー玉だァ?おまっ、この草むらで!?1人で!?はぁ!?」
「山の中に無くしたとか言われるよりはマシかと思ったので…」
「…お人好し…かねェ。…まぁいいや、ビー玉な。とりあえず名前ちゃんはコレ持っとけ」
「え」

私に傘を握らせた銀さんは近くの草むらに身を屈めた。…あれ?ジャンプの主人公にこんなことやらせていいのか…?

いや、ダメだよね!!!

「万事屋さん風邪ひきますよ!」
「だァーいじょうぶ、大丈夫。銀さん丈夫だからマジで」
「髪の毛えらいこっちゃなりますよ!」
「うるせェェエエ!!こんなの雨の日の天パの運命なんだよ!」

うお、やっぱり毛ネタはキレるな。
何言っても取り合ってくれない銀さんに甘えることにして、傘片手に草むらをかき分けた。 そんな銀さんの背中を見てハタリと思い出した。

今…コミックスでいうと何巻くらいになるんだろうか。なんとか篇に突入する前に銀さんが風邪ひいて戦いに支障が出たら…。

思ったよりもヤバいことを銀さんにさせてしまっていることに気づいた私は慌てて泥だらけの手をまた草むらに突っ込んだ。



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