それは呆気なく瞬く間に脆く崩れ落ちた。
◼︎
「(ーーバカだ私)」
何銀さんと仲良くなって浮かれて送ってもらっちゃってるんだ私。万事屋を出て少ししてから今更ながら少し頭を抱えた。
万事屋でお鍋を頂いた後、銀さんに送ってもらう事になったのだが。
「(ーーでも、なんでこんなことになったんだ…?)」
そう、なぜか銀さんと夜道を腕を組んで歩いている。いや、組んでいるのは私ではなく銀さんだ。私は腕を組まれている、という表現の方が正しい。心なしか密着しているところが湿ってる。
…なんか、こう、ジメッとしてる。
「あの、これ、なんですか?」
「あ?名前ちゃんが寂しいと思ってだな」
「いや、なんも…」
なんでこんなにジメッとしてるんだこの人。今日そんなに暑くないぞ。
「…あの、ここら辺で良いですよ。坂田さん帰れなくなると困りますし」
「…名前ちゃんさ、夜もこんな中帰ってんの?」
「こんなって…?…あ、そういえばそのまんまでしたね!」
「いや、別にビビってるわけじゃねーし?」
成る程。忘れてた。
私は銀さんから視線を逸らして周りを見渡した。もうこんな体質になって半年も経つと気にならなくなってしまうのだが、夜は夜でまた幽霊たちがわんさか溢れ出てきている。
銀さんは今視えるモードだったのをすっかり忘れてた。
道理で私も調子良いわけだ。
「えと、元に…戻しましょうか…」
人気が少ないとは言え、こんな道の往来でキスをするわけにもいかず、どこか2人身を隠せる路地裏が無いか探していると、銀さんが腕に力を込めて立ち止まるものだから同時に私も足が止まった。
「さ、坂田さん?」
「……ちょい待ち」
銀さんは私から腕を離して一歩前に出た。右手には既に木刀が握られている。
「なに?名前ちゃん、どっかのお嬢様だったりすんの?」
「へ?」
「お迎えがわんさかいるぜ」
「…!」
銀さんの言葉の意味が分からなくて、銀さんの向こうを覗き見ると、5人の天人達。いや、お迎えって、これ絶対違うって。ちょ、全員の顔よく見てくださいよ、悪い顔してるからコレ。
…なんかピンチな気しかしないんですけど。
「ーーその女を引き渡せ」
「だってよ。お迎え?」
こちらを振り返る銀さんに向かって、必死の形相で顔をブンブンと横に振る。そんなわけ!!
「…だそうだ。残念だが引き渡すワケにゃいかねェな」
「これを見ても、か?」
「ぐぅっ…!!」
天人が後ろから何かを引っ張ってきて、前へと突き出した。それはうめき声を上げて地面へと倒れる。見覚えのある和装姿のハゲに血の気が引いた。
「て、店長…?」
「に、にげろ…名前…銀さん…」
「店長!!!」
何かに弾かれたように店長の元へと駆け出した。店長に飛びつくと同時に視界の片隅で天人が動くのが見えた。慌ててそちらをみやると、天人は腰の鞘から刀を抜き、こちらに向かって真っ直ぐに振り下ろすところだった。
「ーーっ!!」
店長を守るように身を固め、目をぎゅっと瞑った。しかし思ったような衝撃は訪れず、耳には何かがぶつかる衝撃音。
「丸腰の女とジジイに斬りかかるなんざどういう教育受けてきたんだテメーら。もいっぺんかーちゃんの腹からやり直せコノヤロー」
「チッ、邪魔しやがって!!」
私と店長の前に立ちはだかった銀さんは天人の刀を木刀一本で持ちこたえていた。それを薙ぎ払うと次々に天人達が襲いかかり始めた。
その戦いは漫画やアニメで見るよりもずっと迫力があって、その覇気に圧倒されてしまって、私は情けなくもその場から動けずにいた。
それでも店長をなんとか安全な場所に連れて行かなければ。私は店長の身体を支えて立ち上がる。
「女1人振り向かせてェなら正々堂々と1人ずつ来やがれ!!」
「…そうだな。そうさせてもらうか」
「!」
天人の1人が私の方を見やった瞬間。
何か嫌な予感がしたのと同時に、自分の後ろに何者かの気配を感じた。私が振り返るよりも先に体を羽交い締めされ、私は店長から引き離されて身動きが取れなくなった。
「う、わぁ!?」
「名前!!」
「余所見出来るのか?」
「…チィッ!!」
「は、離して…!!」
こんな状況だと絶対銀さんの足手纏いになる。なんとかこの状況を切り抜けようと、私を羽交い締めするヤツの靴を目一杯の力で踏んづけるが、これがビクともしない。
ど、どうすればいい…!?思考が只々焦るばかりで、銀さんの方を見れば銀さんはやっぱり最初の天人達との戦いに苦戦していた。
「…っ!」
もがきながら見えたのは、銀さんの苦しそうな表情。その表情を見て、改めて自分がとんでもないことをしてしまったと、血の気が引いた。
「ーーあーなんか気持ち悪ィなこんちきしょー。頭がクラクラすんだけど」
「ーー…マジでピンピンしてんだけど。例えんなら萎えきった銀さんの銀さんがもう一回立ち上がったぐらいの勢いの…」
あのときのセリフが今になって出てきた。視えすぎによる疲弊が今になって出てきたのかもしれない。もっと早くキスをしていれば…!!今からでも間に合う?いや、間に合わせる。
一旦体を脱力させて、俯く。そして思いっきり後ろに向かって頭を振り上げた。
「こンの…ッ!!」
「ンガァ!?」
多分、今ので後ろのヤツの顔面にクリーンヒットしたに違いない。なんか、ミシッて落とした気がするから、間違いない。うん、中々の石頭で良かった。ちょっと手が緩んだところをすり抜けて走り出す。
間に合え…間に合え…!!
「銀さん!!」
「!…名前…!?」
「こンのクソアマァアア!!」
「うがっ!?」
後ろから髪を引っ掴まれて、そのまま横に張っ倒された。腕や体に走った凄まじい衝撃に視界がグラついた。
ジワリと視界が揺らいで、情けなくも体が震えた。いたい…こわい…。
「ぐ、ぅっ…」
「名前!!」
「早くその女を連れて行け。こちらも片付いたら行く」
「煩わせやがって。早く立て」
「いたっ…!!」
「名前!!…チクショォオオオオ!!」
髪の毛を掴んで無理やり立たされて、天人に半ば引き摺られるようにして銀さんの近くから離された。銀さんの声や刀の音が次第に遠退く。
ーー銀さん、ごめんなさい。ごめんなさい。
謝罪の言葉がひたすら頭の中をぐるぐると回っていて、申し訳なさや痛さ、怖さから涙がこぼれた。
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