皆とお鍋囲んだりした今までの思い出は

◼︎


「あ、コレじゃねぇの?」

草むらの中から立ち上がった銀さんに、草太と私は近寄った。銀さんの大きな掌に転がされたビー玉は、私が見つけたものよりも透明感があった。(あ、銀さんの運命線みっけ)

『こ、これだぁあ!!』
「マジか」
「すごい!見つかった…!」

半ば心折れかけていた頃、まさかのビー玉発見に私は草太君と思いっきりはしゃいだ。

それから私と銀さん、縛りが解けて動けるようになった草太君の3人で、近所に聞き込みし、草太君本人が眠るお墓を探し出し、墓前にビー玉を置いた。

『ありがとう…!姉ちゃん、兄ちゃん…ホントにありがとう…!』

草太君は出会った時のようにポロポロ涙を流すと、光の粒となって消えた。「キレーなもんだな」と隣で銀さんがぼやいた。私もそう思う。綺麗に消えていく姿を見ると、あぁ、無事送れたんだなぁってほっとするのだ。
だから尚更見捨てられないのかもしれない。

「…溺死した子どもなんです。お兄ちゃんからもらった大事なビー玉を、些細な喧嘩で川に捨てちゃったみたいで…。探し回ってるうちに川で溺れちゃったって」
「…そいつァ浮かばれねェな…」

本当に無事ビー玉が見つかってよかった…。着物は水分を吸ってずっしり重くなってしまっていたが、気がつけば降っていた雨も止んでいた。

「お、結野アナの天気予報外れちまったな」

結野アナの天気予報だと今日は一日中雨模様だった。
空を仰ぎ見る銀さんをなんとなくチラリと横目で見る。湿気で髪の毛がかなり弾けているけど、銀さんは晴れ男なのだろうか?

「よし、けーるぞ名前ちゃん」
「は?」

突然ガシリと泥だらけの手を引っ掴まれて、自然と足が前に出た。

待て、何故だ。どういうことだ。

「早いとこ風呂入んねェと風邪ひくだろ」
「や、あの、私の家こっちなんですけど…」

脚に力を込めて踏ん張ってみると、銀さんもまた私の手を掴んで引く力が強くなって、また一歩前に踏み出る。
うお、ちょ、待て待て待て待て。

「ウチの方がちけーって」
「いやいやいや、絶対私ん家の方が近いですって。大丈夫です、走れば30秒で着くんでマジで」
「いやいやいやいや、そんなはずねェから。ウチの方が走って20秒で着くから」
「いやいやいやいやいや、…ちょっ、この図なんですか?」

例えるなら多分、立ち止まる飼い犬と其れを無理に連れて行こうとする飼い主の図。
いつだかウ◯コしようと気張る定春君を銀さんが踏ん張って連れてそうとしてるヤツじゃないかコレ。

「ち、ちがっ!私気張ってるヤツじゃない!!」
「え!?なに!?なんの話急に!?」


ーーーーーー


結局そのまま私は銀さんの力に逆らえずに万事屋に連れてこられた。

「あ!名前来たア…ル…」
「おかえりなさい銀さん。あと、名前……さん?」

「けーったぞー」と言う銀さんの声に居間の方から神楽ちゃんと新八君が顔を出してきたが、泥だらけの私達の姿を見て呆然として立ち尽くした。
まぁ、そりゃそうだ。2人して泥だらけだもの。

「2人とも…そんな泥だらけで何してたアルか…」
「相撲に決まってんだろ相撲」
「「「…は?」」」

ちょ、それ無理あるんでは…?銀さんはガシガシと頭を掻いて玄関先で泥だらけの着流しを脱ぎはじめた。あらー、銀さんのもう片方の二の腕さんこんにちはー…じゃなくて、そこやめて色気出すの!

「ほら、早く風呂入ってこい。神楽ー、案内してやって。新八ィ、タオルくれる?」
「ハイヨ。名前早く来るネ」
「え」

神楽ちゃんにズルズル引かれて私は何故か万事屋の脱衣所に。なんか私さっきから引っぱられてばっかりなんですけど。
神楽ちゃんが足を止めた先は脱衣所。その向こうにスモークガラスの扉。マジか、原作で見れなかったお風呂場があるんだけど…。

「シャンプーとかは中にあるの好きに使ってヨロシ。服は銀ちゃんに何か借りてくるネ!パンツはそこにドライヤーあるから風呂場で手洗いでもして乾かせヨ」
「あ、うん…ありがとう、ございます」

「タオル後で持ってくるネ」と神楽ちゃんは脱衣所を出ていった。パタン、と閉められた扉をしばらく見つめた。

私、すごいところ来ちゃったんじゃない…?

「ぶェっくしょん!!!」
「!」

居間の方から扉越しに盛大なくしゃみが聞こえてふと我に返った。早く入らないとそろそろマジで銀さん風邪ひくぞコレ…!

大急ぎで着物を脱いで、泥がついた部分を先に丸めるようにして着物を畳み、下着をひっ掴んで風呂場へ直行した。



お風呂上がる頃には神楽ちゃんが脱衣場にタオルと甚平を置いてくれていて、恐らく銀さんのであろう甚平をそれはそれはもう感覚を噛みしめるようにして袖を通した。
なんか動く度にすんごいいい匂いする。これが銀さんの匂いか…。待て落ち着け。血だらけにするつもりか自分。

「す、すみません、お風呂ありがとうございました…」

居間へ向かえば部屋の中がお鍋の匂いで立ち込めていた。長テーブルの上に鍋やら小皿やらお箸を並べている新八君と、インナー姿でソファーに寝転がっている銀さんと、定春君と戯れている神楽ちゃんの姿。これが、万事屋のいつもの光景…かぁ。
ていうか新八君のお母さん感がハンパない。

「そんなのしかなくてわりィな」
「いえ!充分有り難いです…!」
「じゃぁ、俺も入ってくっかな」
「とっとと上がってこいヨ!私腹減ったアル!」

銀さん風邪ひかないと良いんだけど…。パジャマという名の甚平を手に取った銀さんは私と入れ違うようにして居間を出た。

「あ、名前さん、今日はお鍋にしてみました」
「えっと…私も一緒して良いんですか…?」

さっきから色々気になっていたのだ。銀さんがここに連れて来たり、新八君と神楽ちゃんもなんだか私がここに来るのを知っていたような…。
しかも極めつけは取り皿とお箸の数ね。4つ置いてあるんだけど。定春君が箸使ってご飯食べるわけないよね…?

「あれ?銀さんから聞いてないですか?」
「え?」
「名前さんのバイト先の店長さんから電話があったんですよ。今日夕飯付き合えないから、夕飯一緒に食べてほしいって」
「………えぇ!?」

店長ォオオオ!?聞いてないよォオオオオ!?

「うわぁ…申し訳ないですホント…。知ってたら具材買って来てたのに…」
「気にしなくて大丈夫ですよ。昨日下のお登勢さんから野菜一杯貰ってたんです!3人だけじゃ消費しきれなくて傷めるところだったので、名前さん来てくれて助かりました!」
「新八君…!」

なんてできた男の子なんだろうか。弟に欲しい…!
それから数分後には銀さんがお風呂から上がって来て、万事屋の3人と私というハイパー謎なメンツでお夕飯を頂くことに。

お夕飯っていうかなんていうか、鍋をめぐる戦争か?
みんなが箸を落ち着かせたところで神楽ちゃんは白米を頬張りながら話題を切り出した。

「銀ちゃん、名前に何も言わずに相撲してきたアルか?」
「おー。相撲に夢中になってたら言うの忘れてた」
「ていうかどういうノリで相撲なんです?」
「え、えっと、子どもがね、河原で相撲やっててね、混じってたところを万事屋さんもなんかふらって…」
「名前ちゃんよォ、その万事屋さんってここじゃ3人もいるわけだから、別の呼び方にしてくんね?」
「そうですよ名前さん。僕と神楽ちゃんも万事屋ですからね」
「…じゃあ、坂田さん…で」
「おー」

テッテレー名前は万事屋さんから坂田さんに呼び方昇格ー。みたいなナレーションが出てきそうな。



「坂田さん」
「ん?」

食後のお皿洗いを手伝おうとしたら頑なに新八くんに断られてしまって。神楽ちゃんはお風呂に行き、私と銀さんは居間のソファーでテレビを見ていた。私はお礼を言うなら今かなと思って口を開く。

「さっき、2人に相撲って言ってくれてありがとうございます」
「…あぁ…。普段からあぁやって店長に言い訳していろいろ助けてそうだしなお前」
「バレた」

銀さんの予想以上の洞察力にはちょっと驚いた。数日間関わっただけで私と店長の人柄がなんとなく分かってしまったらしい。
さすが主人公…。

「それに、あんまっし広めたくねェんだろ?視えること。こないだはアイツらについ話しちまったが…悪かったな」
「!…いえ、別に知られて困ることでもないので…!ただ、話しても信じてもらえないだろうから話してこなかっただけなので…!」

途端に開く廊下に出る襖。新八くんが手ぬぐいで手を拭きながらこちらへやってきた。

「名前さん、僕もう少ししたら帰ろうと思うんですけど、良かったら家までお送りしましょうか?」
「あ、新八くん」
「いんや、俺が送るわ。悪ィけど俺が帰るまで神楽と待っててくれるか?明日の仕事の話もあるしな」
「わかりました」
「さて、行くか名前ちゃん」
「はい!お願いします」

私はビニール袋に入った自分の泥だらけの着物を手に取り、玄関に向かう銀さんの背を追いかけた。


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